「あんぱん」脚本・中園ミホが明かすヒロイン構築の苦労、今田美桜&北村匠海を称賛

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連続テレビ小説「あんぱん」の脚本を担当する中園ミホの取材会が、去る8月8日に東京・NHK放送センター内で行われた。先ごろ全話の脚本を書き終えた中園が、現在の心境や主人公のぶのキャラ造形における苦悩を吐露。戦争シーンの構築や、のぶ役の今田美桜、柳井嵩役の北村匠海らキャスト陣の印象についても語ってくれた。

「あんぱん」より、嵩(北村匠海)を抱きしめるのぶ(今田美桜)

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キャラクターがどんどん育っていくので、もっと書きたい

中園ミホ

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連続テレビ小説の脚本担当は2014年度前期の「花子とアン」に続いて2度目となる中園。彼女は「1作目より、朝ドラの過酷さをわかっている分、2作目のほうが大変だと思っていました」と切り出し、「けれども、朝ドラの放送が週6日から5日に変わったのがかなり大きくて。以前は土曜日に書くエピソードに苦労し、残りの1日分をなんとか絞り出すように書いていたこともあったんです。そういう懸念があまりなくなったから、恐れていたほどではなかった。でももちろん大変でしたけどね(笑)」と振り返る。現在の心境を聞くと、「キャラクターがどんどん育っていくので、もっと書きたい気持ちもあります。時間の都合で描けなかったエピソードもありますから」と惜しんだ。

執筆における苦労を問うと、中園は「嵩に関しては、もともと(モデルである)やなせたかしさんと文通していたので『大好きやなせさんのことを書けばいい』という感覚だったんですけど、のぶ(のモデルである小松暢)については『お父様を早くに亡くされていること』『“ハチキンおのぶ”と呼ばれていたこと』など5つくらいのエピソードしか情報がなかった」と説明。ただ、のぶと同世代の大正生まれの女性たちの手記を読み漁ると、きちんと教育を受けたほとんどの女性が“軍国少女”だったそうで、「私の母もそうでした。でも終戦によって180度考えが変わり、1回自分の価値観をすべて塗り潰すような体験をするんですよね。そういう人生って一体どういうことなんだろうと、ヒロイン像を構築するときに苦労しました」と明かした。

ゆで卵のシーンを全身全霊で演じてくれたことに頭が下がる

今田の印象を聞くと、中園は「豪ちゃんの戦死がわかったとき、のぶは蘭子に『立派やと言うちゃりなさい』という言葉を発しますが、セリフを書きながら『これを言う今田美桜ちゃんの心情は大丈夫かな……』と思って。私も書いていてすごくつらかったですし、きっと視聴者も『なんだ、このヒロイン』って思うだろうなと、苦しくなったんです」と打ち明ける。「でもそれが戦時中の感覚なんですよね。けなげに演じてくれた今田さんはすごくがんばったと思う」とも口にした。

「あんぱん」より、ゆで卵を食べる嵩

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一方で北村に抱くイメージを聞くと、中園は「私の知っているやなせさんは声も大きくて『人生は喜ばせごっこ』と言うくらい明るい方だったのですが、北村さんの演技を見ていると『きっと子供の私の前で見せていた顔はよそゆきの顔。本当は北村さんが演じているようなナイーブな方だったのではないか』と思うようになりました。彼の演技を見て嵩の造形も変わっていったんです」と打ち明ける。嵩のエピソードとして特に丁寧に描かれたのが、彼が経験する戦争の場面。中でも視聴者に印象を残したのは、第58回で嵩らが老婆から受け取ったゆで卵を食べるシーンだ。その場面は実際に戦地で起きたことではなく、中園が幼少期にラジオで聴いたニュースがもとになったのだそう。彼女は「空腹の人を救うアンパンマンの正義を描くためには、空腹がどんなにつらく、人をも変えてしまうものであることか、ということも伝えたいと思っていました。ト書きには“かぶりつく”しか書いていないんですが、北村さんたちは絶食してあのシーンに臨み、卵を殻ごと食べたのです。自分の肉体ギリギリで演じてくださって、本当に頭が下がる思いです。あれだけ戦争のシーンを長く詳細に描くことはすごく怖かったんですが、役者さんや現場のスタッフたちに感謝しています」と伝えた。

