5人の俳優が同じ条件のもとで短編映画を監督するプロジェクト「アクターズ・ショート・フィルム」。高良健吾、玉木宏、土屋太鳳、中川大志、野村萬斎が参加した第3弾の放送・配信が2月11日にWOWOWでスタートする。
映画ナタリーでは堕落していくプロボクサーを描いた「COUNT 100」から、監督の玉木と主演を務めた林遣都の対談をセッティング。玉木が俳優として感じる恐怖や不安を詰め込んだ意外性に満ちたストーリーとは。最後には2人がイチ押しするボクシング映画も紹介。
取材・文 / 前田かおり撮影 / 向後真孝
「アクターズ・ショート・フィルム3」ラインナップ
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高良健吾「CRANK-クランク-」
2023年2月11日(土・祝)20:00~
東京を忙しく走り回るメッセンジャーの物語。男は自分の未来に不安を抱えながら、夜道を駆ける。出演は中島歩と染谷将太。
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玉木宏「COUNT 100」
2023年2月11日(土・祝)20:30~
全盛期を過ぎたプロボクサーの怠惰な生活が、ふとしたきっかけで動き出す。ボクシング経験のある林遣都が主演を務めた異色のSF。
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土屋太鳳「Prelude~プレリュード~」
2023年2月11日(土・祝)21:00~
バレエの道をあきらめた歩架と、つらい過去を抱えた家族を軸に、大切な記憶と今を生きる姿を紡ぐ。土屋太鳳と有村架純が初共演。
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中川大志「いつまで」
2023年2月11日(土・祝)21:30~
友人の結婚式の帰り、終電を逃して田舎の小さな駅に取り残された3人の男子を描く。井之脇海、板垣瑞生、林裕太が教師、サラリーマン、画家の卵に扮した。
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野村萬斎「虎の洞窟」
2023年2月11日(土・祝)22:00~
「ハムレット」「山月記」をモチーフに、孤独な青年の心象風景をえぐる1編。窪田正孝演じる男は、ある日、不思議な声に誘われて、外へと駆け出していく。
「COUNT 100」玉木宏×林遣都 対談
“もう1人の自分”というアイデアは「パーマン」から
──スランプに陥ったボクサーがふとしたことで、“もう1人の自分”と入れ替わるSF展開に驚きました。林遣都さん演じる主人公・光輝が顔のない人形のようなものの鼻を押すと、光輝そのものになるシーンがあります。あのアイデアはひょっとして「パーマン」ですか?
玉木宏 はい。僕は子供の頃、「パーマン」が好きだったんです。「パーマン」は藤子・F・不二雄さんが描いたライトな世界観だけど、子供心に鼻を触った瞬間に本人が移植されるのが怖いと思っていました。
俳優としての不安や恐怖を込めた物語
──「COUNT 100」では玉木さん自ら脚本も書かれています。物語はどのように生まれたんでしょうか。
玉木 ショートフィルムは短い尺の中で、どんなメッセージを残すかが重要。でも起承転結を付けすぎるとあっさりしたものになってしまう。がつんと終わるものもありますが、今回はちょうどいい余韻のある怖さを残したいと思いました。それで、まず自分が気になるキーワードをずらーっと並べて、それをいろいろ組み替えて1つのストーリーにしてました。自分が自分に乗っ取られていくのは、ものすごく怖い。ちょっとSFっぽくなっていますが、普段自分が俳優として感じている不安や恐怖を込められたらと思いました。
──俳優としての恐怖とはどんなことでしょう。
玉木 俳優は替えが利く職業だと思うんです。僕じゃなく、違う俳優でいいことはある。それは、俳優に限らず、どんな職業でもすごく怖いことです。自分が全力で臨んでいれば、替えが利くことはないと思うけれど。でも、誰かに「いつでも君の替えはいるからね」と言われたら怖い。その怖さを、作品を通して間接的に描くことを目指していました。
──林さんも、そんな恐怖や不安を感じられることはありますか。
林遣都 僕も常にその不安はあります。この仕事をやっていると、いつもつきまとう悩みです。ただ、逆に、一番の喜びは「林遣都しかできない役だね」と言っていただいたときです。それって本当に大きなことなんだなと感じます。でも、この作品の主人公の最後の姿に、観てくださる方も気付かされることや刺さるものがあるんじゃないかなと思います。
──玉木さんの中に、もともと監督をやってみたい思いはあったのでしょうか?
玉木 もともとクリエイティブなことに興味がありました。スタッフ側を知ることは、俳優として経験しておいて損をすることはないのではないかなと思うんです。脚本は別の人でもという話もありましたが、自分の頭の中にあることを形にするために、僕自身が脚本を書いてチャレンジしてみたいと思いました。
玉木宏が林遣都の脱ぎっぷりを証言
──林さんは、本物の光輝ともう1人の光輝の1人2役でしたが、どのように役に取り組まれたのでしょうか。
林 今までも1人何役という役どころは経験したことがあるのですが、もう1人の自分を演じるのは初めてで。最初は難しさを感じていましたが、台本を読んでいくうちに、SFでもあるので、もっと柔軟に考えるべきだと思いました。玉木さんと一緒に役を組み立てながら、本物ともう1人の自分の違いをどう演じるか、そのあんばいを見極めていけばいいかなと。
──実際に演じてみて、現場で感じた難しさは?
林 演じ分けようと思ったらダメだなと途中で気付きましたね。結局、もう1人はコピーみたいなものなので、同じ人に見えても何かが違う。ただ、あんまりその違いを見せようというベクトルにいかないように、自然と脚本に書かれていることをやっていました。そして、現場で細かいニュアンスやアイデアを玉木さんからいただいて実践していく形でした。
玉木 遣都くんの端正な顔立ちがもう1人の自分という異質な存在にハマるのではないかと思ったんです。結果、もう1人の光輝がとても怖く見える作品になったので、撮っていて、僕はどんどん楽しくなっていきました(笑)。
──林さん自身からは何かアイデアを出されたんですか?
玉木 それはあえて僕の口から言いますけど、遣都くんはすぐ裸になってくれたんですよ(笑)。
林 (笑)
玉木 光輝がネットカフェにこもるシーンで、遣都くんが「どうしますか? 脱ぎますか?」「パンツ1枚になれますけど……」と。それはすごくありがたかった。裸を見せることで普通の人間らしさや生活感が表れる。そのおかげでもう1人の光輝との対比が生まれた気がします。
林 途中から、脚本に書かれている以上に脱いでましたよね。玉木さん主演のドラマ「残念な夫。」で会社の部下役で共演させていただいたときに、最終話に銭湯のシーンがあって、本番で玉木さんから体に巻いているタオルをとられて、カメラに映っちゃいけないものが映ってしまい、監督やプロデューサーさんに怒られたことがあるんですよ(笑)。
玉木 そんなことがあった?
林 撮影中に、そのことを思い出して。あのときから数年経ち玉木さん監督の作品に役者として出させてもらえていることがうれしくなっちゃって。僕はこうして、数年おきに玉木さんに脱がされたいなと思いましたね(笑)。
玉木 どんな欲望なんだ?(笑)
──林さんの脱ぎっぷりのよさにそんな秘話があったとは!? それにしても、脱ぐことで、確かに光輝ともう一人の光輝の対比をより感じました。
玉木 撮影は2日間しかないので、現実にそんな違いがあるわけはないんです。でも、そこが遣都くんのすごさというか。お芝居をしていると体がぼやっとして見えるんです。
林 いや、そこは僕は気持ちでしかできないので。スタッフの皆さんの撮り方のおかげだと思いますよ。
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林遣都が語る玉木組の頼もしさ