東京・吉祥寺PARCOの地下1階にあるディスクユニオン吉祥寺店が3月19日にリニューアルを果たした。その一環として、ショップインショップである映画ソフト専門店・吉祥寺映画ストアがオープン。Blu-ray、DVDの在庫を新品・中古合わせて5000枚取りそろえるとともに、サウンドトラック、書籍、ZINEなどを販売している。
ディスクユニオンはなぜ“サブスク時代”に映画ソフト専門店をオープンしたのか? その理由をディスクユニオンの社員である平塚渉と阿部大樹に聞いた。
取材
プロフィール
平塚渉(ヒラツカワタル)
ディスクユニオン商品部門 商品部 映画担当 リーダー。好きな映画は「
阿部大樹(アベダイキ)
ディスクユニオン(吉祥寺店、吉祥寺ジャズ館、吉祥寺映画ストア)勤務。好きな映画は「
サブスク時代に映画ソフト専門店、実際の売り上げは?
──Blu-rayやDVDがあまり売れなくなっているこの時代に、なぜ映画ソフト専門店を立ち上げたのでしょうか?
平塚渉 サブスクリプションが誕生したことによって、ソフト販売の売り上げが右肩下がりの状況であることは間違いないのですが、DVDがまったく売れなくなったという話でもないんです。どうしても手に持っておきたいというお客様は一定数いらっしゃいますし、そこをちゃんとフォローする店舗をやっていくことが一番の目的でした。時代に合わせて業態を変える販売店もありますが、私たちはディスクユニオンの強みであるCD・レコードの販売を長年継続してきました。それに伴ってDVDでも似たようなことができないかという思いで、売り場を作っていきましょうと。また調べてみると、数は多くないですが、自主作品としてソフトを作っている方もいる。そういう方と契約して、委託販売することを業務の1つとしていきたいなとも思っています。
──吉祥寺店だけでなく、ほかの店舗でもソフト販売に力を入れているんですよね?
平塚 3月に吉祥寺店、お茶の水駅前店、池袋店、大阪店、名古屋店でソフトの売り場を広げました。その中で吉祥寺店を一番大規模にモデルチェンジした感じです。もともと新宿でシネマ館という店(2023年8月にシネマ館・ブックユニオン新宿として移転リニューアル)を運営しており、そこに続く店舗を作りたいなと。吉祥寺には昔、吉祥寺バウスシアターがあって、今はアップリンク吉祥寺があります。映画が根付いている街ということで映画ソフト専門店との相性もいいと考えました。
──一気に5店舗を拡張したということは、ソフトの売り上げを伸ばしていける勝算があったのでしょうか?
平塚 これまでは新宿にしか“旗艦”という形のソフト販売店がなかったんですが、その1店舗は2000年頃から毎年利益を出しています。1店舗でうまくいっているのであれば、ノウハウを共有することで各店にも展開できるのではないかという勝算がありました。またまだコレクションしたいお客様はいると感じますし、パッケージを買う人、サブスクで観る人、劇場で観る人と、それぞれのマーケットがあるような気がしているんです。なのでパッケージを買うのが好きな方々と丁寧にコミュニケーションを取っていけば、今の時代でも映画ソフト専門店は成り立つと思います。
──吉祥寺映画ストアは3月19日にオープンしましたが、売れ行きやお客さんの反応はいかがですか?
平塚 好調でして、売り場を広げた分だけお客様が来ています。
阿部大樹 オープン日にもたくさんのお客様に足を運んでいただきました。レンタルショップが好きだった方や、大量に並んでいる中から作品を選ぶのが好きな方には喜んでいただけたようです。リニューアル前と比較するとおよそ6倍の在庫を保持しており、売れてもすぐに補充して満杯にできる量が集まっていますので、毎日来ても何かしら新しい商品を発見できると思います。新入荷の商品を毎日見に来るお客様もいらっしゃいますね。
──特にうれしかったお客さんの反応は?
阿部 あるDVDを探していたお客様が「このお店だったらあるかなと思って来てみたらあった」とおっしゃっていたことです。あとは「どこで探していいかわからないとき、こういう店舗があるとありがたい」という言葉もうれしかったです。
──お客さんの年齢に傾向はありますか?
阿部 年齢層は幅広くて、時間帯によって異なる印象です。
平塚 新宿の店舗にいたときは、年配の方に足繁く通っていただいているイメージがありましたが、吉祥寺は本当に幅広いです。“住みやすい街”と言われているので若い方々も多いですし、1つ下のフロアである地下2階に入っているアップリンク吉祥寺に行った帰りに、映画好き・映画関係のお仕事をされている方に寄っていただくこともあります。インターネットがあまり得意ではなく、実店舗で買い物をすることが主流になっている方も多いです。
コンピュータに任せない査定が在庫の確保につながる
──吉祥寺店ではBlu-ray、DVD合わせて5000枚をそろえているとのことですが、どういった基準で選んでいるのでしょうか?
