西島大介のマンガ学校、公約どおり全生徒をマンガ家に

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去る8月某日、講談社の会議室にて、講談社BOXの主催により「西島大介のひらめき☆マンガ学校」の1学期3回目となる授業が行われた。コミックナタリーは教室への潜入に成功。他に類を見ないマンガ教室の現場レポをお届けしたい。

西島大介(左)、さやわか氏(右)の両講師。

西島大介(左)、さやわか氏(右)の両講師。

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このマンガ学校、「受講者全員がマンガ家になれてしまう」という公約のもと、西島大介とライターさやわか氏が教鞭を取り、7月からおよそ1年間にわたって10回程度の講義が行われるもの。多数の参加希望者から受講者に選ばれたのは、現役のマンガ原作者から女子高生、コスプレキャバ嬢、僧侶までバラエティに富んだ16人だ。

しかも授業ではありがちな技術論に軸足を置いたマンガの描き方ではなく、いかにしてマンガ家になり、マンガ家として生きていくかの実践的な方法論を教えるとのこと。実際に1学期の終了時点、すなわちこの日の授業のおしまいには、生徒全員をマンガ家にするという。この前代未聞の試みにいかなるアクロバットが待っているのか、教室には生徒の数を超える業界関係者が見学に詰め掛けた。

授業はまず、前回の宿題の講評から始まった。宿題のテーマは「既存のマンガを指定の時間で模写する」。指定の時間は生徒によって異なり「1コマ1時間で4コママンガ」「1ページ15分で15ページのマンガ」「1ページ5分で30ページのマンガ」の3コースだ。これは「自分にとってどのくらいペン入れに時間を割くのが適正か」を知るための演習だという。

両講師によれば、マンガ家が作画にどのくらい労力を投入すべきかに正解はなく、背景やトーンをアシスタントが担当しマンガ家がペン入れする分業体制を標準とするのは間違いだという。西島はその一例としてほしよりこ「きょうの猫村さん」を挙げ、「ササッと鉛筆描きでも成立しているんだから、それでマンガです」と断じた。

スクリーンに次々映し出されていく宿題を、両講師が評していく。「××さんは時間を掛けたほうがいいタイプかと思って4コマ課題。でもこれ、こんな描き込まなくても成立するというか、絵が重いせいでつまんなくなってる。もっとスカスカのほうがいい(さやわか氏)」「○○さんは週刊連載向きかと思って1ページ5分でお願いしたけど、大失敗。マンガになってません。じっくりタイプでしたね(西島)」といった具合。

休憩を挟んで、いよいよ本日の講義に。この日のテーマは「マンガに物語はどれくらい必要か」。まずは西島が、自らの体験談としてデビュー前夜を語った。西島によれば、当時の自作はイラストの連続にしか過ぎず、ストーリーマンガが描けないと悩んでいたという。そこで西島が編み出したのが、まず文章で物語を書いてしまい、それをコマ割りした吹き出しにはめ込んでいくという手法。この手法を用いた「凹村戦争」で西島はデビューを果たした。

この話を受けて「じゃあマンガは、文字情報さえあればどうとでもなる?」とさやわか氏が聞くと、「うん、人が話してるようなうまい構図さえあれば、あとはそこに適当に文字を流していくとマンガになる」と西島は自信たっぷり。訝しげな眼差しの生徒たちを前に、「では例をひとつ挙げてみましょう」とスクリーンに映したのは、うえやまとち「クッキングパパ」と雁屋哲原作・花咲アキラ作画「美味しんぼ」の1ページだ。

さやわか氏が「この美味しんぼの文字だけ取り出して、クッキングパパに流し込むとどうなるでしょう」と言うや、吹き出しの中身だけ入れ替えられたページが映された。「……読める」と生徒がつぶやくと、「もうひとつ、今度はドラゴンボールにワンピースの文字を流し込んでみました」と畳み掛ける。冗談のようだが、このまま雑誌に載っていても違和感がない画面だ。「結論として、マンガというのは適当な文字情報が流し込まれてさえいればOK」と西島。

授業はこの結論を受けて、演習へと突入する。課題は、事前に生徒に回答してもらった「理想の恋愛関係とは?」というマンガと無関係なアンケート用紙を、吹き出しだけが印刷された用紙に絵とともに描き込んでマンガにするというもの。物語以下の文字情報を使ってマンガを成立させる=物語が思いつかなくても連載を続けていける、というのが目的らしい。

40分後、次々と生徒の作品がスクリーンに映され、講評されていく。「文字情報の流し込み方が、大きく3つに分かれた」とさやわか氏。ひとつは質問と回答をそのまま会話に流し込んだグループ。もうひとつはキャプション的にあしらいを入れたグループ、そしてアンケートからまったく飛躍してしまったグループ。そしてそれぞれを例に、文字情報を流し込む際、テクニカルな演出の介入する余地があることを説明した。

既定の授業時間を1時間半オーバーして、この日のプログラムは終了。果たして生徒たちはマンガ家になれたのであろうか。不安げな生徒たちを前にマイクを取るさやわか氏。「みなさんはコミックナタリーをご存知でしょうか。2000人のマンガ家がデータとして登録されているサイトです」。続いて西島が「そのコミックナタリーに、もうみなさん、マンガ家として登録されてるんですよ」。

スクリーンには当サイトのマンガ家データベースが映し出される。実は両講師の要請により、この日、受講者16名のプロフィールがコミックナタリーに登録されていたのだ。「これで全員、パブリックにマンガ家です。さらにマンガ家になった証明として、全員に名刺を作りました。今から渡します」とさやわか氏。狐につままれたような表情の生徒たちに西島より名刺が手渡されていく。

そしてこの名刺には続きがあった。西島から告げられた2学期までの宿題は「1学期に学んだことを踏まえてオリジナル作品を完成させ、どこでもいいから出版社に持ち込み、掲載までこぎつけること」。持ち込みの際にこの名刺を使えというのだ。顔面から血の気が引いていく、16人の新人マンガ家たち。2学期の開講は年明けとのこと。コミックナタリーでは引き続きこの無茶ぶりマンガ教室の行方をレポートしていく予定だ。

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