趣里と菅田将暉の共演作「生きてるだけで、愛。」が、11月9日に公開される。
本谷有希子の同名小説を原作とする本作は、うつが招く過眠症で自分をコントロールできない寧子と、彼女と同棲中のゴシップ雑誌編集者・津奈木の関係を描くラブストーリー。これが長編映画デビュー作となる関根光才が、監督と脚本を担当した。
映画ナタリーでは、メインキャストを務めた趣里と菅田にインタビュー。「どのシーンも楽しかった!」とにこやかに振り返る彼らに、出演の決め手や撮影時のエピソード、関根の魅力などを語ってもらった。
取材・文 / 秋葉萌実 撮影 / 曽我美芽
どのシーンも楽しかった!(趣里)
──趣里さんは「寧子は自分が演じたい」という思いを持っていたそうですが、本作のどんなところに魅力を感じたのでしょうか。
趣里 脚本の持つエネルギーですね。この役が演じられたら、誰かのことをわかってあげられるかもしれないし、誰かがわかってくれるかもしれないと感じたんです。
菅田将暉 そういう人はたくさんいるよね。少なくとも(シンガーソングライターの)石崎ひゅーいは「津奈木があまりにも自分すぎてつらい。打ちひしがれた」と言ってた。最大の賛辞だよね。
趣里 本当に? お話してみたいな。よろしくお伝えください(笑)。
──菅田さんは、脚本を読んだ時点で自分たちの世代が「よくぞやってくれた!」と思う映画になると話していたとか。出演の決め手は覚えていますか?
菅田 “今”だなって思ったんです。変化の速度がすごく早い時代の中でこそ、今を生きている人間が作るべき映画だなと。
趣里 わかる!
──なるほど。津奈木は序盤は心情が読めない人ですが、少しずつ印象が変わっていきます。撮影時は繊細な演技が求められたのでは?
菅田 こうやってインタビューでお話をしても、実際は僕がどんな人間かはその瞬間ではわからないじゃないですか? そういう感じが常にあればいいのかなと。きっと、観ている人は最初「津奈木は大変だなあ」という気持ちになるんじゃないかな。
趣里 そうだね。
菅田 でもだんだん「いや、これは彼自身にも問題があるぞ?」「ということは、(映画を観ている)私にもそういう部分があったりするのかな?」と気付いてもらえる気がします。お客さんたちを他人事じゃない気持ちにさせていくのが津奈木の役割だったと思っています。
趣里 相手と深いところでは向き合っていないけど、向き合っているような振る舞いをする津奈木は、すごく今の人っぽいよね。それが時には優しさになり、傷付けることにもなってしまっているのですが。でも津奈木とのシーンの撮影はどれも楽しかったです。
菅田 面白かったよね。2人の日常の空気を出すために、僕は津奈木として寧子の行動1つひとつに一喜一憂しないようにしていて。
趣里 私はそれが面白かったです!
菅田 言いたい放題、言われたい放題の関係性だったね。ボクサーとサンドバッグみたいな。
趣里 そうそう(笑)。
──映画だけを観ると、ご本人たちが楽しく演じていたというのは意外な気がします。趣里さんは絶叫したり走ったりとかなり振り切れた演技で、消耗しそうだなと感じましたが、撮影はいかがでした?
趣里 自分でもかなり消耗するかなと思いましたが、実際は毎日楽しかったです。寧子として発散できていたからかもしれません(笑)。どのシーンも、ああ楽しかった!という気持ちで終えられましたし、撮影のあとは家に帰って洗濯をしたり健康的に過ごしていました。
──実生活では役を引きずらないタイプですか?
趣里 私は引きずらないですね。
菅田 演じているとはいえ自分だから、少なからず日常に影響が出ることはあるよね。体を作ったりとかちょっと寝不足にしておこうとか、役のためにやっていることもあるし。そういうときは、親に会うと「あんた今キツい役をやってんねんな」と言われるんですよ。
趣里 へえー!
菅田 我が子の顔が違うのが、母親にはわかるんだって。母は強いよ。あと、いつも頭の中のどこかには常に取り組んでいる作品のことがありますね。
趣里 役と一緒にいる感じ?
菅田 そうそう。そのキャラクターの目線でいるというか。
趣里 それはあるかも! 撮影期間は、日常の出来事でも寧子だったら絶叫しているだろうなと思う瞬間はありました。
──それはけっこうしんどいものですか?
菅田 続くとしんどいですね。自分の感覚がベースにあるからこそ、役の目線が入ることによってズレが生まれて、客観視ができなくなる。たまに自分の感覚を思い出す作業をしなければいけないときはあります。
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予告編を観て“勝ち”だなと思った(菅田)
- 「生きてるだけで、愛。」
- 2018年11月9日(金)全国公開
- ストーリー
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生きてるだけで、ほんと疲れる──うつが招く過眠症のせいで引きこもり状態の寧子は、ゴシップ雑誌の編集者・津奈木と同棲生活を続けていた。そこへ津奈木の元彼女を名乗る女・安堂が。強引な彼女によって、寧子は外の世界と関わらざるを得なくなる。そんな日々を過ごすうちに、寧子と津奈木の関係にはある変化が訪れる。
- スタッフ
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監督・脚本:関根光才
原作:本谷有希子「生きてるだけで、愛。」(新潮文庫刊)
音楽:世武裕子
- キャスト
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趣里、菅田将暉、田中哲司、西田尚美、松重豊、石橋静河、織田梨沙、仲里依紗ほか
©2018『生きてるだけで、愛。』製作委員会
- 趣里(シュリ)
- 1990年9月21日生まれ、東京都出身。映画、ドラマ、舞台など多方面で活躍し、NHK連続テレビ小説「とと姉ちゃん」やドラマ「ブラックペアン」での演技が話題を呼んだ。主な出演作には映画「東京の日」「おとぎ話みたい」「勝手にふるえてろ」、ドラマ「過ちスクランブル」などがある。現在、出演ドラマ「僕とシッポと神楽坂」が放送中。
- 菅田将暉(スダマサキ)
- 1993年2月21日生まれ、大阪府出身。主演を務めた2017年公開作「あゝ、荒野」では第41回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞をはじめとする数々の映画賞に輝いた。主な映画出演作は「溺れるナイフ」「キセキ ーあの日のソビトー」「銀魂」シリーズ、「火花」「帝一の國」など。2019年夏に主演作「アルキメデスの大戦」が公開される。