5人の俳優がショートフィルムの監督に挑戦!「アクターズ・ショート・フィルム2」「あんた」千葉雄大インタビュー

WOWOWが5人の俳優と短編映画を制作する「アクターズ・ショート・フィルム」。青柳翔、玉城ティナ、千葉雄大、永山瑛太、前田敦子が参加した第2弾の放送・配信が2月6日にスタートする。映画ナタリーでは伊藤沙莉を主演に迎え「あんた」を監督した千葉、役所広司を主演に迎え「ありがとう」を監督した永山にインタビュー。それぞれが監督としての立場で語る映画に込めた思いとは。

取材・文 / 奥富敏晴(千葉雄大)、イソガイマサト(永山瑛太)撮影 / 間庭裕基

「アクターズ・ショート・フィルム」再び 5人の俳優がゼロから生み出す物語

普段は役に徹する俳優たちが、いざ監督をすると、どんな作品を生みだすのか。クリント・イーストウッドや北野武に至るまで、名の知れた“俳優監督”は多いが、そのハードルが高いのも事実。しかしここ日本では、近年、商業映画の世界でも池田エライザ、斎藤工、のんといった俳優が監督作を発表し、成果を上げ始めている。この機運の高まりに、WOWOWは開局30周年に合わせ映画・ドラマの第一線で活躍する俳優たちが、同じ条件のもとショートフィルムを監督する「アクターズ・ショート・フィルム」を発足した。

2021年の第1弾では磯村勇斗、柄本佑、白石隼也、津田健次郎、森山未來が参加。ディストピアSF、ヒーローもの、淡い少年時代の1編、犯罪ノワール、実験的なダンス映画など、いずれ劣らぬ個性を炸裂させた。第2弾では青柳翔、玉城ティナ、千葉雄大、永山瑛太、前田敦子が参戦。誰1人として初監督がいなかった前回と異なり、今回は5人全員が本格的な監督業は初挑戦となった。制作上のルールは以下の4つ。

  • 「尺は25分以内」
  • 「予算は全作共通」
  • 「原作物はなし」
  • 「監督本人の出演」

青柳がある秘密を露呈させる4人家族を繊細な芝居を通してつむぐ「いくえにも。」、玉城が白い部屋で深い内省を問わず語りに吐き出す少女と物言わぬ不思議な少年とのつながりを描いた「物語」、千葉が恋人にはなれない男女の孤独の先にある関係を見つめた「あんた」、永山が死に場所を求めて1人さまよう名もなき男を活写した「ありがとう」、前田がとある女性の怒りと食欲の奔流と、彼女を見守る友人を描く会話劇「理解される体力」。5人の俳優が己と向き合い、ゼロから生み出した物語に驚嘆すること間違いなし。“映画のWOWOW”だから成せた「アクターズ・ショート・フィルム2」をお見逃しなく。

5本のうち視聴者や審査員の投票によって選ばれた作品は、2022年のショートショート フィルムフェスティバル&アジア(SSFF & ASIA)へ正式出品。20年以上の歴史を誇る米アカデミー賞公認、アジア最大級の国際短編映画祭でのグランプリを目指す。視聴者投票は「アクターズ・ショート・フィルム2」公式サイトで、2月6日(日)19時から2月20日(日)19時まで。

「あんた」千葉雄大インタビュー “あんた”は愛のある言葉

千葉雄大

腹をくくった監督と主演

──今回監督のオファーを引き受けた理由を教えてください。

「あんた」ポスタービジュアル

監督をやろうと思った理由は「脚本を書けるから」ですね。なんで僕だったのか、わからないですけど(笑)。この企画に僕が売り込んだとかはないですよ。

──もともと脚本を書きたい気持ちがあったのでしょうか。

わりと文章を書くのが好きで、エッセイやコラム寄りの文章は書き溜めていました。その中から題材を選ぼうかとも思ったんですが、何をやってもいい自由な企画だったので新しいお話にチャレンジしました。自分が好きなことと、がんばらなきゃいけないことのバランスが取れるのが脚本かなと思っていて。セリフに起こしたり、ト書きでどういう状況か示したりは難しいですが、そこに楽しみを見出してます。

──では監督よりも、脚本へのこだわりが強い?

