ドキュメンタリー「
内戦が続くシリアの都市アレッポで生き埋めとなった生存者を救おうとする救助隊“ホワイト・ヘルメット”の姿を追った本作。メンバーのハレドが、家族とともに逃げ異国で難民として生き延びるべきか、変わり果てたが心安らぐ故郷に留まり死を迎えるべきか、葛藤しながらも救助活動を続けていくさまが捉えられている。本作は第90回アカデミー賞の長編ドキュメンタリー賞部門にノミネートされたほか、第33回サンダンス映画祭ワールド・シネマ ドキュメンタリー・コンペティション部門でグランプリを獲得した。
監督の
「アレッポ 最後の男たち」は東京のシアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー。
フェラス・ファヤード コメント
私達は映画や芸術の世に大義を問う役割を信じ、私達が心血を注いだ映画をお届けします。
2011年に起きたシリアの民衆による平和的なデモは、シリア政府が軍事的解決策で対応することにより徐々に武力衝突に発展していきました。反政府勢力が都市の主要部分の支配権を掌握していたアレッポで、政権は樽爆弾や戦闘機を使い、民間人をターゲットに攻撃を続けていました。シリア紛争は、善悪の境界線がぼやけてしまい、徐々に民間人を犠牲に飲み込むブラックホールのようになってしまいました。誰もが自らの大義を優先し、勝利のために倫理をないがしろにしていました。そこで、市民は、シリア紛争の当事者たちとは異なる民間のグループを信頼するようになります。
そのグループが、国際的に知られることになったホワイト・ヘルメットです。2013年にアレッポで、私は初めてホワイト・ヘルメットと出会いました。彼らは樽爆弾が落とされた現場に急行していました。メンバーの全員が、できる限り多くの市民の命を救うために、命がけで現場に駆けつけていたのです。間もなくして樽爆弾による大爆発が起き、その時ホワイト・ヘルメットは多くのメンバーを失いました。この事故は、生存したメンバーのこれからの活動を継続する決意を固める最も重要な出来事となり、私は彼らについての映画を作ることにしました。
私は彼らが仲間を失ったことが、ますます瓦礫の下から命を救おうとする動機につながったことに惹きつけられました。彼らの視点を通じて、私はこの戦争の本質についてもっと考え、どう伝えるべきか考えるようになりました。そして、彼らの活動を伝えたいと思いました。
私はまた、困難に直面して生きる彼らの人生の精神的な内面にも迫りたいと思いました。そうすることが、シリア紛争で起きつつある過激主義、憎しみの連鎖、そして人類の価値や尊厳について疑問を投げかける機会になると感じたからです。また、テロリズムや大量殺戮といった戦争犯罪が行われている現場において、国際法の役割や重要性も伝えるべき主題の一つでした。この映画は、戦争の現実や戦争の不条理さの瞬間を捉えたドキュメンタリーです。登場人物たちと距離感が近いため、時間の共有がしやすいはずです。
人間性を最も感じる瞬間は、主人公のハリード・オマル・ハラーが、瓦礫の下から生存者を救うために手を差し伸べた瞬間でしょう。その瞬間は、ミケランジェロの絵画「アダムの創造」と全く同じ構図です。この瞬間は、根源的な人間としての在り方を示しており、戦争の恐怖からの解放を訴えています。「アレッポ 最後の男たち」は、テロリズム、孤立、国家主義、政治や宗教的過激主義などの大きな課題に直面した際の平和や人間性の必要性を問う映画です。
この映画は希望についての映画です。そして、非道な殺戮を前に私たち人類としての根源や集団として何をなすべきかを問う映画です。また、許しを理解し、復讐を克服するための道具でもあります。私達のヒーロー達が、彼らの死をもたらした人々さえも救うとき、許しを理解できるでしょう。また、この映画は、あなた自身の人生が、誰かの命を救うことができるかもしれないことを示唆する、人生の意味を問う映画でもあります。願わくば、この映画によりホワイト・ヘルメットが世界的に認知される機会となることを願っています。彼らの活動を伝えることは、シリア紛争を伝えることにもなります。結果、現在進行系で続く悲劇に終止符を打ち、平和の到来への行動につながることを期待しています。少なくとも、助けを求めている人々に、支援が集まることを願います。戦争は、人間の中で最悪の事態を引き起こしますが、それはまた、私たちの中でも最善のことをもたらします。ホワイト・ヘルメットがその実例です。
フェラス・ファヤードの映画作品
リンク
- 「アレッポ 最後の男たち」公式サイト
- 「アレッポ 最後の男たち」英語版予告編
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