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いとうせいこうが語る「素敵なダイナマイトスキャンダル」|末井昭は台風の目!エロも政治も詰め込んだ雑誌が教えてくれたこと

現在全国で公開中の「素敵なダイナマイトスキャンダル」は、“実母が隣家の息子と不倫の末にダイナマイト心中”という体験を持つ編集者・作家の末井昭による同名エッセイをもとにした青春グラフィティ。冨永昌敬がメガホンを取り、柄本佑演じる末井がキャバレーの看板描きなどを経てエロ雑誌の編集長になり、時代のカリスマと化していくさまを描いた。

ナタリーでは、映画、音楽、コミックとジャンルを横断した連載企画で本作の魅力に迫る。特集のトリを飾るのは、末井が編集長を務めた雑誌・写真時代の熱心な読者だった、いとうせいこう。劇中で描かれる昭和の空気をリアルに知る世代として、末井から受けた影響や若い世代への思いを語ってもらった。

取材・文 / 兵庫慎司 撮影 / 吉澤健太

政治的なものとエロが1冊にとじられた写真時代の過激さ

──いとうさんは、末井昭さんが編集長を務めた雑誌で、劇中にも登場する写真時代の愛読者だったそうですね。

「素敵なダイナマイトスキャンダル」より、劇中に登場する雑誌・写真時代。

大学時代にお金がなかったから古本で買っていて、中の連載にものすごく影響を受けましたね。もちろんエロも強烈なんだけど、赤瀬川原平、平岡正明、上杉清文とか、すごい人たちが書いていて。ゴリゴリッとした文化の影響は、ここから得ているんです。引っ越すたびに写真時代をダンボールに入れて持って行ってたんだけど、あるときに捨てちゃって。いつも「ああ、捨てなければよかったなあ」と思っている雑誌は、もうこれだけですね。

──今でもその影響は残っていますか。

うん。やっぱり過激だったし、政治的だったし、刺激的でしたね。80年代ってバブルのイメージが強いので、イケイケで、みんなが軽佻浮薄に踊ってたっていうイメージがあると思うけど、アングラはアングラですごかったから。僕は、「80年代はスカだった」と言ってる人たちは、「アンダーグラウンドを知らないで言ってるんだな」って思ってる。それくらい80年代は面白かったし、それを表に出せていたのは写真時代なんだけど。ただ、末井さんはああいう人だから……現代思想だとか、ユリイカだとかの方向に行くわけでもなく、「やっぱりいやらしい写真を載せたほうが面白いんじゃないか」っていうのと、左翼性みたいなものが、1冊の中で一緒になっていたんですね。まあ、ラジカルだったらなんでもいいっていう考えだと思うんですけど。

──今おっしゃった現代思想やユリイカ的な方向の雑誌には、当時あまりハマらなかったですか。

写真時代のページをめくる、いとうせいこう。

いや、もちろん僕もニューアカデミズムには行ってましたけど、そっちオンリーじゃなくて、もう一方に写真時代のようなものがあったんです。やっぱり平岡正明、上杉清文、この二大巨塔が70年代からのラジカルな存在で、そういう人の政治的でアナーキーなアジビラみたいなものとエロ写真が一緒に載っている過激さが、ネットの時代には残念ながらもうないですよね。エロはエロでやればいい、政治的なものは政治的なものでやればいい、というふうに切り分けられちゃうけど、写真時代は雑誌だから。僕はちょっと雑誌編集者だった時代があるから、1冊にバインドされた、とじられたときに初めて意味を持つのが雑誌だと常々思っているんですけど、そのいい例が写真時代なんです。(写真時代のページをめくりながら)この豊かさ、面白さは本当に唯一無二だった。でも、当時は末井さんのことはそこまで意識してなかったですね。あとから「素敵なダイナマイトスキャンダル」が出版されたりして、やっぱり末井昭がおかしかったんだということに雑誌が終わってから気付いた(笑)。

──末井さんと実際にお会いになったのは?