その脚本の世界観を具体化するのが監督の仕事。僕はどっちかと言うと、広げる作業より、脚本を書くのが好きなんです。だから「監督かあ、どうしようかなあ」と悩みました(笑)。いろんな人に相談したとき「やらない理由なくないですか?」って言われて。そこで「確かに」と思いました。

──では、けっこう前向きに?

え、もちろん前向きですよ。いやいや監督やらされているとかないです(笑)。めちゃくちゃ楽しんでやってます。

──この「アクターズ・ショート・フィルム」の企画で監督・主演の兼任は千葉さんが初めてです。初監督で主演のプレッシャーはありましたか?

千葉雄大

自分が主演することに関しては「こうしたい」というイメージを人に伝えるのが難しい部分もあって。企画のルールとして、監督である自分がどっちみち出演しなきゃいけない。そうなったとき、あの役しかない。ただ脚本を書いているうちに、純粋にこの役やってみたいなという思いは生まれてはいました。

──脚本を書いているときも主演をやるとは決まってなかったんですね。

書いてから、ですね。そんな中、周りの大人たちの「千葉さんやるよね?」の一声が背中を押してくれて。自分が脚本を書いて監督をして主演をやると「ああ、この人は普段こういうことを考えてるな」とか、「こういうことをやりたかったんだな」と思われるだろうなとは考えてたし、その怖さや煩わしさはありました。でもプロフェッショナルとして仕事をして、腹をくくってどっちもやったつもりです。

──千葉さんが演じた男性の人物には、どれほどご自身を投影されているんでしょうか。

1人の人間が作ってるわけだから、重なる部分はあると思います。きっかけとしては、ある出来事を軸にしてるんですけど、そこから広げて作品にしていて。バランスとしては難しいところですが、基本的にエンタテインメントのショートフィルム。それをドキュメンタリーとして捉えるような撮り方やお芝居は心がけてはいました。別に自叙伝とかではないです(笑)。

自分に近いから、すごく怖い

──キャスティングはどのように進めたのでしょうか。

普段はされる側ですから、キャスティング自体が初めてで(笑)。もちろん、それぞれ理由はあります。伊藤沙莉さんは完全にお芝居。沖田修一さんの役は物語に溶け込んでほしいと思っていて、お芝居というより、普段の自然な佇まいからお願いしました。全部めぐり合わせ、みたいなところはありますよね。

──伊藤さんとはドラマ「いいね!光源氏くん」でも共演されていますが、事前にどういった演技をされるか予想はしていたのでしょうか。

「あんた」

いや、全然そんなことないですよ。お互いどう来るかわからない。 “お芝居やってます”という空気ではなく、自然な雰囲気で撮りたかった。だからセリフじゃないところ、セリフとセリフの間の余白を意識していました。脚本にセリフがなくてもキャッチボールできる関係性だったのは助かりました。

──お二人がすごく自然体で、普段からこんな空気なのかと錯覚するような演技でした。キャンプ場の撮影現場も見学したのですが、本番前と本番中の雰囲気に差がなくて。

そうですね。いつも役作りしてないけど、今回はより何も考えてない(笑)。自分に近いから、すごく怖いですよ。でもセリフは決まってるから、お芝居じゃないわけではない。自分であって、どこか自分じゃない。不思議な感じでした。

──監督として振る舞ううえで意識されたことはありましたか?

役者って監督からちゃんと(芝居を)見てもらえてるんだなと思える瞬間がうれしくて。俳優がやりづらそうなところを察して「自分はこういうときこう思うんだけど、どう思う?」とか。まだ的確な表現はできないから漠然とした感じだけど、そういう世間話みたいな感覚でやってました。基本的に楽しい現場が好き。意識したわけじゃないですけど、結果的に楽しい現場にできました。自分が演じた男は情緒不安定なところもあるので、散々泣いたあとに1人で「カット」とか言ってましたね(笑)。

──演出を付けるというより、現場の雰囲気を作っていた?

