マンガ編集者の原点 Vol.2 [バックナンバー]
「進撃の巨人」「五等分の花嫁」「戦隊大失格」の川窪慎太郎(講談社週刊少年マガジン編集部)
マンガ編集者は特別な仕事ではない
2022年8月15日 14:00 21
答えの周辺にボールを投げたときの“反響音”を大事に
作家に対して手放しで「一生面倒見ます」という態度を見せるよりも、川窪氏式の編集者としての誠意や、まっすぐさが感じられるように思えた。その一方で、編集者とは作家に気を使い、モチベーションを高く保ってもらうことも大事な仕事である。川窪氏は「“反響音”を大切にしている」という。どういうことだろうか。
「作家の中から出てくるものを大事にすることを意識しています。僕はいろんなジャンルの作品を担当していますが、結局描くのは作家なので、僕の得意ジャンルって別に必要ないんですよね。もちろん、編集がミステリーに詳しくてすぐにトリック思いつきますとか、医学部にいたから医療のことわかってますとか、得意なものがあるのは武器になりますけど、『ラブコメ得意』『ファンタジーが得意』みたいな能力は、僕は全然必要としていない。なぜならそうしたものは作家の中から出てくることのほうが大事。自分の意見を言うときも、それが作家の意見を引き出すクッションになるから、くらいのつもりです。
マンガ編集者を長くやっていると、『この辺にゴールがきっとあるんだろうな』というのはそれなりにわかるんです。だから行き詰まったときに、今自分たちのいるのがこの地点なら、答えがありそうな周辺に『Aみたいな展開はどうなの?』と投げてみる。それに対して作家が『Aはいまいちだけど、Bみたいな展開はどうですか?』と考え、答えに近づく──そんな流れが自分の理想の1つとしてありますね」
作家とのキャッチボールの中で、“反響音”に耳を澄ます。これもまた“宝探し”かもしれない。
「さらに言えば、仮に僕が答えをわかっていて、『こういう展開にすべきだ』と伝えて、マンガ家が『わかりました』と描くのと、同じ答えだとしても、作家が『答えはこれだと思います』って描くのだと意気込みが違うので、全然違う結果になると思っている。なので、基本的には答えがありそうな周辺にどんどんボールを投げていって、その反響を大事にしています。反響音を作家に聞かせて、『その音から考えれば、これが正解なんじゃないですか?』というのを作家に考えてもらうのが自分の理想です」
よい編集者とは、優秀な教師に近い側面もあるのかもしれない。そんな川窪氏が“面白い”を定義するとしたら、どんな内容になるのだろうか?
「それは自分の中では明確にあり、後輩には伝えるんですが、社外には出したくないので秘密です(笑)」
残念、秘伝の書であった。
マンガ編集者は特別な仕事ではない
入社1年目で
「審美眼を養おうと思ったことはないし、マーケティングもしたことないので、そういう点では自分はいい編集者じゃないなと思います。何が読者に受けるかも考えたこともない。マンガ編集をしていると、『どうやって時代に合った作品を見定めるのか?』というテーマも出てきますが、これに関して言えば、僕は日々おっさんになっていきますけど、日々若い作家と出会えるわけです。僕は昭和の空気吸って生きてきちゃったけど、今僕のところに持ち込みにくる18歳とか20歳の子たちは、今の時代、令和の空気を吸って生きているので、時代をわかっている。自分はわからなくてもわかる人にベットする、賭けるのでいいんじゃないのって思います(笑)」
作家に内在する才能と感覚を信じてうまく開花させる。川窪氏の編集者としてのあり方がよくうかがえる答えだった。編集者となって17年目だが、“編集者の心得”を伝えるとしたら?
「正解はないので、強いて言うなら“自分が何者になりたいのか”ということですね。編集者に限らず、その1点を考えずして働けない気がする。編集者ってたくさんある仕事の1つであって、特別ではないと思っているので、別に『マンガ編集者だからこういう心構えが大事』といった特別な言葉は自分の中にはない。結局ただの仕事なので、『自分がどういうスタンスで仕事するか』が大事だと思っています」
担当中の「ガチアクタ」週刊連載で描ける絵の限界に挑戦中
川窪氏の口から出てきたのは、マンガ編集者を特別な仕事と捉えない、人間の普遍的な仕事と在り方の話だった。編集者である前に、どう生きるべきか、在るべきか──川窪氏の動向を追っていけば、これからも私たちをあっと驚かせてくれそうだ。目下力を注いでいる3作品について語ってもらった。
「『ふらいんぐうぃっち』が続いているのと、『五等分の花嫁』の
『戦隊大失格』は前作とはガラっと変わって、めちゃくちゃ新しいことにチャレンジしている。持ち前の絵のうまさと女の子のかわいさに加え、エンタメの中で“正義とは何か”というテーマにチャレンジしている。今までとは一風変わったものを味わいたければ、ぜひ読んでほしいです。
『ガチアクタ』は裏那圭さんの初連載作なんですが、週刊連載で描ける絵の到達点というか、週刊でこれ以上のものがあるのか?というくらいの緻密な絵で描かれています。なので、デビュー初連載作家の限界チャレンジをぜひ週刊で見てみませんか?という作品ですね。今後すごいことになると思っています」
川窪慎太郎(カワクボシンタロウ)
2006年、講談社に入社。同年から現在まで、週刊少年マガジン編集部に所属している。担当作品は「戦隊大失格」「ふらいんぐうぃっち」「ガチアクタ」。過去の担当作品には「進撃の巨人」「五等分の花嫁」「将来的に死んでくれ」「復讐の教科書」などがある。
バックナンバー
関連記事
geek@akibablog @akibablog
「進撃の巨人」「五等分の花嫁」「戦隊大失格」の川窪慎太郎(講談社週刊少年マガジン編集部) | マンガ編集者の原点 Vol.2 - コミックナタリー
https://t.co/EvftI91MS8