ドキュメンタリー「
レバノン・ベイルートの超高層ビル建設現場を捉えた本作。地上32階のビル建設現場で働くシリア人移民労働者の姿と建設ラッシュに沸くベイルートの街並み、戦争で破壊された労働者の祖国を交互に映し出す。監督は祖国を亡命した元シリア政府軍の兵士
予告編は、建設現場で移民労働者たちや戦争に翻弄される人々の姿が切り取られたもの。「僕はがれきに埋められ、破片が口や鼻や目に入った。セメントの味が僕の心をむしばんだ」という語りも収められた。
なお、本作のサウンドデザインは、ヴィム・ヴェンダースやアレクサンドル・ソクーロフ作品のサウンドデザインを手がけるポストプロダクションスタジオ、ベーシス・ベルリンが制作。同スタジオの代表で、本作品のプロデューサーでもあるアンツガー・フレーリッヒは「映像、音、モノローグのドラマツルギーと建設現場の中と外界の違いや意識の移行を生み出すためのサウンドのダイナミクス作りを意識しました」とコメントしている。
「セメントの記憶」は3月23日より東京・ユーロスペースほか全国で公開。
アンツガー・フレーリッヒ コメント
音響を通じて移民労働者の悲しみを伝える──
本作品は労働者のインタビューや対話が一切なく、映画を伝える上でサウンドデザインが大きな役割を果たしました。ただし、私たちはゴッドフリー・レッジョの「コヤニスカッツィ/平衡を失った世界」(1982年製作)のように音楽が主体の映画を作りたかったわけではなく、視聴者が労働者の立場に立ち彼らが感じている孤独や不安を体験するためのサウンドスケープづくりを目指しました。
彼らの絶望、欲望、希望は全て彼らの中に閉じ込められているのです。浜辺の静かな波打ち際の音はどこか切なく彼らの心境を強調するものと感じましたし、映画の音響は破壊や絶望のマントラとなり、労働者が機械的に繰り返す日常業務を表現するようにサウンドデザインしています。映像、音、モノローグのドラマツルギーと建設現場の中と外界の違いや意識の移行を生み出すためのサウンドのダイナミクス作りを意識しました。
世界の映画祭でサウンドデザインが高く評価された作品ですが、最も印象深い音は映画の中にはなく、ワールドプレミア上映したニヨンの劇場内にありました。空爆されたアレッポの街のシークエンスの中に、ある男性がセメントの粉が舞う夜空に両腕を上げ嘆くシーンがあります。そのシーンには一切の音は入れませんでしたが、巨大なスクリーンに映し出された映像に会場内のため息やすすり泣く声がシンクロしたのです。映画が私たちが作ったサウンドデザインを凌駕した瞬間でした。この瞬間は今でも私たちとこの映画を結びつける大切な出来事でした。
ジアード・クルスームの映画作品
リンク
- 「セメントの記憶」公式サイト
- 「セメントの記憶」予告編
※記事公開から5年以上経過しているため、セキュリティ考慮の上、リンクをオフにしています。
河添 誠 KAWAZOE Makoto @kawazoemakoto
セメントの味が心をむしばんだ…元兵士が監督した記録映画「セメントの記憶」予告(コメントあり) - 映画ナタリー https://t.co/MFH9T30y2g