空気作りも別にした覚えはないんですけど(笑)。監督って選択の連続。衣装やメイク、髪型にしても、どっちがいいですか? どうしますか?と聞かれるし。初めてだからわからないことも多いし、僕から「どう思います?」と全部の部署に聞いてました。でも自分の軸はある。決めるときは決めなきゃいけない。人に委ねるところと自分で決めるあんばいは、意識してました。

──スナックのママの男性を演じた沖田監督には、何か相談されたりはしましたか。

相談はしてないです。けど、沖田さんを演出したときに「それ、僕も言った覚えがあるな」と言っていて。いつの間にか、お返ししてました。

──具体的には、なんと?

それは秘密です(笑)。スナックのシーンの現場では、沖田さんとYOUさんの掛け合いもどうなるのか未知数で。もっとアダルトな空気になるかと思ったら、すごく温かい大人のかわいさが映えるシーンになりました。あの2人の関係性が皆さんの目にどう映るのか気になります。

“あんたはあんたのままでいい”

──千葉さんと伊藤さんが演じた男女は、恋人ではないし、ただの友人と言うには軽い。これから恋人になる男女とも違いますね。この定義しづらい関係にいる2人を描きたかった理由を教えてください。

幼い頃から女友達が多いほうなんです。昔から一緒に遊んでるだけで「え、付き合ってるの?」とか「なんで女子とばっかりいるの?」と言われることがあって。「普通に友達なんだけど、面倒くさいな」と思って育ってきました(笑)。そういうのってなんだろうな?という違和感やモヤモヤを物語の軸にしてみようと思いました。

──なるほど。

千葉雄大

脚本を書いた段階で伝えたいことは明確にありましたけど、それをお客様がどう受け取るかは自由。2人の先に何があるのかなって思ったときに、自分たちだけがわかっていればいいよね、と。男と女の関係を描き始めたら、その先の関係が見えてきた感じでした。

──タイトル「あんた」はどういった意図で……?

タイトルは完全にあと付けなんですよ。「線香花火」とか、いろいろ考えていたんですけどしっくりこなくて。仮でもいいから提出しなきゃいけないときに、パッと「あんた」が思い付いたんです。締め切りの日に何も浮かばなかったから、そのまま「あんた」になりました(笑)。でも、めちゃくちゃ気に入ってるタイトルで、観る人が自由に意味合いを持たせてくれたらうれしいです。でも、もともと役名は付けたくないなと考えていて。そうなると相手を呼ぶときには「あんた」がいいかな、と。

──普段から「あんた」をけっこう使いますか?

僕は使うんですよ。仲良くなってくると、ですけど。

──「あんた」は、どこか親密な感じがしますね。

僕的に「あんた」は愛のある言葉です。

──ちなみに、男女に役名を付けたくなかった理由は?

「あんたはあんたのままでいい」ってセリフがあるんです。ここに誰かの名前を付けちゃうと、例えば「千葉くんは千葉くんのままでいい」になる。それは“千葉くん”だけのこと。でも「あんた」だと、目の前にいる人も、言ってる自分も肯定される気持ちになる気がしたんです。いい言葉ですよね。

──最後に本作を作るうえで、もっとも影響を受けた作品などがあれば教えて下さい。

作品じゃないんですけど……、人との会話をボイスレコーダーで録音することがあって。寝る前の寂しいときにラジオ代わりに聞きたいからって、回させてもらうんです。仲いい数人の友達だけですけど。そこでの会話は意識していました。作品の流れというより、自分の口癖みたいなところ。僕が仲いい人をそう呼ぶから「あんた」にしたし、ふざけて会話をはぐらかす癖とかも入れています。あとは会話の返しとかにも反映されてる。聞き返しながら脚本を書いていたわけじゃないですが、迷ったときに、ちょっと聴いてましたね。

千葉雄大
千葉雄大(チバユウダイ)
1989年3月9日生まれ、宮城県出身。2010年開始の特撮ドラマ「天装戦隊ゴセイジャー」で本格的に俳優として活動を始める。映画監督の沖田修一とは「モヒカン故郷に帰る」「子供はわかってあげない」で作品をともにした。2022年には映画「もっと超越した所へ。」の封切りを控えている。Webラジオ「千葉雄大のラジオプレイ」が隔週金曜日にYouTubeで配信中。

2022年2月2日更新