イラスト / 徳永明子

映画と働く 第6回 [バックナンバー]

音響演出:北田雅也「理想は万能な殺し屋」

欅坂46ライブ、日本刀、銃……音を磨き上げ創造するマエストロ

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1本の映画が作られ、観客のもとに届けられる過程には、監督やキャストだけでなくさまざまな業種のプロフェッショナルが関わっている。連載コラム「映画と働く」では、映画業界で働く人に話を聞き、その仕事に懸ける思いやこだわりを紐解いていく。

今回は映像作品の音響作成や演出を担当する北田雅也にインタビュー。塚本晋也堤幸彦豊田利晃瀬々敬久井筒和幸といった映画監督たちから全幅の信頼を置かれる彼に、これまで手がけた作品の裏話や、業界に入るまでの経緯を聞いた。なお最終ページには、北田が音響効果を担当した「ザ・ファブル 殺さない殺し屋」の効果音収録風景も掲載している。

取材・/ 平野彰 題字イラスト / 徳永明子

北田雅也による手書きの履歴書。

北田雅也による手書きの履歴書。

“全部やる”人は今までいなかった

──今回北田さんにお声掛けしたのは、この連載コラムの第3回でお話を聞いた録音部・反町憲人さんのご紹介があったからなんです。履歴書の職業欄には「映像に付随する音響作成の技術と演出」と書いていただいたのですが、一言の肩書きにするなら、どうご紹介すれば正しいでしょうか?

最近は「音響効果マン」ではくくれなくなってきているんですよね。“全部やる”人は今までいなかったので。セリフもフォーリー(※注1)も環境音も1人でやるというワンマンスタイルは、あんまりないんですよ。塚本晋也さんはご自身の監督作で製作、脚本、撮影、編集といろいろ兼任されていて、その分お名前がたくさんクレジットされてますが、僕の場合も作品によってはああなる。普通は3人から5人でやる仕事を1人でやってるから。

※注1:映像作品における効果音、またはそれらを録音する手法。登場人物の衣ずれや咀嚼音、足音などさまざまなものがある。アメリカの音響効果技師ジャック・フォーリーの名前が由来。

──北田さんのフィルモグラフィをたどると「音響効果」のほか「サウンドエフェクト」「サウンドデザイン」「サウンドミックス」とクレジットされているケースもあります。

現場で録った音だけで成立する映画ってあるじゃないですか。例えば爆発とかがない作品。そういう作品で、監督との信頼関係があって全部1人で担当している人は「サウンドデザイン」とクレジットされたりしている。豊田利晃監督の「破壊の日」では自分も「サウンドデザイン」となっています。「破壊の日」では「現場に録音部を連れて行けないから、あとで北田さんがやって」と言われたので、すべてアフレコになりました。自分は時間が取れなかったからアフレコとセリフの調整はスタジオマンの方にお願いして、あとからもらった音楽やフォーリーを自分が足したんです。

──確かにそういうお話を聞いていると、一概に「音響効果マン」とはくくれないですね。

欅坂46(現:櫻坂46)のドキュメンタリー(「僕たちの嘘と真実 Documentary of 欅坂46」)では、インタビュー音声以外のカメラマイクで拾った音、ライブで録られた音楽素材などを僕が受け取って調整しました。

「僕たちの嘘と真実 Documentary of 欅坂46」DVD スペシャル・エディション ジャケット(発売元:ソニー・ミュージックレーベルズ 販売元:東宝 / 税込価格:5280円) (c) 2020「僕たちの嘘と真実 DOCUMENTARY of 欅坂 46」製作委員会

「僕たちの嘘と真実 Documentary of 欅坂46」DVD スペシャル・エディション ジャケット(発売元:ソニー・ミュージックレーベルズ 販売元:東宝 / 税込価格:5280円) (c) 2020「僕たちの嘘と真実 DOCUMENTARY of 欅坂 46」製作委員会

──あのドキュメンタリーを映画館で観たのですが、ライブシーンの音の臨場感がものすごかったです。

すごいですよね。僕もあの作品大好きなんです。監督は高橋栄樹さんという、ミュージックビデオや映画やCMを作られている方で、昔から面白い仕事があると呼んでくれる。ただ僕は欅坂46を全然知らなかったから「なんで僕を呼んだんですか?」と聞いたら「とにかくライブのシーンに迫力が欲しい。生々しさを大事にしたい」ということでした。なので、製作部さんがソニーさんに音源を発注するとき「こういう素材が欲しい」とリクエストしたら、普段のアイドル用のミックス素材という感じではない音源をいっぱい出してきてくれて、その結果ああいう音になりました。

──お話をうかがっていて考えたのですが、今回のコラムでの肩書きは「音響演出」としてよろしいでしょうか。

それでいいと思います。

映画を観に行くのが新宿の中1の遊び

──北田さんは履歴書の「今の職業を志すきっかけになった1本」として、ブライアン・デ・パルマの「ミッドナイトクロス」を挙げられています。まさに主人公の仕事が音響演出なわけですが、どういうきっかけでこの映画を観たのでしょう。

僕は10歳ぐらいまで北海道にいて、そのあと仙台と立川に住み、中1のとき新宿に引っ越しました。北海道から立川までは違和感がなかった。でも新宿の中1は多摩川に釣りに行ったりしないんです。映画を観に行ったりするのが新宿の中1の遊び。それまでの僕は池で遊んだり川で釣りをしていたから、世界観が違いすぎる。これはヤバいなと感じて、まず映画を観ようと思ったんです。当時は名画座がいっぱいあったので、池袋とか新宿とか浅草の2本立て500円ぐらいの映画館に毎週末行っていました。「ミッドナイトクロス」はその頃観たんですよ。

──どんな感想を抱きましたか?

