罪や疑惑のある人物が関与した作品に、我々はどう向き合うべきか。映画を愛する者にとって、これは悩ましい命題だ。ましてや今、映画会社UPLINKのパワハラ問題が明らかになり、性的虐待疑惑をかけられている
この問題に、確かな答えはないかもしれない。しかし個人的にも、業界の端に身を置く者として、見て見ぬ振りはしたくないと感じた。そこで今回は考え方のヒントを得るため、先日アレンに電話インタビューしたばかりだという米ロサンゼルス在住の映画ライター・平井伊都子に取材を実施。#MeToo運動の発祥地であるハリウッドでの例を挙げながら、映画作品への態度や新たな声を紹介していく。
取材・
消されなかったワインスタインの“過去”
「作品に罪はあるのか」を考えるにあたり、まず世界的ムーブメントとなった#MeToo運動について振り返ってみよう。2017年10月5日、大物映画プロデューサーの
このとき、ワインスタインが関わった作品はどのような扱いを受けたのか。結果は「ワインスタイン・カンパニーが製作した今後の作品から、ワインスタインのクレジットを削除する」というもの。つまり彼が携わった過去作品のクレジットが修正されることはなかった。この流れについて、平井は「ワインスタインが主にビジネス面をリードするプロデューサーであり、クリエイター、アーティストではなかったこと、映像製作には数千人のスタッフが関わっていて、彼1人で作っているわけではないことが大きいと思います。でも、ここからハリウッドの体質が『問題に対して声を上げていこう』というものに大きく変わったのは事実。そこからFOXニュースでのセクハラ騒動を描く作品『
またドラマ「ハウス・オブ・カード 野望の階段」は、セクハラを告発された主演のスペイシーが降板となり、最終シーズンは彼なしで製作された。キャスト、エグゼクティブプロデューサー、監督として関わる
ウディ・アレンの疑惑とその複雑性
ウディ・アレンの新作「レイニーデイ・イン・ニューヨーク」のケースは、より複雑だ。まず発端は1992年、当時女優の
2018年にアメリカで公開予定だった「レイニーデイ・イン・ニューヨーク」は、アレンの性的虐待疑惑と#MeToo運動の影響で上映中止に。他方でヨーロッパでは2019年から上映され始め、日本では2020年7月3日に全国公開された。ハリウッドで強い逆風にさらされているアレンに取材したばかりだという平井は「今後アメリカ資本で映画を作る気はないでしょう。取材した際の印象としては、もうアメリカやニューヨークに対して希望も愛情も薄れてしまっているというもの。今脚本を書いている次回作もパリで撮影するそうです」と証言する。
平井は本件とワインスタイン問題を比較し「ワインスタインが有罪なのは、彼が作品製作過程でその立場を利用し女優や業界関係者から搾取していたところ。もちろん、アレンが作品制作から得た財で子供たちの生活を支配していたと考えれば話は別ですが。過去に不起訴になっているアレンにかけられているのは、あくまで嫌疑であるため、現時点で彼に制裁を加えるのは誹謗中傷にあたる危険性もあります」と述べる。またアレンの嫌疑は家庭内のものであること、その家庭内で主張が分かれていること、さらには疑惑の内容が約30年前の行動であることから、第三者が見極めるのは非常に難しいケースと言えるだろう。
「レイニーデイ・イン・ニューヨーク」の公開中止と新作3本に関する契約解消を決定したAmazonスタジオと、それは契約違反であると訴えたアレンが裁判で和解した事実も、“アレンが有罪である”と断定できないことの表れだと、平井は述べる。さらに彼女は「ただし同作は、アレン批判の流れにあるアメリカでは今でも上映禁止のまま。これはAmazonが根本的にテック系の上場企業だという面も関係しているでしょう。彼らの判断基準はあくまで公衆の意見。映画専門の配給会社であれば作品の芸術的価値がより尊重された結果になっていた可能性もあります」と続けた。
また「レイニーデイ・イン・ニューヨーク」キャストが取った行動についても考えてみよう。2017年10月、同作に出演したことへの後悔をツイートした
アメリカの美徳は間違いから目をそらさないこと
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木内達朗 Tatsuro Kiuchi @kiuchitatsuro
「作品に罪はあるのか」を考える https://t.co/Pl2283uD5b