中川大志がズバッとカットしたシーンは？「いつまで」編集中に学んだこと明かす

オムニバス作品「アクターズ・ショート・フィルム3」の1本「いつまで」で監督を務めた中川大志とプロデューサーの射場好昭が、2月23日に京都・出町座で行われた舞台挨拶に登壇した。

本作は友人の結婚式帰りの20代男子3人が、帰路で見知らぬ田舎町の終点駅にたどり着くところから展開していく。井之脇海、板垣瑞生、林裕太がメインキャストを務めた。

プロジェクトに参加した心境を尋ねられた中川は「企画自体は知っていましたが、まさか自分に声を掛けてもらえるとは思わなかったのでうれしかったです。WOWOWさんの全面的なバックアップで初めての監督ができる、ものすごくぜいたくなチャンスをいただけて飛び付きました」と答える。一方、射場は中川について「映画に愛されている、映画の匂いがする俳優さんだなと。現場が好きそうだな、クリエイティブなことに興味がありそうだなと思いました」と述べ「ただ単にやりたいって言ってるだけじゃ駄目なので、映画に向いているだろうなという人にお願いしました」と基準を説明した。

「キャラクターの裏設定があれば教えてください」という問いに、中川は「説明しすぎずに表現したかった。細かい設定は僕の中に持っていたし、（井之脇ら）3人からアイデアももらっていた」と言いつつ「あんまり決め込みすぎずにやっていました」と返答。それを聞いた射場が「初めて監督する方は余分に盛り込んだりする人が多い中、中川監督はスパッと切っていた」と手腕をたたえると、中川は「お客さんをどこまで信じるかが大事」「それぞれの受け取り方が違ってもいいから、（上映時間）25分という時間の中で余白を大きくした方がいいと判断しました」と持論を展開する。

「想像以上の出来栄えだったシーンは？」と聞かれると、中川は「実は、田んぼ道でスマホのライトを頼りに結婚行進曲を歌うシーンはなんでもないシーンだと思っていましたが、初めて編集室で観たときに泣けてしまった」と話す。「あのシーンがこの映画でやりたかったことなんじゃないかと。一晩で関係性を取り戻すという過程を大事にしたかったのですが、あのシーンにそれが詰まっていてグッときたんです」と思いを口にした。

さらに中川が「泣く泣くカットした場面もあります」「けっこう切りました」と言うと、射場は「ズバッといくんですよ。初めてではなかなかできない」と思い切りのよさを絶賛。人物たちがダッシュでトンネルを駆け抜ける大掛かりなシーンもカットしたそうで、中川が「（撮りたいと思えるトンネルが）いざ見つかって、並走するスタッフさんも用意して、（井之脇ら）3人には200mぐらいの距離をトータル10本ぐらい全速力で走らせて。でも丸々カットしました」と言うと、会場からは「えー！」という大きな声が上がった。

中川は「編集室で発見があった」と言い、「今回のように“25分以内の短編映画”という制約がなかったら、トンネルのシーンを入れたのかと言われるとそうでもなくて。残酷な話なんですが……。あんなにトンネル探してくれたのにすみません。いっぱいシーンがあればボリュームを感じてもらえるかというとそうでもない。削ぎ落とすことでテーマが明確になると編集室で勉強しました」と続けた。射場が「それが監督だということですよね。周りは泣く泣くですけど」と笑わせると、中川は「3人に会うのが怖い」と率直な思いを漏らし、会場に笑いを起こした。さらに射場は「井之脇くんと、レオス・カラックスの『汚れた血』みたいで編集楽しみだよね、と言っていたのに」と追い込み、中川は「会うのが怖いです」と繰り返していた。

イベント中には「撮影現場での掛け声をしてほしい」とお願いされる場面も。中川は「いっぱいいっぱいだったので、現場では助監督さんに任せていました。だからあまり言ってないんですが」と照れくさそうにしながらも、「本番、よーい、はい！」と掛け声を披露し、大きな拍手を受けた。