思い出野郎Aチーム「Parade」特集|メンバーインタビュー、マコイチ×いとうせいこう対談で紐解く4年ぶりのアルバムに込めたメッセージ

思い出野郎Aチームがニューアルバム「Parade」を完成させた。

世の中にあふれるヘイトにより分断が深まる社会に、音楽を通して疑問を投げかけてきた思い出野郎Aチーム。そんな彼らにとって約4年ぶりとなるオリジナルアルバム「Parade」には、聴く人それぞれの孤独に寄り添う「独りの夜は」、高橋一(Trumpet, Vo)がネガティブなニュースを見聞きして感じた音楽の無力さと必要性を歌った「音楽があっても」などの社会性を帯びた楽曲や、お笑いトリオ・ハナコが昨年2月に行った単独公演「タロウ6」のエンディングテーマとして書き下ろされた「笑い話の夜」のアルバムバージョン、バンドのツアーの情景が浮かぶナンバー「機材車」など全11曲が収録されている。

アルバム発売を記念した本特集は、メンバーインタビューと特別対談の2本立て。前半のインタビューパートでは高橋、斎藤録音(G)、宮本直明(Key)の3人に、4年ぶりのアルバムが完成に至るまでのプロセスを聞いた。そして後半には、高橋が多大な影響を受けたというルーツの1人、いとうせいこうがゲストで登場。高橋は敬愛する先達と1対1の対話を交わす。インタビューと対談、それぞれの会話を通して、バンドの4年間の活動やアルバムの制作背景、思い出野郎Aチームがこの時代にポリティカルなメッセージを内包した音楽を鳴らす理由が見えてきた。

取材・文 / 高木"JET"晋一郎撮影 / 大城為喜(P1~2)・吉場正和(P3~4)

思い出野郎Aチーム メンバーインタビュー

コロナ禍のバンド活動

──前作「Share The Light」から4年ぶりのアルバムリリースですが、この間にコロナ禍が社会全体を襲いました。思い出野郎Aチームにとってもその影響は大きかったでしょうか?

高橋一(Trumpet, Vo) 大きかったし、苦しかったですね。2019年に「Share the Light」を出して、毎月自主企画もやって、「ここからドカッといくぞ!」という勢いを自分たちでも感じてたんです。実際、その年末にはLIQUIDROOMで自分たちとしては最大級のワンマンもできたし、「来年はもっと!」と思っていたときにコロナ禍になって、一気に梯子を外されたような思いでした。ライブも全部中止になって、バンドで集まることもできなくなった。そもそも音楽を取り巻く環境自体がなくなっちゃうんじゃないの?みたいな空気が漂っていて。

左から宮本直明(Key)、斎藤録音(G)、高橋一(Trumpet, Vo)。

左から宮本直明(Key)、斎藤録音(G)、高橋一(Trumpet, Vo)。

──その中で思い出野郎はライブハウスやフェス、パーティスペースを支援するプロジェクト「思い出野郎Aチーム presents ソウルピクニック・ファンディング」を立ち上げました(参照:思い出野郎Aチーム、中止イベント支援を目的としたプロジェクト始動)。

高橋 そのリターンで用意した「独りの夜は」の7inchは、それぞれのパートを宅録して作ったんですよ。

斎藤録音(G) フルリモートだったよね。

高橋 それぞれが家で録った素材をまとめたらなんとか形になるだろうと思ったんです。コロナ以前から楽曲制作を「次は宅録やトラックメイクっぽいノリでやってみよう」という話になっていたこともあり、僕の部屋をミックス部屋として、機材をそろえたり、防音材を買ってスタジオ兼作業場に改造したんです。

斎藤 ソファーとかも置いて「みんなでくつろげるように」とか言ってた(笑)。

高橋 そうそう(笑)。でも、いざ自宅スペースでリモートベースで制作してみるとやはり難しかった。そこで「やっぱり思い出野郎は集まって、スタジオでバンド的に作らないとダメなのかも」と気付いたんですよね。それで自宅スタジオではなく、改めてプライベートスタジオ・SOUL PICNIC STUDIOを作ることにしたんです。

宮本直明(Key) そこでもマコイチくん(高橋)が機材をそろえてくれたんだよね。

高橋 どうせやるなら録りやミックス、エンジニアリングも自分たちでやろうということになり、Pro Toolsをダウンロードすることから始めました(笑)。

斎藤 ドラムの録りで「音がうまくいかねえな」とか言いながら。

宮本 作曲以外の部分でかなり負荷がかかってたよね。

高橋 思い出野郎は制作が行き詰まるとそのストレスをライブで解消していたし、ライブで自己肯定感を補充してたんです。「思ったようにできない!」というフラストレーションも、ライブを通して「……悪くないかも?」と変換することができたけど、そういう機会がないから延々とモヤモヤしてしまって。

斎藤 1stアルバムやシングルを出す前の、みんなでひたすら深夜練習をやってたときの、出口がない空気がフラッシュバックしてきた(笑)。2020年のライブが全然できない頃は精神的にもしんどかったよね。

左から斎藤録音(G)、高橋一(Trumpet, Vo)、宮本直明(Key)。

左から斎藤録音(G)、高橋一(Trumpet, Vo)、宮本直明(Key)。

サポートメンバーとの出会いでバンドの密室感がなくなってきた

高橋 同じ時期に制作の要だったベースの長岡智顕くんが体調を崩して、思い出野郎での活動をお休みすることになって。

斎藤 長岡くんはマコイチくんと思い出野郎の楽曲の土台を作ってくれていたメンバーだったから……。

高橋 これはいよいよバンドとしてヤバいな……と。

宮本 今回のアルバムは本当は2020年のうちに完成させようと思っていたので、収録曲の8割ぐらいは長岡くんと作曲まではしていたんです。だけど長岡くんがダウンして、ライブもない、バンドも止まり……もうダメだ!と(笑)。メンバーで集まっても、なんとなくミーティングするだけで。

