「伝染るんです。」1巻 (c)吉田戦車/小学館

私の名作 特別編 その1 [バックナンバー]

吉田戦車「伝染るんです。」

お笑いナタリー記者が選ぶギャグマンガ

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マンガを愛する人々に、とりわけ思い入れのある1作を選んで紹介してもらっているこのコラム。今回からは、コミックナタリーの15周年に合わせた特別編を、全5回にわたってお届けします。お笑いナタリーのマンガ好き記者・塚越嵩大氏に、ギャグマンガの名作を尋ねたところ、吉田戦車「伝染るんです。」への特別な思いを綴ってくれました。

/ 塚越嵩大

「あははははははははははははははははは」の衝撃

私は普段、お笑いのニュースサイト「お笑いナタリー」の記者として働いています。当然バラエティ番組やお笑いライブが好きなのですが、大のギャグマンガフリークでもあり、持っているマンガの95%はギャグ系です。そんな私にとって、もっとも大きな存在といえるマンガが吉田戦車さんの「伝染るんです。」。不条理ギャグの金字塔といわれる作品です。

「伝染るんです。」は、1989年から1994年まで週刊ビッグコミックスピリッツ(小学館)で連載されていた4コママンガです。起承転結やボケ・ツッコミの概念が崩壊しており、一言でいえば不気味。ジトッとした独特な雰囲気、淡々とした狂気などが特徴で、初めて読むと戸惑う人も多いのではないでしょうか。

例えば、飛行機で「アテンションプリーズ──ただいまより、機長の元気な笑い声を皆様にお知らせします」という機内アナウンスが流れたあと、機長の「あははははははははははははははははは」という声が響き渡り、4コマ目では乗客がただただパニックを起こしているという回があります。……文章にすると怖すぎますよね。ただ独特な絵と相まって、衝撃的に面白いんです。爽快に笑い飛ばせる感じではなくて、臓器の底から「ギシシ……」と笑ってしまう感じというか。

「伝染るんです。」2巻より。 (c)吉田戦車/小学館

「伝染るんです。」2巻より。 (c)吉田戦車/小学館

これだけを聞くと「とっつきにくい作品なのでは」と思う方もいるかもしれませんが、連載当時はかなり人気を博し、ゲーム化されたり、原宿にキャラクターショップがオープンしたりしています。なぜそんなブームが起こったのか。当時の人々は何を考えていたのか。今でもよくわかりませんが、恐らく「伝染るんです。」は奇をてらっただけではない、不思議なキャッチーさがあったんだと思います。

「伝染るんです。」は父の遺品だった

「伝染るんです。」に出会ったのは5歳のときでした。私は、生まれて数カ月後に父親が病死するという波乱の幕開けを迎えています。そんな父の遺品の1つが「伝染るんです。」の2巻でした。なぜか2巻だけです。

ある日、その2巻を母が私に「読んでみれば?」と興味本位で渡してきたのです(実際にはポイッと投げられました)。ウルトラマンやドラえもんを楽しんでいる5歳に「伝染るんです。」を与えるという行為については、もっと慎重になったほうがいいのではないでしょうか。トラウマになる可能性があります。

しかし私は見事に「伝染るんです。」の虜となりました。最初こそ「怖い」「意味がわからない」「漢字が読めない」と感じましたが、同時に「でも絵が面白い」「なぜか先を読みたくなってしまう」とハマっていき、混乱しながらも笑ってしまう不思議な感覚が病みつきになっていきます。衝撃的な体験でした。5歳の自分が「伝染るんです。」を受け入れられた大きな要因は、かわいいキャラクターの存在もあったかと思います。確かに不気味な世界ではあるのですが、かわうそ君、かっぱ君、すずめ、しいたけ、王様など、今でいう“ゆるキャラ”っぽい登場人物がたくさんおり、可愛げも満載なのです。

「伝染るんです。」2巻より。 (c)吉田戦車/小学館

「伝染るんです。」2巻より。 (c)吉田戦車/小学館

そこから私は母親と一緒に本屋を巡り、残る1巻、3巻、4巻、5巻を少しずつ集めました。全巻を揃えたときは小学生5年生くらいになっていて、その頃は、おおひなたごうや榎本俊二のマンガを読んだり、ラーメンズやおぎやはぎにハマったり、「スネークマンショー」のCDを聴いたり、系統の似ている笑いを熱心に探していました。今思うと、なかなか歪んだ小学生ですが、「伝染るんです。」に人生最大の衝撃を受けてしまった以上、その道を突き進むしかありません。

30代になった今も吉田さんの新作は集めていますが、「伝染るんです。」も繰り返し読み続けています。成長と共に、中学生になったことで理解できる4コマ、高校生になったことで理解できる4コマ、大人になったことで理解できる4コマが出現してきて、まったく飽きません。恐らく80代になって理解できる4コマもあるでしょう。そういう意味で「伝染るんです。」は死ぬまで繰り返し読み続けるだろうと思える大切な作品です。

最後に割とどうでもいい話を。私の父親は小中高では生徒会長を務めており、「巨人・大鵬・卵焼き」との異名がつくほど、超王道好きで、超ミーハーな人物だったそうです。そんなマンガの主人公のような人がかなりシュールな「伝染るんです。」を読んでいたことに、ずっと違和感がありました。どう考えてもキャラに似つかわしくないのです。しかし、今ではなんとなく予想がついています。恐らく「伝染るんです。」ブームが起きたときに、流行りに乗っかって読んでみたものの、よく理解できずそれ以上集めなかったのではないかと……。

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