中村隼人
- 渡海屋銀平実は新中納言知盛(Aプロ「渡海屋・大物浦」)
- 駿河次郎(Bプロ「川連法眼館」)
年を重ねてわかる、知盛の哀れさ儚さ
知盛は、片岡仁左衛門のおじさまに教えていただきます。具体的なお稽古はこれからですが(編集注:取材は8月末に行われた)、「とにかく大変だぞ」というプレッシャーをかけられています(笑)。知盛は小学生ぐらいのときから憧れていた役で、碇を担いで大海に沈む演出や血だらけになりながらも敵を倒していく姿がカッコいいなと思っていました。大人になってからは、怨念の塊となった知盛の哀れさや儚さといった心情が魅力的だと感じるようになりました。ですのでいつかやってみたいお役でしたが、僕自身が女方の家系なので、一度はあきらめたこともあったんです。でもこの数年、再び「やりたい!」という思いが膨らみ……ある意味、目標にしてきた役なので、今回勤めさせていただけることが非常にうれしいです。
スケールの大きさが「義経千本桜」の魅力
「義経千本桜」は知盛、いがみの権太、忠信の三役が大きな話の軸ですが、権太を中心に親子の情愛をテーマにした一家の物語と、狐の親子の情愛の物語、さらに源氏と平氏の戦いが絡んできたりと、スケールの大きさが魅力だと思います。そして登場人物はみんな「実は○○」という風に正体を隠していて、役者が舞台に出るたびに衣裳や化粧が変化するという、見た目の面白さもある。話は凄惨なのですが、演出的には非常に明るい感じもあり、そこが「義経千本桜」が人々に支持される理由なのかなと思います。
骨太な役者を目指して、知盛に挑む
憧れだった役を歌舞伎座で演じられるうれしさと同時に、それに伴う責任も感じています。僕にとって、知盛を勤めることは当たり前のことではないので、ここまで僕を育ててくれた先輩や周囲の方たちに感謝しつつ、ようやくスタートラインに立てたかな、と思っているところなので、さらに精進したいですね。目指しているのは骨太な役者。知盛は僕のイメージとは違う、と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、役が役者を育ててくれることもあり、僕自身、この2・3年でそれを経験し実感しているので、さらに骨太な役者になるべく、役を勤めたいと思っています。
プロフィール
中村隼人(ナカムラハヤト)
1993年、東京都生まれ。萬屋。中村錦之助の長男。2002年に初代中村隼人を名乗り初舞台。11月にアメリカ・ニューヨークのカーネギーホールで上演される「An Evening of Traditional Japanese Arts(日本の伝統芸能の夕べ)」、11月20日から25日に「蝶の如し 中村壱太郎・中村隼人 ~舞踊と座談会~」、12月京都南座での八代目尾上菊五郎・六代目尾上菊之助襲名披露公演に出演する。
中村隼人オフィシャルファンクラブ-隼会- (中村隼人オフィシャルファンクラブ-隼会-)
市川團子
- 佐藤忠信/忠信実は源九郎狐(Aプロ「鳥居前」「吉野山・川連法眼館」)
祖父を目指して挑む憧れの狐忠信
祖父(二世市川猿翁)のライフワークともいえる狐忠信のお役を、まさか21歳で勤めさせていただけるとは……全く想像していませんでした。スチール撮影で初めて衣裳を身につけ、少しずつ実感がわいてきたところです。しかも「鳥居前」からの通しですから、本当に、“身に余るどころではない”という気持ちしかありません。祖父の「猿翁アーカイブ」には膨大な資料が残っておりまして、エネルギッシュだった初期から洗練された後年まで、順々に見ていくことによって、変遷をたどることもできるんです。演じるごとの取捨選択をきちんと知ることで、役の核に触れられるような感覚もありますし、今のように気軽に機材も揃えられないような60年代から、こうして映像を残してくれた祖父の先見の明にも驚かされ、ありがたい気持ちでいっぱいです。
「四ノ切」の情とケレン、義経の思い
「立川立飛歌舞伎特別公演」の「義経千本桜 忠信篇」で初めて「吉野山」の忠信を勤めさせていただき、昨年、「新翔 春秋会」では素踊りにて勤めさせていただきました。また、獅童さんが「四ノ切」をなさったお舞台では、亀井と駿河を勤めさせていただき、また市川青虎さんが自主公演にて「四ノ切」をなさったお舞台では、義経も勤めさせていただきました。この場面の最後に義経は、狐忠信の親への想いに感動して自分の哀しい身の上や、業を語ります。やはりタイトルにあるように義経の物語なのだな……ということを実感することができた、得難い経験でした。これまで「義経千本桜」に関わらせていただいた経験も最大限に生かして今回のお舞台に臨みたいです。
祖父の言葉を胸に
「四ノ切」の最後、狐忠信が宙乗りで飛んでいく澤㵼屋型。祖父は「情とケレンを両立させることが大事」と語っています。「舞台は、キレイか、うまいか、一生懸命かのどれかがないと見ていられない」という祖父の言葉があり、自分が出来ることは“一生懸命”だけなので、祖父の目指した「四ノ切」に少しでも近づけるよう、覚悟を持って勤めさせていただきます。ぜひ多くのお客様にご来場いただたら幸いです。
プロフィール
市川團子(イチカワダンコ)
2004年生まれ、東京都出身。澤㵼屋。市川中車の長男。祖父は二世市川猿翁。2012年に「ヤマトタケル」で五代目市川團子を襲名し初舞台。10月23日から26日まで「立川立飛歌舞伎特別公演」、11月1日から3日まで「第二回 市川團子 新翔 春秋会」に出演。
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