本棚の選書を担当している秋山チーフディレクターと、「マツコ&有吉 かりそめ天国」の本棚。撮影当日には「ダンダダン」のTシャツを着用して取材に対する気合を見せてくれた。

「マツコ&有吉 かりそめ天国」背景のマンガって誰がチョイスしているの?

番組チーフディレクターが明かす、本棚の秘密

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人生のベストマンガ3選は?

──現在の蔵書数は何冊くらいでしょうか?

僕の背よりも高い本棚が5つあるのですが、いったい何冊あるんだろう。友人からはもはやマンガ喫茶扱いされていて、マンガ目当てで家に来る人もけっこういますね(自宅の本棚の写真を見せながら)。

秋山チーフディレクターの自宅の本棚一部。本棚にはかなりの冊数のマンガがところ狭しと並べられている。

秋山チーフディレクターの自宅の本棚一部。本棚にはかなりの冊数のマンガがところ狭しと並べられている。

──ご自宅の本棚にたくさんのマンガが並んでいますが、この中から人生のベストマンガを3つ選ぶとしたら?

すごく悩むのですが、一番最初に出てきたのは豊田徹也先生の「アンダーカレント」。静かなのに物語がしっかりと入ってくる……それが本当にカッコいいんです。無駄なものが一切なくて、セリフ、表情の妙で最初から最後まで見せ切る。まるで映画を観ているかのようでオシャレだなと、大学生のときに夢中になって読んだ記憶があります。

──キャラクターではなく、物語の見せ方に注目されているところが面白いなと思いました。

それは、僕が映画が好きだからかもしれないですね。キャラクターよりも絵の流れというか、まるでカメラが動いているような映像的なコマ割りが好きなんです。

──2つ目はいかがでしょうか?

大橋裕之先生の「シティライツ」です。大橋先生がとにかく大好きで、自費出版の作品も集めているし、あと自分が担当した特番のロゴを描いてもらったこともあるんです。

秋山チーフディレクターが所有する大橋裕之コレクション。

秋山チーフディレクターが所有する大橋裕之コレクション。

──どういった経緯でご一緒にお仕事するところまで辿り着いたのでしょうか。

大学生のときに行った大橋先生のサイン会で「いつか絶対に大橋先生とお仕事がしたいです!」って伝えたんですよ。それから、自分がテレビ朝日で働くようになって「こんなオジさんだけど混ぜてもらっていいですか?」という番組の企画が通ったとき、念願だった大橋先生にロゴを依頼したら、なんと僕のことを覚えていてくださったんです。

「こんなオジさんだけど混ぜてもらっていいですか?」番組ロゴ

「こんなオジさんだけど混ぜてもらっていいですか?」番組ロゴ

──まるでマンガみたいな展開ですね。大橋先生の作品のどんなところに魅了され続けているのでしょうか。

大橋先生は、「そこを切り取るのか?」っていう描き方をされるんですよね。例えば、ヤンキーがパン工場のすぐ近くでケンカをしていて、でも焼きたてのパンの香りがしてきたらケンカする気が失せてそのまま解散したり。ほかにも、冴えない男子中学生と小学生男子が仲良く遊んでいたかと思えば、小学生が中学生のベットの下からエロ本を見つけてしまうんです。そうしたら小学生に向かって「この童貞野郎」と叫ぶ……。そういった「よくそこで切ったな!」と思う意外性がマンガの中で連発していて最高なんですよ。しかも、それを情感たっぷりに描くから余韻がすごくて、とにかくクセになる読後感なんです。

──これ以上の作品は出てこないと思うほどの大橋先生愛を感じますが、3つ目はいかがでしょうか?

シンプルですけど、やっぱり尾田栄一郎先生の「ONE PIECE」かなと。人生で一番読んでいるマンガですし、小学生時代から現在に至るまで変わらず同じ熱量で語れる作品ってすごいなと思います。

──マンガ棚に並べる作品は毎週交換されるということで、毎週たくさんの作品を読んでいるかと思います。ここ最近で一番注目しているマンガを教えてください。

マンガではなくマンガ家さんなのですが、岡田索雲先生は絶対にもっと注目されるべき方だなと思っています。主な代表作に「ようきなやつら」「メイコの遊び場」「鬼死ね」という作品があって、妖怪、子供の遊び場、鬼といったキャッチーでわかりやすい要素を用いながらも、実は社会問題や差別、戦後の薄暗い感じとか、かなり重いお話を描いているんですよね。

──「ようきなやつら」に収録されている「東京鎌鼬」というお話は一時期Twitterで大きな話題を呼びましたよね。

衝撃的なお話なのに、妖怪や鬼といった題材を使ってしっかりとエンタメに昇華されている……この絶妙なバランス感覚を保たれているのは本当にすごいことだと思うので、岡田索雲先生はこれからもっと有名になっていくんじゃないかなと。

情報源は、マンガ大好き芸人と中野のまんだらけ

──ちなみに毎日忙しい中でマンガを読む時間はどのように確保されているのでしょうか?

