映画「
第80回ヴェネツィア国際映画祭に出品された「ほかげ」は、終戦直後の闇市を舞台に、絶望と闇を抱えたまま混沌の中で生きる人々の姿を描く物語。趣里が戦争で家族を失い居酒屋で暮らす女に扮し、塚尾が女と交流を深めていく戦争孤児、河野が若い復員兵、森山が片腕の動かない謎の男を演じた。
連続テレビ小説「ブギウギ」で主演を務めている趣里を含め、本作のメインキャストがそろって登壇するのは本日が初めて。趣里は「ヴェネツィア行きたかったです!」と本音を漏らしつつ「濃密な時間だったので、こうして皆さんにまた会えてうれしい。映画が完成したんだなと実感しました」と初日を迎えた感想を口にする。本作の主人公と「ブギウギ」のヒロイン・鈴子、同じ時代を生きた女を演じたことについては「対照的な役に見えるんですけど、戦争が残したものに苦しめられながら、それでも生きていくんだという1本の筋は同じだと思います」と語った。
現在8歳の塚尾は「映画を観て何か心に残るものがあったらうれしいです」と客席にまっすぐな視線を向ける。そんな塚尾に対して、塚本は「オーディションのときからしっかりしていた。大事な役でこの映画に関わるという責任を持って来てくださったので、『子役だから』じゃなく、ほかの大人と同じように演出して、本人もそれに応えてくれました」と絶賛。「戦争孤児の子供たちは被害者なのに人間扱いされず、大人になってもそのことを言えない人がたくさんいた。未来の子供たちがそういう目に遭わないようにと祈りを込めて作ったので、難しい役でしたけど、塚尾くんが素晴らしく体現してくれてありがたかったです」と続け、感謝のまなざしを塚尾に送った。
役作りについて尋ねられると、森山は「生きることに対する貪欲さや、ある種の健やかさ、“生”をつかむことへのまっすぐさは意識しました」と述懐。河野は「とにかく、なるべく幸せみたいなものを感じないように生活しました。それでも当事者にはなれないんですけど、敬意を持って演じたかったので、復員兵が抱える心の傷について専門家に話を聞いたり、やれることは全部やりました」と真摯に述べた。
2022年の真夏に行われた撮影。現場は和気あいあいとしていたようで、塚尾は「趣里さんたちと駅の名前だけでしりとりをしていました!」と笑顔で伝える。とっさに趣里が「上野?」としりとりを始めると、塚尾も「乃木坂!」と反応して観客を和ませた。また塚本は撮影後の掃除のエピソードを披露。「コンクリートの道に土を敷いて撮影したあと、スタッフもキャストも総出で掃除をしたんですけど、森山さんがすごすぎて……。掃除の様子をiPhoneで撮っていたら、人の隙間からダンプのようなものが近付いてきて、よく見たら森山さんがすごい動きで砂埃を立てていた(笑)。『ほぼダンスですね』と言ったら、『やっぱり無心でやるのがいいんだなあ』とおっしゃっていて。毎日がひたすら修行!」と話し、ダンサーとしても活躍する森山の向上心に感心していた。
最後に趣里は「憧れの塚本映画に出演できて本当にうれしかったです。監督の祈りが1人でも多くの皆さんに届くように願っています」と語りかけ、塚本は「“新しい戦前”という言葉もあるように不安な世の中になっていますが、なんとか自分たちがそういう場に行かないで済むように、実感できるような祈りを込めて作りました。その祈りを俳優さんたちがとにかく全身で表現してくれたのが一番の見どころです」とアピールした。
「ほかげ」は全国で上映中。
※塚本晋也の塚は旧字体が正式表記
映画「ほかげ」予告編
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