お芝居もいいし話も面白いし、カメラワークが本当にいいなと思って。

──その段階で「自分もこの仕事を目指そう」とまでは思わなかったわけですね。

全然思わなかったです。ああいう仕事があると知ったきっかけではありますけど、まず映画としてすごく好きなんです。

「ミッドナイトクロス」(写真提供:Filmways / Photofest ゼータ イメージ)

「ミッドナイトクロス」(写真提供:Filmways / Photofest ゼータ イメージ)

──ではその後、どういうきっかけで“音”に興味を持たれたんでしょうか。

高校に入ったとき、母がミニコンポを買ってくれたんですけど、つまみがいっぱいある機械が好きだったので、それをずっといじってました。レコードからカセットに音をコピーするとなんで音が劣化するのかわからなくて、グライコ(※注2)をいじって。それから大学生になってバイトを始めて、ちゃんとしたオーディオセットを買ったら、音がすごくよかったんですね。グライコとかで補正しなくてもすごくいい音で録音できるのがわかったので、オーディオにハマっていっぱい機械を買っていました。ちょうどその頃にハイファイビデオデッキも発売されたんですけど、当時ビデオ屋でバイトをしていたから、自分が組んだセットで毎日3本ぐらい映画を観るという生活が5年ほど続いて。で、観ていたのはほとんど洋画だったんですが、たまに気になる邦画があって観ると音が悪くて……。「これなら自分のほうがうまくできるんじゃないか?」と思ったんです。まあ若気の至りですよね。

※注2:グラフィックイコライザー。音質調整をするエフェクターの1種。

──なるほど。

洋画は基本的に音がいいじゃないですか。特にビデオになるような作品は大作ばかりだから音がいい。あとその頃の邦画はほぼモノラル(※注3)で、アメリカは基本的にドルビーサラウンド(※注4)。モノの映画ってオーディオ帯域(※注5)も狭いし、立体的に聞こえない。ただ邦画でも、伊丹十三さんの映画の音質だけは洋画に劣っていませんでした。小野寺修さんという録音の方が伊丹さんの作品を担当されていたんですけど、のちに自分が入った会社で音響効果助手として伊丹作品に参加することができました。

※注3:ここでは1チャンネルのオーディオ方式のこと。なおステレオでは左右の2チャンネル、サラウンドでは3チャンネル以上の音声が再生される。

※注4:アメリカのドルビーラボラトリーズ社が開発した音響方式の1種。

※注5:人間が音と認識できる周波数帯域。

──その会社というのが、履歴書の経歴にある「23才 撮影所の中にある音響効果の会社員になる」の会社でしょうか?

そうです。東洋音響カモメ(現:カモメファン)ですね。

たまたまの上にたまたまが乗っかった結果、今の僕がある

──経歴を読んでいくと「29才 もえつきて無職 2年あそぶ」とありますが、この「もえつきて」というのは何かきっかけが……。

ほぼ休まず働いていたからです。朝4時終了で朝9時開始みたいなのが1カ月続いたり、50時間ぐらい寝られない作品があったりして、疲弊して、やる気がなくなっちゃったんですね。

──続いて「31才 フリーランスとしてアルカブースの社長に世話になる」とあります。アルカブースも東洋音響カモメと同じく音響効果の会社ですが、2年のブランクの間はどう過ごされていたんですか?

2年のうち1年はもともと休むつもりで、そのあとも半年休んでいました。うちの奥さんからは「毎月11万円払えば休んでていいよ」と言われていたから、貯金を切り崩して11万円払っていたんですけど、1年半経ったらさすがにヤバくなってきた。で、あるとき、僕とほぼ同年代の岡瀬晶彦さんという音響効果マンから電話があったんです。岡瀬さんが「今、何してんの?」と聞くから「なんにもしてない」と答えたら「柴崎さんが盲腸になっちゃって、映画が1本飛びそうなんだよね」と言う。柴崎さんというのはアルカブースの社長の柴崎憲治さんです。そこから「Pro Tools(※注6)で仕込みができて映画の効果音ができて暇な人間って北田くんしかいないんだけど、できない?」と頼まれたので、翌日から2週間アルカブースに行って作業しました。で、退院してきた柴崎さんと会ったら「今回(ギャラは)50万でいいか?」と聞かれた。それをきっかけに「これからは金のためにここで働こう」と思ったんです(笑)。

※注6:アメリカのアビッドテクノロジー社が開発した、音楽制作および映像用サウンド作成ソフト。

──(笑)

それからアルカブースで3年間いろんな仕事をやらせてもらって、子供が生まれ、自宅で作業するようになって、完全なフリーランスになったという感じです。

──思わぬきっかけで復帰されたんですね。

そうです。たまたまの上にたまたまが乗っかった結果、今の僕があるんです。もともと僕は怠惰で面倒くさがりで、基本的には何もしたくない。でも一緒に仕事をした人たちの要望に応えているうちに、いろんなことができるようになったんですね。

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