「今宵も悪夢を」第22回ビジュアル

ホラーを語るリレー連載「今宵も悪夢を」 第22夜 [バックナンバー]

選者 / 野水伊織「ファウンド」

本当は誰が化け物なのか?理不尽な大人たちに立ち向かうジュブナイルホラー

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ホラーやゾンビをこよなく愛する著名人らにお薦め作品を紹介してもらうリレー連載「今宵も悪夢を」。集まった案内人たちは身の毛もよだつ恐怖、忍び寄るスリル、しびれるほどの刺激がちりばめられたホラー世界へ読者を誘っていく。

第22回は野水伊織がジュブナイルホラー「ファウンド」を語る。いじめられっ子で内向的な弟と、弟思いだけれど部屋に生首を隠し持つ兄。家庭環境や周囲の人間から彼ら兄弟を考察し、青春ドラマとしての本作を野水が読み解いた。

/ 野水伊織(コラム)、田尻和花(作品紹介)

何が起きているのかを声だけで察するクライマックス

「ファウンド」

「ファウンド」

世間で言われる“親ガチャ”という言葉。それとは無縁の人々が、「そんなこと言ったら親が可哀想」なんて発言しているのをたまに見かける。
けれど実際、幼いうちは家族と学校だけがほぼ世界であり社会だ。ならばそこに受け入れられなかった子どもははたしてどうなるのか? ジュブナイルホラー「ファウンド」を観ると肝が冷える。

グラフィックノベル(本編に沿って、敢えてコミックと呼ばない)を描くこととホラー映画が好きな、内向的な11歳の少年・マーティ。
いじめられっ子の彼には弟想いの兄スティーヴがいるのだが、その兄はクローゼットの中に生首を隠し持っていた。

マーティは、生首を持っているということは兄は殺人を犯しているのだろうと思いつつも、そこは子どもらしく、具体的に何が起きたのかまでは考えが及ばない。ましてスティーヴは、ホラー映画のビデオを貸してくれたり、いじめっ子に立ち向かう方法を教えてくれる。両親とは折り合いが悪いものの、マーティにとってはとても優しい兄だ。だがそれも、兄の部屋で見つけたレンタルビデオ「Headless」を観たことをきっかけに一変する。

最初にジュブナイルホラーと称したが、ほとんどの尺は、家族との時間やいじめっ子との対峙など、ジュブナイル部分に割かれている。しかしその日常にこそ、本作がホラーであるという証左があるように思う。
後半にマーティが「誰が化け物なのか」と自問するシーンがある。普通に考えれば皆、殺人を犯している兄スティーヴが化け物だと思うはずだ。
だが、そんなスティーヴを育てたのは誰なのか? それは紛れもなく、彼の両親だ。
両親はマーティに甘い。父は彼を映画館に連れて行き、母はすぐに学校を休ませる。だが父はスティーヴには常につらく当たっているし、母はそれを見て見ぬふりしている。彼らの間に何があってそうなったのか、その詳細は描かれない。
けれどマーティが初めていじめっ子にやり返した時、両親はこれまでとうって変わってマーティを非難する。
それは一見「他者に暴力を振るってはいけない」という優しい教えにも思えるが、彼らが言葉を発するほどに、「大人しくいい子だったのに失望した」「相手の親から訴えられるに違いない」という自己保身が透けて見える。
マーティが抱えている問題には向き合わず、手のかからないいい子でいることだけを強要する。そこに反すればダメな子どもの烙印を押される。もしかしたら、かつてのスティーヴも同じだったのかもしれない。
だからこそ、彼はマーティに過去の自分を重ね、優しくしていたのかも、とも思えるのだ。

では本当は、「誰が化け物なのか」?
どんなに虐待されても親を愛し続ける子どももいるように、自立する前の子どもにとって、親や周囲の大人はやはり絶対的な力を持っていると私は思う。それどころか、大人になっても幼少期の影響を引きずることだってある。
兄弟2人にとって、ホラー映画は嫌な現実から逃避するための手段だったのかもしれないし、「Headless」同様の行いを実行してしまったスティーヴも、許されることではないといえ、暴力しか抗う術がなかったのかもしれない。
明確なバックボーンは描かれない作品だが、私にとって本作は、理不尽な大人たちに立ち向かう青春物のドラマのようにも感じられる。

2012年の映画とは思えないようなザラついた画質とゆるっとしたカメラワークは、まるでホームビデオのようで妙にリアリティが増している。その没入感に身を委ね、103分、マーティの視点で兄と両親と暮らしてみてほしい。
「Headless」の描写以外にはゴアもなければ幽霊も出ない。だが安心した頃、ご油断召されるなとばかりに仰天のラストがやってくる。
何が起きているのかを声だけで察し、我々観客はマーティと一緒になって想像するしかないという拷問。そしてその先にある神々しいまでのカットに、スッキリするか恐怖するか、それはあなたの幼少期によるかもしれない。

追記:
劇中映画「Headless」は、海外盤が発売されている。私は新宿のビデオマーケットさんで購入させていただいたのだが、興味がある人はネットで探してみればまだ買えるのではないかと思う。
温泉卵のようにどぅるっとした目玉の食感を想像出来るようになること請け合いだ。

「ファウンド」ビジュアル

「ファウンド」ビジュアル

野水伊織(ノミズイオリ)

野水伊織

野水伊織

北海道出身、声優。2009年放送のアニメ「そらのおとしもの」で本格的に声優としてのキャリアをスタートさせ、以降テレビアニメ「デート・ア・ライブ」「ムヒョとロージーの魔法律相談事務所」、ゲーム「艦隊これくしょん-艦これ-」に参加している。現在は配信番組「まろに☆え~るのYouTube LIVE」に出演中。

「ファウンド」(2012年製作)

「ファウンド」DVDジャケット

「ファウンド」DVDジャケット

11歳の少年マーティの楽しみは、家族の秘密をのぞき見すること。母はベッド下にラブレター、父はガレージにヌード雑誌、そして兄はクローゼットに生首を隠しているのだ。ときどき新しくなる生首を眺めるマーティだったが、ある日クローゼットに同級生の首を見つけてしまう。
スコット・シャーマーが監督し、ギャヴィン・ブラウン、イーサン・フィルベック、フィリス・マンロー、ルーイー・ローレス、アレックス・コギン、シェーン・ビーズリーが出演した。

「ファウンド」DVD販売中

税込価格:DVD 4180円
発売元・販売元:アメイジングD.C.

※「ファウンド」はR15+指定作品

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読者の反応

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野水伊織 @nomizuiori

#映画ナタリー さんでのリレー連載、今回はスコット・シャーマー監督『ファウンド』について書きました。
『Headless』と併せて観てもらいたいジュブナイルホラー!

選者 / 野水伊織「ファウンド」 | ホラーを語るリレー連載「今宵も悪夢を」 第22夜 https://t.co/lpUZfK4yFT https://t.co/fnf6O5q7rw

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