平井優子とパフォーマーたちが語る「Disco on the planet」ダンス×現代サーカスで、劇場を宇宙に

2023年にオープンした岡山の新劇場・岡山芸術創造劇場ハレノワから11月、“ハレノワから世界基準の作品を”と掲げたパフォーマンス作品「Disco on the planet」が誕生する。これはダムタイプのメンバーとして長く活動してきたダンサー・振付家の平井優子が演出・振付を手がけ、コンテンポラリーダンサーとサーカスアーティストがコラボレーションする作品で、照明・音楽・映像といったさまざまなエレメントが“人がいなくなった近未来の惑星”を舞台空間に作り出す。

ステージナタリーでは9月末、舞台稽古に臨むカンパニーを取材。コンテンポラリーダンサーの堀田千晶、サーカスアーティストの吉田亜希、地元で活動する若手ダンサーの育成を目的としたオーディションで選出された土屋望と中川愛生、そして平井の座談会を行った。さらに後半では、舞台稽古の様子もレポートしている。

取材・文 / 熊井玲撮影 / 冨岡菜々子

平井優子とパフォーマーたちが語る「Disco on the planet」

パフォーマンスとスタッフワークのハーモニーが生まれてきた

──クリエーションは今年の初夏から長い時間をかけて行われてきました。今日の舞台稽古を経て、皆さんの今の手応えをうかがえますか?

平井優子 稽古と稽古の間にインターバルがあったので、実はそれほどずっと稽古してきたわけではなく、それぞれに作品へのアプローチを続けてきました。ただ知り合ってからの時間の長さに応じてメンバーの関係性ができてきた部分はあって、今日のリハーサルを経てワクワク感がさらに高まりました。

堀田千晶 舞台稽古は、とてもワクワクしました。私はコンテンポラリーなんですけれど、サーカスの方や映像、音楽とコラボレーションし、形が見えてきたと言いますか。「お客さんも観やすい作品なんじゃないかな、いろいろな人にぜひ観てほしいな」と思いましたね。

土屋望 私は普段、市役所職員として働いておりまして、今日は昼から休みを取って稽古に参加しているのですけれども……。

一同 (お決まりのフレーズ、という感じに)あははは!

左から中川愛生、堀田千晶、平井優子、吉田亜希、土屋望。

左から中川愛生、堀田千晶、平井優子、吉田亜希、土屋望。

土屋 (笑)。舞台稽古中、ふとした瞬間に「俺、これに出る側なんだな」ってはたと気づいて、本当に貴重な経験をさせていただいているなと実感しています。これまで自分のできる範囲でダンスを観に行ったり、出演したりということをやってきましたが、今回は身に余る光栄と言いますか。自分が出ているシーンはもちろんですが、自分以外の方たちが踊っている姿を観て、すごく刺激をいただいています。たくさんの方に観ていただき、ダンスの世界についてもっと知ってもらえたらと思っています。

吉田亜希 私はサーカスで、普段はサーカスの方と一緒にやることが多いので、今回はどんな方に会えるのだろうとワクワクしながら参加しました。舞台稽古ではいろいろなピースが見えてきて、それらが優子さんの力でどうやってつながっていくのか、どう交わっていくのか楽しみです。

中川愛生 バレエをずっとやってきまして、これまでほかのジャンルの方たちとあまりご一緒する機会がなかったんです。なので、すごく新鮮で。今日の稽古では、映像によって劇場や客席全体が包み込まれているように感じる瞬間があり、どうなるのかすごく楽しみになりました。

「Disco on the planet」舞台稽古の様子。

「Disco on the planet」舞台稽古の様子。

「Disco on the planet」舞台稽古の様子。

「Disco on the planet」舞台稽古の様子。

──映像や照明、音楽が非常にスタイリッシュな空間を生み出しつつ、人間的な柔らかさもある魅力的な作品だなと思いました。皆さん、これまでにいろいろご経験をお持ちですが、これまでと違って大変だったこと、あるいは別のジャンルの方と共演することでご自分の強みを再発見したことはありますか?