睡眠時間を削って読んでいます(笑)。やっぱりマンガが大好きなので、どんなに明日の朝が早くても読みたい!という気持ちが勝っちゃいますね。

──マンガはどのように探されているのでしょうか?

それこそ、朝起きたらまずコミックナタリーの単行本リストをチェックして、その日に本屋へいくべきかどうか判断しています。あとは、マンガ好きのお笑い芸人さんにおすすめのマンガを聞くこともあります。特にタイムマシーン3号の関さん。関さんは有吉さんにマンガをおすすめする係でもあるのですが(笑)、ロケでお会いする際は必ずお互いにおすすめのマンガ情報を交換します。最近だと、中武士竜先生の「十字架のろくにん」をおすすめされましたね。

秋山チーフディレクター

秋山チーフディレクター

──マンガ好きなお笑い芸人さんってけっこういらっしゃいますよね。

そうなんです。オカリナさんとかね……と言っても、「僕のヒーローアカデミア」の話しかしないんですけど(笑)。あと、オカリナさんの同期である吉川きっちょむさんという方がすごくマンガに詳しいと聞いて、きっちょむさんのTwitterはよく参考にしています。

──お気に入りの書店はありますか?

月に1回は中野の「まんだらけ」本店に足を運ぶようにしています。必ず特集コーナーをチェックするのですが、このお店は一般的な本屋さんだったら絶対に選ばないような尖った選書をするんですよ。先日行った際は“2023年イチオシマンガ”みたいな特集棚が設置されていたのですが、そこで「ツワモノガタリ」と出会いました。もう、面白すぎてびっくりしましたね。

番組ロゴは小山ゆうじろう作、藤本タツキとの“夢”も

──本棚に置くマンガの選書という面でも活かされているとは思いますが、そのほかにマンガ好きであることが仕事で役に立ったことはありますか?

「マツコ&有吉 かりそめ天国」では、マツコさんや有吉さんのトーク内容をイラストにした挿絵が名物の1つとなっているのですが、この挿絵をイラストレーターさんに依頼する際にマンガをたくさん読んできた経験が活かされているなと思います。例えば、1つのトークを2コマに分けて描いてもらう際、動きの想像がしやすいんですよね。完成図が自分の中でしっかりとイメージできているから、細かく指示が出せるんです。先ほど映像的なコマ割りが好きという話をしましたが、マンガをそういうふうに細かく読んできたからこうして指示が出せるのかな?と思うときはありますね。

──本棚はもちろんですが、挿絵の表現にも注目していくと、マンガ好きにとっては新たな発見がありそうですね。最後に、これからマンガ家さんと一緒にやってみたいお仕事がありましたら教えてください。

番組のロゴは絶対にマンガ家さんにお願いしたいと思っています。「マツコ&有吉 かりそめ天国」のロゴも実は「とんかつDJアゲ太郎」の小山ゆうじろう先生に描いていただいたんですよ。あとは、藤本タツキ先生と一緒に何かやってみたいです。「ファイアパンチ」「チェンソーマン」など全作品拝読していますが、もうめちゃくちゃなことするじゃないですか(笑)。映画的なコマ割りはもちろんですが、あの煙に巻かれたような読後感が最高ですよね。以前「クイズ!ウラ設定はなんでしょう?」という、ロケの裏設定を推理するバラエティ番組を企画したのですが、藤本タツキ先生にこの裏設定を考えてもらう……なんてことがあったらどんな番組になっていたのかなと思います。いつか一緒に番組を作れたらうれしいですね。

秋山直(アキヤマナオ)

2015年テレビ朝日入社。過去の担当番組は「もう中学生のおグッズ!」「ぼる塾のいいじゃないキッチン」など。現在は「マツコ&有吉 かりそめ天国」でチーフディレクターを務めるほか、「ランジャタイのがんばれ地上波!」では演出を担当している。

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読者の反応

KADOKAWAさん@本の情報 @kadokawa_san

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「マツコ&有吉 かりそめ天国」
背景のマンガって誰がチョイスしているの?
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マンガ好きの間から注目されているのが
スタジオ背景に置かれているマンガ棚

本棚に置くマンガを選定しているという
番組チーフディレクター・秋山直氏に
インタビューを敢行
https://t.co/hNghmmgbf9

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