6月14日、米ウェストハリウッドでのBlack Lives Matterデモの様子。(写真提供:JIM RUYMEN / UPI / Newscom / ゼータ イメージ)

「作品に罪はあるのか」を考える

BLMの影響、キャンセルカルチャーへの危惧…ハリウッドの“声”を聞く

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罪や疑惑のある人物が関与した作品に、我々はどう向き合うべきか。映画を愛する者にとって、これは悩ましい命題だ。ましてや今、映画会社UPLINKのパワハラ問題が明らかになり、性的虐待疑惑をかけられているウディ・アレンの新作「レイニーデイ・イン・ニューヨーク」の封切りを迎えた日本において、より身近なものになっていると言えるだろう。

この問題に、確かな答えはないかもしれない。しかし個人的にも、業界の端に身を置く者として、見て見ぬ振りはしたくないと感じた。そこで今回は考え方のヒントを得るため、先日アレンに電話インタビューしたばかりだという米ロサンゼルス在住の映画ライター・平井伊都子に取材を実施。#MeToo運動の発祥地であるハリウッドでの例を挙げながら、映画作品への態度や新たな声を紹介していく。

取材・文 / 浅見みなほ

消されなかったワインスタインの“過去”

「作品に罪はあるのか」を考えるにあたり、まず世界的ムーブメントとなった#MeToo運動について振り返ってみよう。2017年10月5日、大物映画プロデューサーのハーヴェイ・ワインスタインが、The New York Timesの記事によってセクハラを告発された。これは彼が業界での影響力を悪用し、女性たちにセクシャルハラスメントや性的暴行を繰り返していたというもの。被害者は名乗り出ただけでも80人以上に及び、ワインスタインは禁錮23年の有罪判決を受けた。本件をきっかけに#MeToo運動が広がり、ケヴィン・スペイシーらも告発の対象となった。

2020年2月24日、有罪判決を受けた日のハーヴェイ・ワインスタイン。(写真提供:JOHN ANGELILLO / UPI / Newscom / ゼータ イメージ)

2020年2月24日、有罪判決を受けた日のハーヴェイ・ワインスタイン。(写真提供:JOHN ANGELILLO / UPI / Newscom / ゼータ イメージ)

このとき、ワインスタインが関わった作品はどのような扱いを受けたのか。結果は「ワインスタイン・カンパニーが製作した今後の作品から、ワインスタインのクレジットを削除する」というもの。つまり彼が携わった過去作品のクレジットが修正されることはなかった。この流れについて、平井は「ワインスタインが主にビジネス面をリードするプロデューサーであり、クリエイター、アーティストではなかったこと、映像製作には数千人のスタッフが関わっていて、彼1人で作っているわけではないことが大きいと思います。でも、ここからハリウッドの体質が『問題に対して声を上げていこう』というものに大きく変わったのは事実。そこからFOXニュースでのセクハラ騒動を描く作品『スキャンダル』も作られました」と振り返る。

またドラマ「ハウス・オブ・カード 野望の階段」は、セクハラを告発された主演のスペイシーが降板となり、最終シーズンは彼なしで製作された。キャスト、エグゼクティブプロデューサー、監督として関わるロビン・ライトに当時取材した平井は「スペイシーが降板しても番組を継続させた理由は『シリーズを中断してしまうと、ロケ地である米メリーランド州の1000人以上の人たちから、約束していたはずの職を奪うことになってしまう。子供たちを養ったり、ローンを払ったり……彼らを路頭に迷わせるわけにはいかないからです』と言っていました」と話した。

