青年誌の読者はモノがリアルじゃないと
唐木 最初僕が抱いていた、なんでまゆたんが「孤高の人」なんだろう、って疑問も、こうしてお話をお伺いしていると、むしろもっともというか、まゆたん好みの作品だな、という気すらしてきました。絵もキャラもトンデモ描写も、非日常への「のめり込ませ力」がすごいってことですね。
新條 でもまあやっぱり、絵がすごいです。この絵で見せられたら、なんでもわからせられちゃうというか。
唐木 その絵の話で、この機会にぜひお聞きしておかなきゃと思っていたのですが、もう10年も前の作品ですが、ライフルの構え方がおかしいっていうんで、ネットでネタにされてたじゃないですか。僕はちょっと苦々しい気持ちで眺めてたんですが。話が面白くて売れた人なんだからそれでいいじゃんって。
新條 少女マンガを描いてたときは10代の女子に向けて描いてるのであって、ライフルのオタクに向けて描いてるわけじゃないので、そんなとこ読者は見てないよ、って感覚だったんですよね。だって常に時間がない状態で、どこに力を入れるのが大事か判断しなきゃならない。となると……。
唐木 少女誌なら、女の子をのめり込ませる部分ですよね。相手役の男の子をいかにカッコよく描くか、とか、もしくはお洋服とか。
新條 そうです。そこに時間を使いたいんです。だからネットの人に揶揄されたりしても「いや別にあなたたちのために描いてたんじゃないから」って気にしないんですよ。笑う人間は笑えば、って感覚で。
唐木 なるほど。
新條 でも青年誌の読者はモノがリアルじゃないと気を削がれてしまいますので、そうは言ってられない。資料をたくさん集めて、本を読んで勉強もしてますし、アシスタントに描写してもらうための時間も十分に取るようにしています。
ライフル画像を公開した真意は
唐木 Twitterで拝見したんですけど、ライフル買ってましたね。すごく大きな。
新條 あはは、買いましたね、資料用に。いま月刊ヤングマガジン(講談社)でやってる「エリート!!」は刑事ものなんで、銃やクルマはすごく綿密に描いてるんです。
唐木 クルマは実車を見て描いてるんですか?
新條 さすがにすべては無理なので、精巧にできたミニチュアモデルを参考にしてますね。でもタイヤとかホイールのどアップなんかはミニチュアだとわからないですから、そういう場合は実車で。ライフルも別にわざわざ買わなくても同じアングルの資料もあったんですが、トーン使いとか影のディテールとかわからないからってことで一応買ったんです。
唐木 いやー、あれを構えてる新條さん素敵でしたよ。人気画像になりましたね。
新條 あれ、もう私びっくりしたんですよ! 届いたとき「これ本当に重いよ~」とか話してる様子をマネージャーが写真に撮っていて、面白がってアップしただけなのに、あれよあれよという間に1万くらいビューがあって。仕事中だったんで何が起こったのかさっぱりわからなかったです。
唐木 でも揶揄されてたのは知ってて、さらにそこで自分自身をネタにしてみせたわけじゃないですか。そこはタフだなあ、すごいなあと思いました。
新條 私は本当に打たれ強いというか自分の正義がはっきりしているので、誰になにを言われても、腹も立たないし。まあ私がライフル構えてたらちょっと面白いかな、と写真をアップしたんですけど、あんなに反響があるとは思ってなかったですね。
唐木 でも僕はあの写真見て、「エリート!!」絶対面白くなるなって確信しましたよ。ライフル取り寄せて構え方確認してるってことは、少女誌とは違う気概で、青年マンガ描いてくってことなんだな、さすがだな、って。
新條 本当ですか、ありがとうございます。いまは仕事の幅も広がりましたし、いろんな意見をお伺いして真摯に描いていこうと思ってます。
唐木 や、でもそんな先生の気迫がアシスタントにも伝わって、そうして生みだされた描写が没入感を生み、読者を作品にのめり込ませると。そこは「孤高の人」とも通じる話じゃないでしょうか。そんなところでお時間が参りましたので今日のコミナタ漫研をお開きにいたしましょう。本日のゲスト、
コミックナタリー @comic_natalie
第4回コミナタ漫研レポート(ゲスト:新條まゆ)【5/5】 http://natalie.mu/comic/news/46532