高橋 誰かがこういう形で休むという経験はなかったし、長岡くんに頼っていた部分はかなり大きくて。それゆえに彼の負荷が大きくなっていて、とにかく煮詰まってました。

斎藤 ヤマさん(山入端祥太 / Trombone)が失踪したことはあったけど。

高橋 ヤマさんのときはデビュー前だったし、そのときとはまた状況も違うよね。メンバー全員付き合いが長いからいろいろなことがあったけど、今回はコロナも重なって、みんなよりしんどい感じが大きかった。とはいえ「君と生きていく」と「日々のパレード」は長岡くんとゲネまでやっていたし、ベースの素材もあったので、ベース以外のパートを録り直して、配信と7inchでリリースしたんです。それを期にちゃんとライブを再開させようという話になった。「Parade」のBlu-rayに収録されているライブ「“ソウルピクニック 2021” at 新木場 USEN STUDIO COAST」では、サポートとして(Fukaishi)Norioさんにベースで入ってもらって。トランペットにファンファンさん、コーラスにYAYA子さん、キーボードに沼澤(成毅)くん、さらにこの日はラヴァーズロックシンガーのasuka andoさんを迎えて、今の思い出野郎のライブ体制の原型ができあがっていったんです。

高橋一(Trumpet, Vo)

高橋一(Trumpet, Vo)

宮本 モチベーション的にはそこで取り戻した部分が大きかったですね。

高橋 ライブとサポートメンバーのおかげで、自分たちだけでギュッとこもってた思い出野郎が、外に向くきっかけができたよね。

斎藤 新しい空気に触れた感じがした。自分たちだけでは手の届かないもの、具体的には音の厚みをライブで出せるようになったのも大きいよね。思い出野郎の曲は重ね録りが多いので、ライブではその再現が難しいときもあって。でも、サポートメンバーのおかげでより豊かなサウンドをライブで形にできるようになりました。

宮本 フィーリングの部分が近いのもあって、合流もスムーズだったと思うし。

高橋 スタジオミュージシャン的な人に依頼するのとはちょっと違うよね。

──2021年のライブから、思い出野郎のライブには手話通訳のチームも参加するようになりました。

高橋 STUDIO COASTワンマンのタイミングで、マネジャーのタッツくん(仲原達彦)が「手話通訳を入れるのはどうかな」とアイデアを出してくれたんです。僕らもUSのヒップホップイベントで手話通訳がステージに入ってる映像を観たことがあったんで、「それはいいね」と。それでペン子さんをはじめとする手話通訳ができる方に手伝ってもらうようになって。通訳というより、スタンスとしてはサポートメンバー、バンドの一員だと思っています。その部分も含めて、外に向いた感じはありますね、自分たちのモードとしても。

──そんなに内向きな感覚があったんですか?

高橋 みんな大学の頃から一緒で、10年以上バンドをやってると、初期の頃からある部室感、悪く言えば無自覚なホモソーシャル感みたいなものがどうしても抜けきらないんですよ。歳をとってだんだん変わってはいますが。

斎藤 話も健康のことばっかりになってて(笑)。

高橋 そういうのをいい意味で薄めることもできたと思います。メンバーに関しても、子供が生まれたり、住んでるところがバラバラになったり、そういう部分でも密室感がなくなってきたのかな。以前より音楽をやるために集まった集団という感じが強まったかなと。バンドだったら本来は当たり前なのですが(笑)。

全然スタンダードじゃなかった

──サポートメンバーを迎えたことで、プレイヤーとしての変化はありました?

斎藤 自分は思い出野郎Aチームが初めてのバンドだったので気付かなかったのですが、サポートの人たちとライブをする中で「俺らすっごいクセがあったんだな」「全然スタンダードじゃなかったんだな」と思いました(笑)。

斎藤録音(G)

斎藤録音(G)

宮本 サポートメンバーに伝えるために、ちゃんと譜面を作って読んでもらったら、「この進行、独特すぎるね」とか(笑)。譜面を作ることで、自分たちを客観的に見れた部分はありますね。

高橋 それを踏まえて、制作面でも今まではライブアレンジ的なアプローチが強かったから「カッコよければOK!」みたいなことが多かったんですけど、スタジオを構えたことも含めて、もっと緻密な制作ができるようになりました。

斎藤 「ここがハマると音数が少なくてもいいんだ」という気付きもありました。

──その意味でも、今作は派手な展開というより、ミニマムな音像や言葉が印象的でした。

高橋 「最小限にしよう」「もう足さなくていいや」というやりとりは多かったかもしれないですね。

宮本 プライベートスタジオを作ったことで、曲の骨格作りにじっくり時間をかけられたことも影響しているのかな。

宮本直明(Key)

宮本直明(Key)

──2020年にchelmicoへ提供した「エネルギー」は、かなり展開が豊かな曲だったし、その方向性が思い出野郎のその後の雛形になるのかなとも思ったので、今回のアルバムの音像は意外に感じました。

斎藤 あの曲は盛り盛りでしたね。

高橋 コロナ禍の真っ只中だったよね?

宮本 そう。それでいろいろ試行錯誤して最終的にああいう盛り盛りなディスコになった。

高橋 あと、みんなchelmicoの曲だって言うと張り切る(笑)。オカジ(岡島良樹 / Dr)も、いつもよりアイデアをいっぱい出してきましたから。

宮本 「この言葉にはこのドラムパターンで」とか言っていて、普段そんなことやんないじゃない、みたいな(笑)。