松嶋菜々子から背中を押され「思い切ることができた」

「あんぱん」より、松嶋菜々子演じる登美子

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「放送を観て驚いたこと」に話が及ぶと、中園は松嶋菜々子演じる嵩の母・登美子について「強烈なキャラですよね……。放送を観ているうちに『さすがにお茶の間の皆さんが引いてしまうかな』と思って、途中で少し“いい母親”にしようとしたんですよ」と述懐。すると監督を通して松嶋から「いえ、私は(登美子が)死ぬまでこのままいきたいです」と背中を押されたそうで、中園は「だからこそ、思い切ることができましたね。忖度しない役をあんなにチャーミングに演じられて、しかも品があって美しい。大好きな女優さんです。」と語った。

「嵩の二倍、嵩のこと好き!」に号泣、江口のりこ&浅田美代子のアドリブには興奮

お気に入りのシーンを質問されると、まず中園は、第85回でのぶが嵩の告白に対して「嵩の二倍、嵩のこと好き!」と応えるシーンをピックアップし「あの場面には私が想定していたよりも爆発力があって、観たときに号泣してしまいました」と報告。「のぶはつらい役回りでしたが、あの瞬間、やっと子供の頃の天真爛漫な自分に戻れたのです。脚本を書いているときはその変化に気付かなかったのですが、放送を観て『おめでとう』という気持ちになりました」と笑顔をのぞかせた。

「あんぱん」より、左から嵩(北村匠海)、羽多子(江口のりこ)、蘭子(河合優美)、メイコ(原菜乃華)

「あんぱん」より、左から嵩(北村匠海)、羽多子(江口のりこ)、蘭子(河合優美)、メイコ(原菜乃華)[拡大]

次に挙げたのは、第81回で江口のりこ扮するのぶの母・羽多子が嵩から赤いハンドバッグを受け取る場面。中園は「のぶ宛のものですが、最初は自分にくれたと勘違いして『ありがとう』と受け取ろうとするんですよね。本当はもっとしっかりしたお母さんなのに、あんな風にコミカルに演じてくれて面白かったです。」と語る。加えて第90回で「豪ちゃんに一生分の恋をした」と話す蘭子を登美子が抱きしめ「わかるわ」と返すシーンもセレクト。「嵩が『父さんが死んでから2回も結婚してるじゃないか』と登美子にツッコむまでは台本通りなのですが、その横で(浅田美代子演じる)朝田くらが『じゃあ合計3回も!』って何度もつぶやくんです。そのたびに羽多子が『お義母さん……!』と制止していて(笑)。その2人のアドリブが面白くて、何回も観てしまいましたね」と笑った。

中沢元紀には「親のようにハラハラ」、高橋文哉のコメディセンスを絶賛

「あんぱん」より、中沢元紀演じる千尋

「あんぱん」より、中沢元紀演じる千尋[拡大]

本作には多くの若手俳優が出演した。嵩の弟・千尋役の中沢元紀は中園自らオーディションに呼んでほしいとリクエストしたそうで、中園は「親心のような気持ちでハラハラして見ていたんですけど、本当に立派に成長してくれた」と頬をゆるませる。また嵩の友人・辛島健太郎役の高橋文哉に関しても「2枚目でクールなイメージがあったので、違った面が見たいなと思って書きました。ケンちゃんは出てきただけでその場が明るくなるような存在で、素晴らしい演技でした。コメディセンスもあるし、これからもっと活躍する俳優さんだと思います」と賛辞を送った。

「きっとやなせさんはものすごく喜んでいらっしゃる」の言葉に救われる

終盤に「やなせさんに今、何を伝えたい?」と質問が飛ぶと、中園は少し考えたのち「やっぱり『書かせていただいてありがとうございます』という気持ちですね」と回答。代議士・薪鉄子役で「アンパンマン」の声優でもある戸田恵子、やなせの生涯を描いた書籍「やなせたかしの生涯 アンパンマンとぼく」の著者・梯久美子からは「きっとやなせさんはものすごく喜んでいらっしゃると思う」と伝えられたという。中園は「その言葉に救われているんです」「本音を言うと『私は朝ドラ向きの脚本家ではないのでは?』と思うこともあるんです。個性的でとがったキャラクターを書くことが多く、明るくまっすぐなヒロイン像を描くことに苦手意識があった。だから、こうして作品を受け入れていただけることが本当にうれしいんですよ」と力強く語った。

「あんぱん」はNHK総合ほかで放送中。

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