石橋演じるハードボイルド気取りの売れない作家・市川進を主人公とした本作。ネタ集めのため殺しの依頼を受け、自ら手を下さぬも行きすぎた取材で騒動を起こしていく市川の姿が、ユーモアと悲哀を織り交ぜて描かれる。キャストには石橋のほか、大楠道代、
本作は2018年12月に約2週間にわたって撮影された。この日は東京・日活撮影所に石橋、岸部、桃井、佐藤らに加え、佐藤の息子である
阪本こだわりの演出が光ったシーンの1つに、市川の「夜は酒が連れてくる」というセリフがある。客でにぎわうバーの店内は市川がそのセリフを発した瞬間だけ静まり返り、また元通りにぎわい始める。喧騒と静寂のメリハリを付けるべく、阪本の演出のもと石橋とエキストラは呼吸を合わせてシーンを作り上げた。
現場の熱がもっとも高まったのは、元ミュージカルスター・ひかるを演じた桃井の歌唱シーンだ。「サマータイム」を桃井が歌うこのシーンでは、長回しワンカットの撮影を敢行。桃井の歌の音声を流しながら、出演者とスタッフは細かい動きを入念に確認していく。事前にカラオケで練習したという桃井は待ち時間にも熱唱。本番では、入店するときの「おはようさん」というセリフを「おはようのすけ」に変えるなどアドリブが冴え渡った。歌唱時にはシェイカーをマイクに見立て、自在に動き回りながら歌い上げ、カモメの鳴きマネといったアドリブも入れて現場を大いに盛り上げる。
本作では佐藤と寛一郎の初めての親子共演も見どころ。2人は市川の現担当編集である児玉と後任の五木に扮した。3人でバーを訪れたシーンでは、時代遅れな市川の小説を五木が完全否定。ベテランの石橋を前に、若手の寛一郎が“相手をなめてかかる”雰囲気を出しながら堂々と応戦した。共演者の多くは寛一郎がまだ幼い頃から知っていたということもあり、桃井が「前に会ったときは(寛一郎が)スヌーピーのスカジャンを着ていて。それはやめたほうがいいって言ってあげたのよ」と昔話に花を咲かせる場面も見られた。
豪華俳優陣の出演が決まった経緯を、阪本は2011年に他界した原田芳雄の縁であったと明かす。「原田さんの家で蓮司さんの映画を作ろうと盛り上がったとき、桃井さんや岸部さん、大楠さん、佐藤くんや江口くんもいたんです。だからこのメンバーには出てもらえるだろうと。当然そこには蓮司さんもいて『ふーん』とか『へえー』とか言っておりましたが」と説明し、ほかにも企画を聞きつけた俳優たちから声が掛かったと振り返る。なお劇中に登場するバー、Bar「Y」の看板には、原田が生前書き残した文字をもとにしたアルファベットが使用された。
また約18年ぶりの映画主演を務めた石橋は「脚本が丸山昇一さんと聞いて、ハードボイルドアクションになるのかなと思って、体力的に大丈夫かと」と心配していたそうだが、脚本を読んでからは「主役と言ってもこれは、1970年代を生き抜いた人間たちの群像劇だと思っている。作家である市川を水先案内人にして1970年代の残像なり、挽歌なりを映し出していけばいいのかなと思っていました」という気持ちで臨んだと話している。
「一度も撃ってません」は4月24日より東京・TOHOシネマズ シャンテ、新宿武蔵野館ほか全国ロードショー。
※「一度も撃ってません」は、新型コロナウイルスによる感染症の拡大を受けて公開延期となりました。最新の情報は公式サイトをご確認ください。
カナイ @ @kanai_re
【制作現場レポート】石橋蓮司ら紫煙立ち上るバーに集結、阪本順治の新作「一度も撃ってません」現場レポ https://t.co/pTFLCQmAz3