8月は坂東玉三郎演出「火の鳥」で兄弟役に
──実はこのインタビューの前にお二人は、「八月納涼歌舞伎」第二部「火の鳥」のスチール撮影をされていました。ロシア民話などで知られる「火の鳥」をもとに書き下ろす新作で、坂東玉三郎さんの演出により、新たな歌舞伎作品が誕生します。玉三郎さんが火の鳥、幸四郎さんが大王、染五郎さんと團子さんがヤマヒコ・ウミヒコ兄弟を演じられます。
染五郎 今回はオペラなどの演出を手がける原純さんが入られますし、かなり斬新なものになりそうで。演出も担当される玉三郎のお兄さんからは「ここは2人で考えなさい」とおっしゃっていただいているところもあり、すでに何度も打ち合わせをさせていただいています。衣裳は劇団☆新感線の竹田団吾さんで、頭(髪型)なども工夫しています。
──では今日はその拵えで撮影が行われたわけですね。
染五郎 はい。歌舞伎NEXT「朧の森に棲む鬼」で僕が演じた、(若き党首)シュテンのイメージに近い雰囲気です。顔は白塗りのイメージだったのですが、撮影現場で玉三郎のお兄さんから「顔も朧のときに近い方がいい」とアドバイスいただき……。
團子 急遽アイシャドウをお借りました!(笑)
染五郎 念の為、あの時の化粧道具を持ってきていて、セーフでした(笑)。
──2人とも頭にブレード(三つ編み)があしらわれ、対のようでそれぞれの個性もある髪型です。
團子 2人とも三つ編みを入れたのは、2人で話し合って決めたんです。
染五郎 これもシュテンのポニーテールを踏襲しつつ、全く同じだとつまらないし……と、個性的かつスタイリッシュなデザインを狙いました。
──玉三郎さんとの舞台といえば、染五郎さんは昨年の「源氏物語」光源氏と「吉野川」久我之助でのご共演が印象深いです。いずれも大変美しく、演技の深化もひしひしと感じました。
染五郎 昨年は9・10月と、続けて玉三郎さんとご一緒させていただきました。身のこなし、歩き方、セリフの響かせ方、どれも本当にミリ単位で計算されてお芝居を作っていらして、職人でもあり芸術家でもある方だと感じます。ほかの舞台にも生きる思考方法を教えていただき、「新春浅草歌舞伎」で古典の主役をやらせていただいた際、あの2カ月の経験が無かったら全く違ったものになっただろうな、とも思います。共演させていただいていない作品も映像で観てくださって、いろいろとアドバイスくださいますし……余談ですが祖父(松本白鸚)にも定期的にコーヒーを届けてくださっているんです。先ほども「昨日も電話したのよ」とおっしゃっていました。祖父も喜んでいますし、僕自身もそのお心遣いがとてもうれしいです。
──團子さんは「天守物語」での清く勇ましい鷹匠の青年・図書之助が、とても凛々しかったです。
團子 玉三郎さんから教えていただいたことで一番大きかったのは、語尾や発声などセリフに対するアプローチです。今までに自分では出したことのないタイプの声でした。玉三郎さんがよく「込める」と表現されていらしたのですが、胸の中に思いを溜めて声を出すようなお芝居は、これまでのお芝居ではあまり経験したことがないことでした。そして、「天守物語」という素晴らしい作品の解釈を、空気感を含めて細かく教えていただけた、その経験はとても貴重で、自分の中で大きなものになりました。
LINEで感想を伝える染五郎、“褒めポイント”が独特な團子
──大きな学びを経ての8月、楽しみです。共演がなかった間、お互いの舞台をご覧になって、感想を伝えるなんてことはありましたか?
團子 「いっくんカッコよかったよ、すごくヨカッターー!!」と素直な感想を伝えに楽屋に行っているかもしれません(笑)。
染五郎 ……褒めてくれるポイントがいつも独特なんですよ(笑)。
團子 シュテンが牢屋でボロ布で火を消す場面とか(笑)。いっくんは舞台の感想をLINEに送ってくれるんです。「ヤマトタケル」を観に来てくれたのが3月の終わりで、ラストスパートの大きな励ましになりましたし、すごくうれしかったです。
染五郎 「ヤマトタケル」では主役として劇場空間をご自分のものにしていて、すごかったです。
團子 「新春浅草歌舞伎」も観に行きました。「絵本太功記・十段目」で武智光秀が竹藪から竹を切るところがカッコよかった! そのときに(尾上)左近さんにもお会いしたんです!
染五郎 左近くんが19歳、僕が20歳、彼が21歳。お正月は貴重な同世代が顔を合わせることができたんですよね。左近くんと共演したことある?
團子 実はまだ一度もないんです。今まで3人で会うこともなかったので、あのときは記念に写真も撮ったよね。
染五郎 4月にご飯も行ったし。
團子 みんなで焼き肉を食べに行ったんですよね。
──以前染五郎さんにインタビューした際に「3人でやりたいものをやる会ができたら」とおっしゃっていたので、同年代の交流から生まれる舞台にも期待しています! まずは7月ですね。
染五郎 7月は「蝶の道行」の前に「鬼平犯科帳」がありますし、8月は「火の鳥」の前に「日本振袖始」もあります。一言に“歌舞伎”といってもいろいろな幅がある、「あれもこれも歌舞伎なんだ!」というバリエーションも楽しんでいただける2カ月になりますので、さまざまなものにお客さまが興味を広げてくださるような夏にしたいと思います。
團子 皆様に歌舞伎の幅広さを知っていただけるよう、作品の魅力をお伝えできるよう、精一杯、この夏を駆け抜けていきます。
染五郎 そして7月は恋人、8月は兄弟、同じコンビでも関係性も距離感も全く異なりますので、その違いも楽しんでください。
團子 私たちの奮闘を観ていただけたらうれしいです!
プロフィール
市川染五郎(イチカワソメゴロウ)
2005年生まれ、東京都出身。高麗屋。松本幸四郎の長男、祖父は松本白鸚。2007年に歌舞伎座「侠客春雨傘」にて初お目見得。2009年「門出祝寿連獅子」にて四代目松本金太郎を名乗り初舞台。2018年に高麗屋三代襲名披露公演「壽 初春大歌舞伎」にて八代目市川染五郎を襲名。
市川染五郎 (@somegoro_official) | Instagram
市川團子(イチカワダンコ)
2004年生まれ、東京都出身。澤㵼屋。市川中車の長男。祖父は二世市川猿翁。2012年に「ヤマトタケル」で五代目市川團子を襲名し初舞台。
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