初めてお会いしたのは……新宿クリスマスツリー爆弾事件、左翼がやったテロですけど、その犯人が出所して来たときに10人ぐらいが出迎えるっていう場に、なぜか俺もいる流れになって。そのときに初めて末井さんに会ったんです。著書にも書いておられましたけど、末井さんがその犯人を養子にしたんですよね。あんなことやってる末井昭が、こんなこともしてるんだ、ケツ持とうとしてんだ、この人すごいなと思って。危ないこと、破滅的なほうに引き寄せられていく人──映画でもそういうふうに描かれてるけど、末井さんのわけのわからない幅の広さに感銘を受けて、この人をちゃんと尊敬してなきゃいけないなと思ったし、今もその気持ちはまったく消えてないんです。

よくこの熱量であそこまで昭和を再現したなと驚いた

──映画をご覧になって、いかがでした?

「素敵なダイナマイトスキャンダル」

まずね、今回映画を観てわかったんだけど、80年代って昭和だったんだな、っていうことを忘れてたの。そのアンダーグラウンドな感じも、見事に描かれていますよね。全員眼鏡が脂っぽく曇ってるとかね(笑)。確かに亡くなった川勝正幸さん(※1980年代からサブカルチャー界で活躍した編集者・ライター)も眼鏡に脂付いてたもんね。オシャレな雑誌いっぱい作って、キョンキョン(小泉今日子)とかと仕事したりしてたけど。そういう昭和を、僕らはちょっと見失ってたというか。この映画でようやく、そっちの側の80年代が観れたなあって思いましたね。実際、あんな空気だったんですよね。何しろこの雑誌が成り立つ時代だから。あれだけ毎回警察に呼ばれて、桜田門でゴリゴリやられてるのに、平気でまたエロ写真載せて出しちゃうってことができていた時代。

──確かに細部にまでリアルに昭和の空気を描いている映画ですよね。

「素敵なダイナマイトスキャンダル」

そう。昭和を再現した建築や車、街の感じ、服に至るまで、日本の映画でここまでちゃんと時代を描いてる映画って、なかなかないと思いました。「ああ、新宿ってあんな感じだったかもなあ」って思えるのはすごいですよね、映画で。過去の街の空気を映せるかどうかは、セットの組み方とかの問題じゃなくて、撮り方や役者たちに与える指示、いろんなことで作られていくものだけど、そういう映画のマジックを存分に味わえた。よく今こんな映画作れたな、予算どうなってんのかなと思いましたよ。昔の日本をきれいに再現できているようだけど、よく観るとCG丸見え、みたいな映画が普通になっちゃった今、よくこの熱量であそこまで昭和を再現したなと。同時に、昭和ってずいぶん遠い時代になったなとも思いましたね。自分が生きていた時代なのに。

「素敵なダイナマイトスキャンダル」
2018年3月17日(土)公開
「素敵なダイナマイトスキャンダル」
ストーリー

岡山の田舎町に生まれ育った末井昭は、7歳のときに母・富子が隣家の息子とダイナマイトで心中し、衝撃的な死に触れる。18歳で田舎を飛び出した末井は、工場勤務、キャバレーの看板描きやイラストレーターを経験し、エロ雑誌の世界へと足を踏み入れる。末井はさまざまな表現者や仲間たちに囲まれ編集者として日々奮闘し、妻や愛人の間を揺れ動きながら一時代を築いていく。

スタッフ / キャスト
  • 監督・脚本:冨永昌敬
  • 原作:末井昭「素敵なダイナマイトスキャンダル」(ちくま文庫刊)
  • 出演:柄本佑、前田敦子、三浦透子、峯田和伸、松重豊、村上淳、尾野真千子ほか
  • 音楽:菊地成孔、小田朋美
  • 主題歌:尾野真千子と末井昭「山の音」

※R15+指定作品

いとうせいこう
1961年3月19日生まれ、東京都出身。早稲田大学在学中からピン芸人としての活動を始動し、ホットドッグ・プレスなどの編集を経て、1985年に宮沢章夫、シティボーイズ、竹中直人、中村有志らと演劇ユニット「ラジカル・ガジベリビンバ・システム」を結成。1988年に小説「ノーライフキング」を発表し、その後も「想像ラジオ」「鼻に挟み撃ち」などが芥川賞候補となった。ジャパニーズヒップホップの先駆者としても知られており、2009年には□□□に正式メンバーとして加入。テレビ番組への出演や、したまちコメディ映画祭in台東の実行委員など、その活動は多岐にわたる。2018年6月から7月にかけて東京・CBGKシブゲキ!!、大阪・ABCホールにて上演する舞台「ニューレッスン」に出演。