「サントメール ある被告」監督が来日、実際の裁判を傍聴して感じた“母性への問い”

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サントメール ある被告」のトークイベントが7月14日に東京のBunkamura ル・シネマ 渋谷宮下で開催。監督のアリス・ディオップ、作家の小野正嗣が登壇した。

「サントメール ある被告」トークイベントに参加したアリス・ディオップ。

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第79回ヴェネツィア国際映画祭で銀獅子賞(審査員大賞)と新人監督賞を受賞した本作。フランス北部の町サントメールで起きた実話をベースに、生後15カ月の娘を殺害した罪に問われた女性の裁判の行方が描かれる。裁判を傍聴する若き作家ラマをカイジ・カガメ、被告のロランスをガスラジー・マランダが演じた。

アリス・ディオップ

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小野正嗣

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セネガル系フランス人のアリス・ディオップは「日本に来るのは初めてなので、感動していますし光栄です。この作品と一緒に世界を回り、各地でお話ししてきました。皆さんと対話することを楽しみにしています」と挨拶。小野は本作について「普遍的で感情に訴えかける作品。子供の死をめぐって、そこに関わる人々が考えるそれぞれ違う真実が見えてくる。観る者1人ひとりに考えるきっかけを与えてくれていると映画だと思います」と感想を伝えた。

「サントメール ある被告」場面写真

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小野が「監督は実際に事件の裁判を傍聴したそうですが、なぜこの事件を映画化しようと思ったんですか?」と尋ねると、ディオップは「被告の女性にすごく興味を惹かれたことがきっかけなんですが、その理由は自分でもわからなかったんです。でも非常に濃い内容の裁判を5日間傍聴して、ようやく理由が見えてきました。沈黙していた自分自身の問題が浮かび上がってきたんです。それが私と母にまつわる問題であり、母性とは?という問いについてでした」と回答。そして「ロランスは曖昧模糊として、非常に過激な部分もあり、醜いところも素晴らしいところもある。フランス映画の中では彼女のような黒人女性をヒロインとして観たことがなかった。賞を獲得したことで、この物語は小さなものではなく、みんなに語りかけられるものなのだと確認できました」と続ける。

左からアリス・ディオップ、小野正嗣。

左からアリス・ディオップ、小野正嗣。[拡大]

共同脚本を担ったマリー・ンディアイの話題になると、彼女の小説を翻訳したことがある小野は「ラマには監督ご自身の姿を重ねているそうですが、僕はマリーの姿も重ねてしまいました。脚本に迎えたきっかけは?」と質問。ディオップは「マリーは私の大好きな作家。彼女の描く難解なヒロインたちと、今回の映画のヒロインには通じるものがあると思いました。マリーの文体は力強く、人間の魂の奥底を掘り下げていきます。彼女の小説のスタイルを映画として表象したい、言葉では表現できないものを映像にしたいと考えて、オファーの手紙を書いたんです」と述べ、「今回は3人が共同で脚本を書いていますが、いわゆる正統な書き方はしていません。私はドキュメンタリー作家としてキャリアを出発して、フィクションは今作が初めてなんです。裁判記録から一字一句引用する形でセリフを書いていて、ドキュメンタリーとフィクションをうまく対話させる必要がありました。ラマの存在はフィクションであり、私の人生や母子の関係を入れ込むために造形しました」と語る。

観客から「法廷の光が裁判の時間推移とリンクしているように見えますが、意図的ですか?」と問われると、ディオップは「その指摘は、撮影監督のクレール・マトンへの大きな賛辞ですね。彼女は自然光に対しての感受性が豊かな人です。(実際の時間経過による)自然光のバリエーションを映像に収めることで、リアルさが生まれてくるわけです。今回は長回しが本当に多くて、移りゆく自然光がフィクションの中にドキュメンタリー性を加味してくれました」と振り返る。また「劇中に登場する王女メディアといった引用は、母性神話の脱構築のためのものと考えていいですか?」という質問には、「その通りです。企画の立ち上げ時点から、理想化された母性の脱構築ということが念頭にありました。母性について問いかけるときに幼児殺しを題材にしたのは大胆な試みだったかもしれませんね」と答えた。

「サントメール ある被告」トークイベントの様子。

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最後にディオップは「今、本当に感動しているんです。皆さんの質問は深く、的確かつ具体的で、報われたなという気持ちです。4年前に作品を作り出したときは、こんなことが起こるなんて想像できませんでした。皆さんとの対話はとても癒やされますし、安心できます。映画を撮っているときは孤独ですが、作った数年後にこういうご褒美があるなら、と勇気付けられました」と感慨深げに思いを述べた。

「サントメール ある被告」は全国で順次公開中。

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(c) SRAB FILMS – ARTE FRANCE CINÉMA – 2022

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