中川 私の場合は、強みを感じるというより皆さんからいただく刺激が多すぎて。皆さんの引き出しの多さがすごいなと思いますし、ついていくのに必死です。ただ自分が長年やってきたクラシックバレエを、作品の中で生かせたらいいなと思っています。

堀田 私も強みということではないんですが、自分はダンサーとして身体に向き合っていますけれども、サーカスの方たちの動きを見て、人間の身体にはまだまだ可能性があるんだなということを感じました。

「Disco on the planet」舞台稽古の様子。

「Disco on the planet」舞台稽古の様子。

「Disco on the planet」舞台稽古の様子。

「Disco on the planet」舞台稽古の様子。

土屋 私は、岡山出身の社会人ダンサーなので、共演者の皆さんとも、お客さんにとっても、ちょっと異質というか、距離感が異なると思うんですね。ですので、ダンスになじみがない人も誘引できるような、そういう存在ではありたいなと思っています。普段から私は、ダンスはダンスをやっている人だけのものではなく、誰でもできるし、楽しめる、すごく表現の可能性があるものだと感じています。そういった部分を私の強みというか信念としてがんばらせてもらっています。

吉田 皆さんの様子を観ていて、自分の認識を超えるというか、ダンスってもっとほかの要素を持ち込んでいいものなんだ、ということに驚きを感じましたし、そこが素敵だなと思いました。サーカスの強みは、そうですね……私はエアリアリストなので、舞台空間の上のほうまで使えることでしょうか。

──フープに乗った吉田さんが、暗闇の中、上へ上へと上がっていくシーンは非常に綺麗でした。客席も見えるのですか?

吉田 よく見えますよ! あの光景が見られるのは私の特権ですね(笑)。

「Disco on the planet」舞台稽古の様子。

「Disco on the planet」舞台稽古の様子。

──夏にパフォーマーだけで行われていた稽古場でのクリエーションに比べて、舞台稽古では照明や音楽、映像が入ることで作品の幅がかなり広がった印象を受けました。現段階で、このキャストのハーモニーとスタッフワークのハーモニーを平井さんはどう感じていらっしゃいますか?

平井 キャストの方同士は本当にだんだんと距離が近くなってきて、いい空気感になってきたように感じます。私自身はダンスをやっていますが、ダンスもサーカスも、一緒に動くことで言葉を超えたコミュニケーションにつながっていくんだと思います。これから稽古を重ねていくことで、どのようによりお互いの信頼関係が深まるのか楽しみです。テクニカルチームに関しては、今回の舞台稽古でようやく全員がそろったのですが、初めてとは思えない、いい連携でとても頼もしいです。

──舞台稽古では、プラネタリウムの中にいるような、本当に宇宙にいるような不思議な感覚になりました。

平井 そうそう、プラネタリウムのような世界観を見たいと思っていたんです。舞台稽古でその画が少し見えましたね。

「Disco on the planet」舞台稽古の様子。

「Disco on the planet」舞台稽古の様子。

違いから自己を見つめ直し、新たな表現が生まれる

──作中ではさまざまなシーンが繰り広げられますが、皆さんが「ここは観てほしいな」と思う部分を教えてください。

堀田 それぞれのジャンルの身体の違いを見てほしいですね。本当に1人ひとり違いますので。あとは……平井さんの考えてること、想像していることがすごい面白いので、それを感じてほしいなと思います。

中川 全部……(笑)。

一同 あははは!

中川 いろいろな種類の場面がちりばめられているので、全体で観るのがおすすめです。シーンそれぞれがどうつながっていくのか、私もすごく楽しみです。

吉田 これだけ違う人たちが同じところにいる、その空気感というか画を観ていただきたいですね。

土屋 今日、客席から照明や映像が入った舞台を観て「あそこに自分がいるのか、ヤバいな」という気持ちになって(笑)。興奮したというか、鳥肌が立ったんですね。ぜひそういったところもあわせて注目していただきたい、と思います。

「Disco on the planet」舞台稽古の様子。

「Disco on the planet」舞台稽古の様子。

「Disco on the planet」舞台稽古の様子。

「Disco on the planet」舞台稽古の様子。

──堀田さんが「平井さんの考えてること、想像していることが面白い」とおっしゃいましたが、クリエーションを重ねる中で“演出・振付家、平井優子”の面白さをどんなところに感じますか?

吉田 すごく優しいんだけれども、ふとしたところで奇想天外なアイデアが出てきてそこに驚きます。マイルドなものが出来上がるのかなと思っていたら、すごくピリッとしたものが出てきて、ギャップ萌えするというか。

一同 あははは!

