「あどりぶシネ倶楽部」

私の名作 特別編 その3 [バックナンバー]

細野不二彦「あどりぶシネ倶楽部」

映画ナタリー記者が選ぶ映画マンガ

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マンガを愛する人々に、とりわけ思い入れのある1作を選んで紹介してもらっているこのコラム。コミックナタリー15周年に合わせた特別企画として、映画ナタリーのマンガ好き記者・奥富敏晴氏に“映画を題材にした名作マンガ”を尋ねたところ、細野不二彦「あどりぶシネ倶楽部」への特別な思いを綴ってくれました。

/ 奥富敏晴

憧れの気持ち半分、あきらめの気持ち半分

映画を作りたいって考えたことあるでしょうか。

自分は高校1年生の頃に初めて思って、29歳の今の今になるまで、もう数え切れないぐらい考えてます。いい映画を観ると、そういう衝動に掻き立てられるんですが、なんだかんだやらない理由を付けて、作っていません。「映画、作りたいなあ」という欲望が日々の生活の中でぼんやり薄まるのを待ち、また映画に感動して「作ってみたい」と思わされる。その繰り返し。この自分の中のぐだぐだした気持ちと折り合いをつけながら生きてます。

だからか、映画制作を描いたマンガには、憧れの気持ち半分、あきらめの気持ち半分、妙に惹き付けられます。「あどりぶシネ倶楽部」は大学で自主映画を作る人々を1話完結の連作で描いた青春群像劇です。ビッグコミックスピリッツ(小学館)で連載されていた1980年代当時をリアルタイムで描いているので、自分は当然あと追い。高校生のときに近所の書店で偶然見つけて買いました。

「あどりぶシネ倶楽部」第1話「愛と喝采の日々」より。

「あどりぶシネ倶楽部」第1話「愛と喝采の日々」より。

たった9つのエピソードしかない「あどりぶシネ倶楽部」ですが、どの回も読後感がたまらなく好きです。子役を辞めさせられた不良学生が再び映画の中で花開く瞬間、かつて好きだった人がフィルムの中だけで見せるほほえみ、仲間に恵まれないバンドマンが街角で歌い上げる姿、逮捕された先輩の監督を乗せたパトカーが走り去るとき。うらぶれた現実の問題は1mmも解決しないけれど、人生で一瞬走った亀裂のような、その人の輝きや後悔がにじむ瞬間が、このマンガにはあります。

「自分の目標ってもンを探さなきゃなって、気分でいられるのサ!」

自分も大学では自主制作の映画サークルに入っていました。映画を撮りたい人が撮る自由な場所でしたが、結局、自分で映画を監督することはありませんでした。映画は人一倍好きな気でいるけれど、何を撮ったらいいのかわからない。そんな自分が「あどりぶシネ倶楽部」で惹かれたキャラクターが、サークルで雑用をこなす原田です。後輩から「どうして監督だけはなさらないんですかあ?」と聞かれた原田は「そりゃあキミ、才能がないからに決まってるじゃないの!」と明るく笑い飛ばし、こう言います。

あいつらと一緒にいると、オレも一発何かやらなくちゃ………
自分の目標ってもンを探さなきゃなって、気分でいられるのサ!
(「あどりぶシネ倶楽部」第6話「ソルジャー・ブルー」の原田のセリフより)
「あどりぶシネ倶楽部」第6話「ソルジャー・ブルー」より。

「あどりぶシネ倶楽部」第6話「ソルジャー・ブルー」より。

「あどりぶシネ倶楽部」第6話「ソルジャー・ブルー」より。

「あどりぶシネ倶楽部」第6話「ソルジャー・ブルー」より。

もちろん映画は1人の天才が作るわけじゃなく、集団で作り上げるものなので、原田も重要な役割を担っています。ただ自分の場合、映画を撮りたいと思って入ったサークルで、自分だけ監督してないことに、うしろめたさもありまして。「どうして監督しないの?」と聞かれたときには、どうにも居心地の悪さを感じてしまい、この原田の気持ちのいい軽さには、どことなく安心感を覚えたのです。そんな怠けたような人間の存在もしっかりと描く、作者の懐の広さも感じました。

ちなみに「あどりぶシネ倶楽部」は、自分が所属していた映画サークルのBOX(部室のようなもの)にも置いてありました。すでに40年近く昔の作品ですが、映画作りに関する至言は、今読んでも古びていません。「あなたの映画はいつも長過ぎるわ。あと少し切れば、もっといいモノになるのがわからないの?」などなど。映画や創作を志す人たちに、そして「自分の目標ってもン」をうまく探せない人にも、末永く読み継がれてほしい1作です。

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