映画「
東京・吉祥寺の文化的な拠点として親しまれつつも2014年に閉館した吉祥寺バウスシアター。本作では1925年に吉祥寺に初めてできた映画館・井の頭会館まで歴史をさかのぼり、時代に翻弄されながらも劇場を守り続け、娯楽を届けた人々の長い道のりが描かれる。染谷が井の頭会館に勤める主人公サネオを演じ、活動弁士の兄ハジメに峯田、サネオの妻ハマに夏帆が扮した。
また染谷と初共演にして兄弟役を演じた峯田が「楽しかったです。知り合いから、染谷くんにちょっと似ていると言われたこともあったんです(笑)。だから兄弟役と聞いて、おお!と思いました」と言うと、染谷は「ステージの上でも、映画の中でも(峯田を)観てきたので、まさか兄弟役とは思わずうれしかったです」と笑顔で返す。
登壇者たちは長野・上田映劇での撮影エピソードにも触れた。峯田は「活動弁士の役だったので、三味線を弾きながら演じるんですね。練習もしていましたがなかなか難しくて」「大雪の日に撮影があったんですが、ほかの皆さんは暖を取っていました。ただ僕はここで(気持ちを)解放するのは早いなと思い、隅っこで練習していたところ、染谷さんが『よかったらみんなで暖かいところに……』と声を掛けてくれて。ありがとうございました」と丁寧に感謝を表す。染谷もその日のことを覚えており「めちゃくちゃ集中して練習されていました」と回想した。
甫木元は「撮影場所はいろんな劇場を見て決めさせていただいたんですが、(ロケ地となった)上田映劇はもともとは演劇などをやっていて、そこを間借りするような形で映画を上映していたんです。だから旅芸人の方が泊まれる部屋も残っていて、ある種迷路のような場所でした」「撮休の日に上田映劇で映画を観れたんですが、それは今も生きている映画館だからこそ。ぜいたくな経験でした」と話す。
演技について尋ねられると染谷は「人の記憶を旅するような作品なので、断片的で、そこまで意識せずに人物を演じられました」と言い、峯田は「格好や髪型は当時の雰囲気があると思いますが、現代の自分を出せるような自由さがあったと思います」と撮影を語る。夏帆も「誰かの記憶の中で生きているような、不思議な感覚になるお芝居でした。なので一連の流れで映像を観たときに1人の人物として成り立っているのか、不安になる部分もありました。でもできあがった作品を観たら、登場人物全員が記号的ではなくスクリーンの中で生きていて安心しましたし、とても魅力的だと感じました」とコメントした。
青山が書いた脚本に関してもトーク。甫木元が「断片的で詩的なセリフも多いので、役者さんたちは大変だったと思います」「でも染谷くんが劇場で(声を出して)セリフを音にした瞬間に、スッと入ってきた。そういう瞬間がすごく印象に残っています」と述べると、染谷も「僕も自分でしゃべったセリフを耳で聞いて『これってこういうことなのか』と脚本をわかったという感じでした」とうなずく。さらに甫木元は「青山さんは、役者さんの持っている声を楽器のように扱う監督だったと思います。“この声でセリフが鳴る”という感じで、楽器をチューニングするように脚本を書いていたことが今回すごく伝わってきました」と分析した。
本日は青山の命日。青山について染谷は「もともと雲の上にいるような尊敬する監督だと思っていました。(『東京公園』で)一緒にお仕事をさせていただけましたが、会うといつもニコニコしていて、人としても大好きな方でした。作品とも通じるところですが、いなくなったという気がそんなにしない。急にまた青山さんから電話が掛かってくるんじゃないかという気持ちなんです」としみじみ思いを口にする。そして最後に「この作品は何かを失いながらも何かを得て、失ったことで何かが続くような、とても希望のある作品です。映画は心の栄養になると思っていますので、ぜひそれをもらって帰っていただけたら」と観客に語りかけ、イベントを締めた。
「BAUS 映画から船出した映画館」は全国で上映中。
おおとも ひさし @tekuriha
【イベントレポート】「BAUS」染谷将太は“兄”峯田和伸と似てる?亡き青山真治への思いも語る(写真13枚)
"キャストの染谷将太、峯田和伸(銀杏BOYZ)、夏帆、監督の甫木元空(Bialystocks)が登壇した。
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