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いとうせいこうが語る「素敵なダイナマイトスキャンダル」|末井昭は台風の目!エロも政治も詰め込んだ雑誌が教えてくれたこと

今の時代の写真時代が生まれたとしたら

──写真時代は、たび重なる警察の摘発の末、1988年に廃刊になりましたが……。

いとうせいこう

もし終わってなかったら……って、やっぱり考えちゃいますよね。90年代にまだこれがあったら、どういうふうにみんなが扱っていたのか。でも、80年代にスパッと終わったことも、とても面白いと思う。さっき言ったように、雑誌は“とじられたときに意味が出てくるもの”だとすると、写真時代も終わったことでとじられてるから。「こんな写真だったらネットのほうがすげえじゃん」とかバカな意見が出てくるよりずっと前に、終わってコンパイルされたのは、末井さんの編集長としての勘かもね。

──なるほど。

それから、とじるということが大事だとすれば、今回の映画は、末井さんをモデルとしたものを作って、とじたわけじゃない? 最後にエンドロールが流れて。だから、末井さんがメディアであるとすれば、今またこの映画が人を刺激するといいよね。「こういうカッコ悪さでいいんだ。こういう悶々とした生き方で全然いいんだ」って。今の若い人たちは「もういいか。社会ではがんばらなくて」って感じだけど、そういうときに「がんばらないけど、変なことはできる。自分たちで何かやって面白くできればいいんじゃない?」と、この映画を観て思ってもらえるといいな。

「素敵なダイナマイトスキャンダル」

──例えば、末井さんはじめ写真時代に関わった人たちの当時の活動と、今いとうさんがみうらじゅんさんや安齋肇さんとやっておられることって、形は違えど何か共通するものがあるのかなあと。

もちろん、みうらさんも安齋さんも写真時代は通ってるはずだから、それはあるでしょうね。安齋さんはデザイン的なものから刺激を受けたかもしれないし、みうらさんはエロの部分に刺激を受けて写真をスクラップしてたかもしれないし、僕はエッセイとかを読んで思想面から影響を受けた。雑多な雑誌だから、いろんな人を生んじゃうんだよね。ここから影響を受けた僕らは、こういう雑多なものがギュッとひとつに詰まったものは作れないけど、僕らの次の時代の、孫世代は作れるかもね。映画を観た若い子が「写真時代ヤベえよ」って影響を受けて、今の時代の今の意識の写真時代が生まれたとしたら……ひょっとしたら女の人が編集長なのかもしれないし。時代の変わり目を映すような、面白いものが出てきてほしいですね。そこからも影響を受けたい、僕は。

共感の行き場がなくなった若い世代にはヒリヒリ来る

──若い世代がこの映画を観たら、どう感じるんでしょうね。

「素敵なダイナマイトスキャンダル」

自分が生きている世界と、映っているものの実感の近さに、驚くんじゃないかな。今、テレビのドラマも映画も、等身大の青春を映しているようで、結局色男と美女でしょ。素敵な人たちばっかり出て来てさ、この映画の人たちみたいなカッコ悪いことはしないじゃない? 今って、メディアの中で表現されていることと、自分たちの差が大きくなっちゃって、だからみんなリアリティのあるSNSのほうに行っちゃうわけですよね。だけどそのSNSでさえも、カッコつけたりしてるから、みんな共感の行き場がなくなってると思う。そういう人たちにとっては、ヒリヒリ来る映画じゃないかなと。

──映画でこのリアルさは、なかなかないと。

うん。僕は「『フリースタイルダンジョン』がなんでウケたんでしょうね?」って聞かれると、「ガチンコで勝負してるものが、ほかにテレビにないから」って答えてるの。もちろん「M-1グランプリ」とかも真剣勝負だけど、点数を競うもので本当にお互いが殴り合ってるわけではないじゃん。「フリースタイルダンジョン」でディスり合ってるときは、もう本当の喧嘩だから。若い子は、テレビであんなものを観たことがなかったんだと思うんです。そういう意味で、若い人たちにはリアルなものに対する欲望がすごくあるんだな、って思ってるんですよね。この映画でも、ほかの作品ではあまり描かれない、描くにしてもきれいに見せるなっていうところを、汚くリアルに描いてるでしょ。観た人が「これでいいんだよね? こういうのでいいんだよね?」って心の落ち着きどころを見つけられるんじゃないかな。

いとうせいこう
「素敵なダイナマイトスキャンダル」
2018年3月17日(土)公開
「素敵なダイナマイトスキャンダル」
ストーリー

岡山の田舎町に生まれ育った末井昭は、7歳のときに母・富子が隣家の息子とダイナマイトで心中し、衝撃的な死に触れる。18歳で田舎を飛び出した末井は、工場勤務、キャバレーの看板描きやイラストレーターを経験し、エロ雑誌の世界へと足を踏み入れる。末井はさまざまな表現者や仲間たちに囲まれ編集者として日々奮闘し、妻や愛人の間を揺れ動きながら一時代を築いていく。

スタッフ / キャスト
  • 監督・脚本:冨永昌敬
  • 原作:末井昭「素敵なダイナマイトスキャンダル」(ちくま文庫刊)
  • 出演:柄本佑、前田敦子、三浦透子、峯田和伸、松重豊、村上淳、尾野真千子ほか
  • 音楽:菊地成孔、小田朋美
  • 主題歌:尾野真千子と末井昭「山の音」

※R15+指定作品

いとうせいこう
1961年3月19日生まれ、東京都出身。早稲田大学在学中からピン芸人としての活動を始動し、ホットドッグ・プレスなどの編集を経て、1985年に宮沢章夫、シティボーイズ、竹中直人、中村有志らと演劇ユニット「ラジカル・ガジベリビンバ・システム」を結成。1988年に小説「ノーライフキング」を発表し、その後も「想像ラジオ」「鼻に挟み撃ち」などが芥川賞候補となった。ジャパニーズヒップホップの先駆者としても知られており、2009年には□□□に正式メンバーとして加入。テレビ番組への出演や、したまちコメディ映画祭in台東の実行委員など、その活動は多岐にわたる。2018年6月から7月にかけて東京・CBGKシブゲキ!!、大阪・ABCホールにて上演する舞台「ニューレッスン」に出演。