ウディ・アレンの疑惑とその複雑性

ウディ・アレンの新作「レイニーデイ・イン・ニューヨーク」のケースは、より複雑だ。まず発端は1992年、当時女優のミア・ファローと交際中だったアレンが、彼女の養子であるスン=イー・プレヴィン(ミア・ファローとアンドレ・プレヴィンの養子で、当時21歳。アレンとはその後1997年に結婚)と性的関係を持っている事実が発覚した。ミア・ファローは、アレンと子供たちの親権を争う中で、彼が当時7歳の養女ディラン・ファローに性的虐待を行ったと主張。親権は失ったアレンだが、虐待については2度の公的調査を経て不起訴に。しかし2014年にディラン・ファローが「虐待はあった」とする公開書簡を発表した。一方ディランの7歳年上の兄モーゼス・ファローはアレンを擁護し、反対にミア・ファローから受けた虐待を告発している。

2010年5月、カンヌ国際映画祭でのウディ・アレン(右)。隣は妻のスン=イー・プレヴィン。(写真提供:URMAN LIONEL / SIPA / Newscom / ゼータ イメージ)

2010年5月、カンヌ国際映画祭でのウディ・アレン(右)。隣は妻のスン=イー・プレヴィン。(写真提供:URMAN LIONEL / SIPA / Newscom / ゼータ イメージ)

2018年にアメリカで公開予定だった「レイニーデイ・イン・ニューヨーク」は、アレンの性的虐待疑惑と#MeToo運動の影響で上映中止に。他方でヨーロッパでは2019年から上映され始め、日本では2020年7月3日に全国公開された。ハリウッドで強い逆風にさらされているアレンに取材したばかりだという平井は「今後アメリカ資本で映画を作る気はないでしょう。取材した際の印象としては、もうアメリカやニューヨークに対して希望も愛情も薄れてしまっているというもの。今脚本を書いている次回作もパリで撮影するそうです」と証言する。

平井は本件とワインスタイン問題を比較し「ワインスタインが有罪なのは、彼が作品製作過程でその立場を利用し女優や業界関係者から搾取していたところ。もちろん、アレンが作品制作から得た財で子供たちの生活を支配していたと考えれば話は別ですが。過去に不起訴になっているアレンにかけられているのは、あくまで嫌疑であるため、現時点で彼に制裁を加えるのは誹謗中傷にあたる危険性もあります」と述べる。またアレンの嫌疑は家庭内のものであること、その家庭内で主張が分かれていること、さらには疑惑の内容が約30年前の行動であることから、第三者が見極めるのは非常に難しいケースと言えるだろう。

「レイニーデイ・イン・ニューヨーク」の公開中止と新作3本に関する契約解消を決定したAmazonスタジオと、それは契約違反であると訴えたアレンが裁判で和解した事実も、“アレンが有罪である”と断定できないことの表れだと、平井は述べる。さらに彼女は「ただし同作は、アレン批判の流れにあるアメリカでは今でも上映禁止のまま。これはAmazonが根本的にテック系の上場企業だという面も関係しているでしょう。彼らの判断基準はあくまで公衆の意見。映画専門の配給会社であれば作品の芸術的価値がより尊重された結果になっていた可能性もあります」と続けた。

また「レイニーデイ・イン・ニューヨーク」キャストが取った行動についても考えてみよう。2017年10月、同作に出演したことへの後悔をツイートしたグリフィン・ニューマンは、性的虐待等の被害者を支援するチャリティ団体RAINNへ自身のギャランティを寄付すると発表した。また2018年1月にはティモシー・シャラメセレーナ・ゴメスレベッカ・ホールも、セクハラと闘うチャリティ団体Time's Upなどにギャラの寄付を表明。出演料であるかは不明だが、エル・ファニングもTime's Upへの寄付を行ったとされている。ただしシャラメの例で言えば、Instagramで発表した声明内でアレン自身を批判したわけではない。平井は「アレンが有罪だと言い切れるのなら、自分の出演シーンをカットするよう訴訟を起こすことも可能だったと思う。でも真実がわからないこのケースにおいて、彼はアレンを断罪するのではなく、あくまで “問題に対し声を上げようとする団体”に寄付する姿勢を示しました。右に倣えではなく、シャラメ自身が考えてこの行動を起こしたという部分を重要視したい」と語る。

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