第3回コミナタ漫研レポート(ゲスト:相田裕)【4/5】

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同じ時点に起きたことを表現するフキダシの技巧

唐木 当たり前のことかもしれないですが、それを意識的に操作しているわけですね。ではもうひとつ面白いページを見てみましょう。

スクエアなコマ割りでも…

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相田 さっき見た「ちはやふる」の、フキダシが3コマにまたがっているのと似てますよね。フキダシが枠線に溶け込んでしまっている。3コマ目なんて手のアップが描かれた、すごく内面描写的なコマなんですが、加えてフキダシが溶け込んでいると、心理描写が強まっている印象を受けます。フキダシの輪郭もゆらっとしていて。

唐木 手のアップって内面の描写なんですか?

相田 手ってマンガでも芝居でも感情を伝えるアイテムでしょう。顔を見せないで手を見せるとなると、ことさらに感情を伝えますね。そういう内面を描いたのがこの3コマ目。コマ割りはスクエアで、枠線は太いですが、ちゃんと内面が描写されて伝わってきます。

唐木 「ちはやふる」は縦割りのコマで枠線が細く、客観カメラのフレームを溶かしていくという手法で内面世界を伝えていたけど、横イチのどっしりしたコマ割りで、太い枠線でも、内面世界を伝える方法がある、と。

相田 そうですね。さっきの背景を抜くとか、フキダシの形とか、いろいろできる。もうひとつ、このコマもフキダシが枠線をまたいでる例です。

フキダシがコマをつなぐ

フキダシがコマをつなぐ[拡大]

相田 僕、これ、上手すぎる! って戦慄したコマなんです。どこが上手いかっていうと、順に読んでいくと、2コマ目のフキダシで、読者の視線が1コマ目の女の子の表情に戻ってくるんですよ。

唐木 コマを1回巻き戻してるんですね。自然に読んでるだけなのに。

相田 だからこれは、1コマ目と2コマ目が同じ瞬間であるという状況を表しているんです。「ちはやふる」はコマ間を曖昧にすることで同じ時間に存在させていましたが、「青い花」はフキダシのテクニックでそれをやってるんです。

唐木 ひとつのセリフが発声されている間の、ふたつのアングルが表現されてるんですね。これはちょっとすごい工夫だ……。

裏切りに次ぐ裏切りで、読者の心を離さない

唐木 では「ちはやふる」に話を戻しまして、その特徴であるタテ位置のグイグイ感とモノローグ多発の内面描写、これがドラマ面に与える影響みたいなことを伺えますか。

相田 「ちはやふる」って、すごく引っ掛けが多い作品なんですよ。しかも読者は、ことごとくそれに引っかかってしまう。それができるのは、さっきおっしゃった感情移入の引き込み力が強いからじゃないかな、と。

唐木 ガーッと引き込まれてるから、だまされちゃう。なるほど。すぐ思い当たるのは、あれですね、前クイーンとの対戦シーン。

ユーミン

ユーミン[拡大]

相田 ええ。最初、前クイーンは戦意がなくて、千早は「この人なめてんの」って憤るんですよね。また見た目を平凡に描くから効果が増してるんですけど。

唐木 千早は気合い入ってるのに。

相田 でも競技中、前クイーンが息を吹き返すんです。で、本気を出すとやっぱり強いんですよ。読者も千早と同様、「何だこの平凡な顔した戦意の低い相手は」ってなめて読んでるから……。

唐木 強烈なしっぺ返しを食らいましたね。見事に作者の誘導に引っかかって。あとあれですね、クイーン詩暢が太って登場したとき!

相田 あのクールな詩暢ちゃんが激太りで。しかもすごくダサいTシャツを着てたりね。

唐木 ダディベアTシャツね(笑)。

相田 あれ、この子クールじゃないじゃん、って親しみを感じたところで、対戦してみるとものすごく強い。ちょっと親近感持った読者をまた突き放すんですね。

唐木 太っちゃったせいで動きが悪くなって負けるのかと思いきや、ものすごく強いし。

相田 天才は太っても天才で強いって、あれちょっと残酷な描写でしたよね。凡人が努力しても敵わない部分があるという。(つづく)

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第3回コミナタ漫研レポート(ゲスト:相田裕)【4/5】 http://natalie.mu/comic/news/44573

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