堀田 いろいろな引き出しがあるというか、いろいろな方向性から攻めてる方だなと。同時に、何かアイデアを思いついたら、そのあとすごくリサーチもされていて、そのうえで私たちに共有してくださる。だから、一見するとわからないことでも「やってみたいな」って思います。そういう気持ちに駆られるので、一緒に作っていくのが本当に面白いですね。「このアイデアでこういうことができるんだ!」って思えるのがすごく刺激的です。

土屋 実は私、10年くらい前に平井さんのワークショップに参加したことがあるんですけど本当にすごくフラットに接してくださって。自分は自由にやっているつもりなんだけど、実は平井さんの手の中っていうか。自分に任せられているような自由度が高いクリエーションなんだけど、気づいたら平井さんの思うようなところに誘われている。今回もそうやって作品が出来上がっていっているような感じがします。

中川 私は、優子さんが作られた「ボレロ」(「岡山 De Ballet Open Class & coloridance 共同制作Boléro -work in progress 2017-」)に出演させていただいたことがあるんですけど、「ボレロ」という曲自体は完成されていて、そこに優子さんが新たに振り付けるというものでした。今回も、優子さんがキャストからさまざまなものを引き出し振り付けられている。これまでにない世界を作り出している感じがすごく新鮮で、刺激的です。

左から中川愛生、堀田千晶、平井優子、吉田亜希、土屋望。

左から中川愛生、堀田千晶、平井優子、吉田亜希、土屋望。

──ちなみに、共演者の中にも気になる人、刺激を受けている人がいれば伺いたいです。

堀田 私は(サーカスアーティストの)目黒宏次郎さんですね。すごく穏やかな方で、ちょっと平井さんと雰囲気が似ているかもしれないんだけれど、人間離れしたすごいことをするから目が離せないっていうか(笑)。ウォームアップしている段階でもすごいなあと思いながら注目しています。あと本城洸樹さんも常に何かをリサーチしている感じがあって、面白いです。

吉田 私は市役所の方……。

土屋 (小さな声で)ありがとうございます。

一同 あははは!

吉田 もちろん皆さんそれぞれから違う刺激をもらっていますけれど、どんなところにも創造性ってあるんだなと思っています。

中川 私は(本間)紗世さんと一緒に踊らせていただくシーンがあるのですが、バレエってある種正解の形があり、そこにどう持っていくのかを考えることが多いのですが、紗世さんはまず「どう動きたい?」と聞いてくださるんです。ダンスってもっと幅広いものなんだな、という発見がありましたし、それぞれが持っているものを組み合わせて作っていくのがすごく面白く、刺激を受けています。

土屋 全員に対して言えるくらい、皆さんから刺激を受けていますが、僕は特に堀田さんですね。堀田さんは、ちょっと動くだけで磁場が揺らぐ感じがするというか。

堀田 うれしい!

土屋 本当にちょっとした動きでも全然違うので、すごいなあと思っています。

「Disco on the planet」舞台稽古の様子。

「Disco on the planet」舞台稽古の様子。

「Disco on the planet」舞台稽古の様子。

「Disco on the planet」舞台稽古の様子。

──平井さんも、キャストから刺激されるところはありますか?

平井 はい。全員から刺激を受けています。今日の舞台稽古に向けて、ちょっと無茶振りでざっと作ったとあるシーンを「インプロ(即興)でやってみてください」とお願いしたのですが、それぞれに引き出しが多く、身体的なコミュニケーション能力が高い方ばかりなので、非常に面白いシーンになりました。ジャンルの違いがいい方向に出ているなと思いますし、違いがある人と共演するから自分のやっているダンスを客観的に見ざるを得ないと言うか。他者との違いから自分自身を見つめ直す機会にもなっているんじゃないかなと見ていて感じますし、そこからまた新しい動きが出てくることに期待しています。

──エアリアルが一番象徴的かもしれませんが、高さのある演出ができるということも、本作の演出の可能性を広げそうですね。

平井 ええ。空間の使い方をもうちょっと多様化させたいという思いは常々あって。でもやっぱりダンスだとどうしても床から離れられなかったりするので、今回はその視線をもうちょっと上まであげられる。お客さんの視線の動きが変わるので、ディメンションも変わっていくだろうなと感じます。空間をもっと多様に表現できるし、加えて光と映像により、さらに仮想空間のような質感に持っていけるんじゃないかなと思っています。