アニメスタジオクロニクル Vol.21 サテライト 佐藤道明

アニメスタジオクロニクル No.21 [バックナンバー]

サテライト 佐藤道明(代表取締役)

設立30周年、少しでも社員が働きやすいスタジオに

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育ったプロデューサーが独立していくのも歓迎

時は前後するが、佐藤氏は2003年にサテライトの社長に就任する。2001年の独立までグループ会社であるビー・ユー・ジーからやってくる社長が目まぐるしく交代しており、佐藤氏は5代目となる。

「社長になってからも現場でプロデュースをしていましたが、それも2006年くらいまで。OVAの『HELLSING』の途中が最後だったかな……けっこうな数のタイトルを動かしていたので記憶が曖昧ですけど。2006年にSANKYOと資本提携したタイミングで、本社を北海道から東京に移して社長業に専念することにしました。

社長になった際に考えていたのは、アニメ業界の仕組みに少しでも抵抗したいということです。もともとアニメと全然関係ないコンピュータ業界の経理畑の出身なので、アニメ業界でヒット作が生まれても、資金を出した人だけが利益を得られて制作者が報われないことにすごく違和感がありました。もちろん1人の力でできることは少ないけど、せめて自分はクリエイターが報われて、働きやすい会社にしたいなと。今では業界全体で改善したこともだいぶありますが、それでもまだ思うところはありますよ」

その後、佐藤氏のもとでサテライトが継続的にバラエティ豊かなアニメを制作してきたのは多くのアニメファンの知るところだろう。2008年の「マクロスF」は爆発的なヒットとなり、「創聖のアクエリオン」や「戦姫絶唱シンフォギア」も好評を受けてシリーズ化。「しゅごキャラ!」「モーレツ宇宙海賊」といった原作ものも手がけつつ、新規のロボットアニメにも挑戦する。外からは大変な充実を感じられるが、佐藤氏は「最近になってようやく安定して作れるようになってきた」と語る。

「戦姫絶唱シンフォギアG」キービジュアル (c)Project シンフォギアG

「戦姫絶唱シンフォギアG」キービジュアル (c)Project シンフォギアG

「アニメスタジオの安定感って現場でラインを管理するプロデューサーがすべてだと思うんです。ただ、うちはプロデューサーが育っては独立し、育っては独立しという状況が続きました。エイトビットの葛西励さん、GoHandsの岸本鈴吾さん……ほかにもたくさんいますが、そういう独立支援のようなことをしてきたので、今の安定感が出てきたのはここ4、5年のことです。ただ個人的には、社員が独立することに関してあまり抵抗がなくて。それまでうちで一所懸命にがんばってくれたんだから、独立するときは応援しようと決めています。この姿勢はこれからも変わらないでしょうね」

社員が働きやすいスタジオにすることが最後の使命

サテライトは設立30周年を迎える2025年に「SATELIGHT 30th Anniversary SATEFES!」というイベントを開催する。声優による朗読劇やアーティストによるライブも行なうという、アニメスタジオの周年イベントとしては異例の規模の催しだ。

「『30年という1つの区切りだし、何かやろう』と言い出したのは自分です。正直、私が社長としてこういうことをやれるのは最初で最後かなと思ったもので。40周年? あればいいけどね(笑)。内容も、作品の垣根を超えて声優さんやアーティストさんがコラボするというもので、あまりほかで観られないでしょう。制作会社しかできないようなことを仕込んでいるので、作っている側としても『どうなるんだろう?』と楽しみです。朗読劇が河森正治監修の新規の書き下ろしなので、彼のファンはもちろんですが、過去のいろんな作品が登場するので、多くのアニメファンに楽しんでもらえるものになるはずです。まあ実際にがんばっているのはそこの人(同席するライツ部課長を指しながら)とかなんだけど。

ただ、自分も少しがんばったんですよ。クリプトン・フューチャー・メディアの伊藤社長が自分と同じ北海道標茶町(しべちゃちょう)出身で。北海道出身としての縁もあるから、『30周年なので初音ミクとコラボできないか』とFacebookでメッセージを送って、お願いしたんです。自分も伊藤社長も同じ小さな町の出身なので、『標茶帰ってる?』なんてノリで返事がきたりしたんだけど(笑)。それが実現し、bless4のAKINOさんとデュエットしてもらう事になりました」

そんな「サテフェス」のような盛大なイベントの裏では、佐藤氏が社長就任時に思い描いていた待遇面の改善も進められている。近年サテライトでは福利厚生の充実が図られ、ほかのアニメスタジオも参考のために訪れるほどだそうだ。

「アニメに関わる人たちは不規則な生活を強いられることがあって、その中で時間や手間の都合で毎日カップ麺やコンビニの弁当になることもある。それらが悪いとは言いませんが、毎日続くことに対しては危惧しています。なぜかと言うと、自分もそうだったから。そういう生活を続けて40代、50代になると健康面で何かしら問題が出てくる。だから特に若い社員に栄養バランスの取れた食事を提供したくて、2024年11月から社員食堂を始めました。あとはデスクワークが多い業界なのでパーソナルトレーナーに来てもらって体幹トレーニングをしてもらったり、英語の先生に英会話レッスンをしてもらったりもして。それで健康に意識を向けるとか、英語ができることで楽しさが増えるとかなったらいいなと。

佐藤道明氏

佐藤道明氏

今後の話になりますが、少しでも社員が働きやすいスタジオにすることが、自分が最後にやっておかなければいかないことだと思っています。20年前とかはハイエンドな作品作り……最近だとWIT STUDIOさんやMAPPAさんのような作画力を持ちたいし、負けないようにがんばろう!みたいな気持ちがありました。でもアニメスタジオってやっぱり人次第で、クリエイターの才能によってスタジオの価値が高まると最近は考えています。そういった人が集まって定着してもらうためにも、働きやすく居心地がいい会社にしたいです。そのために、30周年をきっかけとしてやりたいことはまだまだたくさんありますよ」

佐藤道明(サトウミチアキ)

1968年生まれ。サテライトの母体となるビー・ユー・ジーで経理を務め、2003年にサテライトの社長に就任。「地球少女アルジュナ」「創聖のアクエリオン」「マクロスF」「モーレツ宇宙海賊」「戦姫絶唱シンフォギア」「宇宙戦艦ヤマト2205 新たなる旅立ち」などを手がける。

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かしわもち @kashiwamochi336

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