平塚 メインはお客様から買い取った中古品になるので、どんな商品を並べられるかは正直コントロールが難しいんですが、在庫数を確保するための努力はしています。お客様が持ち込んだソフトの査定をコンピュータでやっているお店もあると思うのですが、ディスクユニオンではすべて目利きのスタッフが買取価格をジャッジしているんです。市場価格を頭に入れて、正しい知識をもって査定を繰り返すと、お客様の「ディスクユニオンは信頼できる」「貴重なソフトにふさわしい値付けをしてくれた」といった口コミが浸透していく。それによってソフトを持ち込んでくれる方が増え、在庫数を保持することにつながります。
──1つひとつの査定を丁寧に行い、お客さんと信頼関係を築くことが大事なんですね。
平塚 はい。新品に関しては、それぞれのジャンルごとに仕入れ担当を設けていて、「こういう特集を組みたいんです」と問屋さんに伝えます。メーカーさんが自社のサイトでしか販売していない商品もあるので、そういったメーカーさんに「うちで店舗販売させてくれませんか?」と交渉し、商品数を増やす試みもしています。キングレコードさんと直接お話をして、邦画の1960~1970年代を席巻したATG(アート・シアター・ギルド)のフェアを企画し、特典もオリジナルで作ったりしました。
──先ほど棚を拝見したら、
阿部 ウォン・カーウァイのBOXはECサイトでしか販売されていなかったので、私から平塚に吉祥寺店での取り扱いを打診しました。好きなことを仕事にしているからこそ、「こういう特集はどうですか?」と企画を提案するのが楽しいですし、そうやってお店の色ができあがっていきます。
平塚 スタッフから「こういう特集をやりたいです」とアイデアをもらうことは多く、それをもとに私がオーダーの手配をしていきます。お客様から取り扱い商品に関する希望をいただくこともあり、客観的な判断のうえで実施を判断してはいますが、参考にさせていただいてます。
阿部 商品紹介のためのポップは「自分がこの映画を好きだという思いは必ず伝わる」と信じて作っています。あまり知られていない映画だとしても、ポップを読んだお客様に「面白そう。買ってみようかな」と思っていただけたらベストですね。
──やはり映画が好きだからこそ仕事も楽しめている?
阿部 そうですね。観てきた本数が特別多いわけではないですが、お客様と一緒に“映画を体験する”ことを目指してお店を運営しています。買い取って値付けをした商品を店頭に並べ、それを購入したお客様に「面白かった!」と言っていただけたときにはやりがいを感じますし、先ほどのポップのように、どうすればより多くのお客様に映画を楽しんでもらえるかは念頭に置いています。
平塚 私も今まで観てきた本数や持っているソフトの数は、シネフィルの方と比べたら少ないです。もちろん映画が好きだからこそこの仕事をしていますが、「これは売れるだろう」「こうすれば手に取ってもらえるのでは」という目利き力や企画力も必要だと感じます。どんな仕事もそうだと思いますが、好きな気持ちは大事、でもそれだけではやっていけないですね。
──吉祥寺映画ストアの一角では輸入盤ソフトも販売されています。力を入れているんでしょうか?
平塚 輸入盤を増やしたい思いはあります。海外でしか販売されていないソフトには、デジタルリマスターによって日本盤より画質がいいものもありますし、一部のお客様に喜んでいただける可能性があるので。
阿部 輸入盤を扱っていると、お客様に輸入盤を持ち込んでいただける機会も増えます。海外限定の稀少なコレクターズアイテムをお売りいただいたり、店頭でその商品を買った別のお客様に「輸入盤を取り扱っているなら、自分の所持しているコレクションもここで売ろうかな」と思ってもらえることもある。さまざまなコレクターの方に喜んでいただける機会が増える、いいサイクルだと考えています。
──なるほど。冒頭では、自主制作した映画ソフトの委託販売も考えているとおっしゃっていましたが、すでに申し込みは受け付けているんですか?
平塚 弊社のサイトにページがあり、そこからどなたでも申し込んでいただけます。基本方針として、法律に抵触したり特定の何かに勧誘するものでなければ、あくまで全部“文化”として承ります。
阿部 ですので、かなりハードルは低いです。「やり方はわからないけれど、自分の作品をパッケージとして売ってみたい」という方は気軽にご相談いただけたらと思います。
思い出に残る映画体験の一助に
──お話を聞いていて、ビジネス的な観点でもお客さんと信頼関係を築くことを重要視しているように感じたのですが、それはディスクユニオン全体の社風だったりするんでしょうか?
平塚 会社のテーマとして打ち出しているわけではないですが、お客様とコミュニケーションを取ったり、仕入れを積み重ねていけば経験値はどんどん上がっていきます。それを会社の財産として、みんなで共有していきましょうという流れはありますね。もちろん効率を求められることもありますが、それだけでは寂しいじゃないですか。
阿部 私がCDやレコードの査定を始めた頃、先輩スタッフからはもちろん、お客様から規格による音の違いや仕様の違いなどを教わることもありました。映画ジャンルでも同様にお客様に教えていただく機会を持つことで、より知識が蓄えられていきます。それを生かして、多くの人に楽しんでいただけるお店を作っていきたいですね。
──今後、実現したいことはありますか?
平塚 弊社にはソフト制作をしている部署もあるので、過去の名作を復刻する形でパッケージの制作・販売をやりたいと考えています。吉祥寺映画ストアのことで言うと、アップリンク吉祥寺が下のフロアにあるので何か一緒にできないかなとは思っています。すでに映画の半券をお持ちいただいたら割引になるキャンペーンは実施していますが、上映している作品の関連商品を仕入れて、コーナー展開する施策はやってみたいですね。映画を観たあとに寄ってくださったお客様に、その作品のソフトや書籍を買っていただける場を提供できれば、思い出に残る映画体験の一助になるかもしれません。
クロケット @crocket8314
明日、吉祥寺へ行く予定なのでのぞいてこよ~😄 https://t.co/RXmoPJVGVY