真利子哲也が与えたテーマは“衝動”、中学生18人が奮闘した映画作りの現場に潜入

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8月1日から8月10日にかけて東京・ちよだアートスクエア(※現在休館中)で開催された中学生向けの映画制作ワークショップ「TIFFティーンズ映画教室2023」に、映画ナタリーが密着した。

赤チームの撮影の様子。

赤チームの撮影の様子。

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真利子哲也

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第36回東京国際映画祭ユース部門の特別企画として、一般社団法人こども映画教室とともに実施された本ワークショップ。子供たちが主体となってプロット作りや撮影、編集など映画作りの全工程を担い、最終日にはスタッフや親の前で上映会が行われた。7年目となる今回は、特別講師として「ディストラクション・ベイビーズ」「宮本から君へ」の真利子哲也が参加し、18人の生徒たちが赤・青・黄の3つのチームに分かれて映画制作に挑戦。真利子は「ずっと子供の(撮る)映画に興味があった」と特別講師に自ら立候補したという。

「TIFFティーンズ映画教室2023」講義の様子。 (c)2023 TIFF

「TIFFティーンズ映画教室2023」講義の様子。 (c)2023 TIFF[拡大]

「嘘日記」発表の様子。 (c)2023 TIFF

「嘘日記」発表の様子。 (c)2023 TIFF[拡大]

ワークショップ初日は、真利子から事前に与えられていた宿題「嘘日記(どこかに嘘の入った日記)」を子供たちが発表。その後カメラで各自撮りたいものを撮りに行き、映像を観て感じたことを言い合う時間が設けられた。真利子も自身が大学時代に撮った短編映画「マリコ三十騎」の1シーンを上映し、今回の映画教室のテーマについて「“衝動”を大切にして、いい映画を作ろうとするよりも自分のやりたいことを後先考えずにやってほしい」と子供たちに呼びかける。そこからは「ワンシーンである“感情”を撮る」「嘘日記のワンシーンを撮る」「衝動に駆られた人を撮る」といった課題を通して各チームで撮影や編集を学び、5日目からは映画本編の制作が開始された。

撮影が進まないチームを優しく見守る大人たち

黄チームの編集作業の様子。

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黄チームが編集作業のためプリントアウトした各シーンの代表的なカット。

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上映会の前日となる8月9日、黄チームは編集を行っていた。チームリーダーを務めるのは、監督作「石がある」が今年のベルリン国際映画祭のフォーラム部門に出品され、全州国際映画祭のインターナショナルコンペティション部門でグランプリを受賞した太田達成だ。彼らは、これまでに撮った素材の代表的なカットをプリントアウトし、ボード上で並べ替えながら編集作業を進めていく。映像を見返し「カメラうまいじゃん」「(雨を再現するため花に垂らした)水滴、多かったかな?」とコミュニケーションを取る子供たちに、太田は主導権を握らないよう「どのテイクがいいか決めてなかったよね?」と問いかけ、「最後のがいいと思う」と生徒たち自身の意見を引き出していた。

青チーム

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同じ日の夕方、青チームは現時点の素材で編集したものを通して観てみることに。それぞれ真剣なまなざしで画面を見つめながら、時折自分の演技シーンが映ると少し恥ずかしそうにする生徒も。こども映画教室代表・土肥悦子からの感想を真摯に受け止め、必要なカットや、10分以内に収めるための編集点を整理する。チームリーダーは「ケイコ 目を澄ませて」などで編集を手がけてきた大川景子が担っており、彼女は生徒たちに「言葉以外でテーマが表現できる映像を追撮しよう」とアドバイスした。

赤チームの撮影の様子。

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話し合いが続く赤チームを遠くから撮影する真利子哲也(中央)。

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一方、真利子がチームリーダーを務める赤チームは、脚本がまとまらないまま機材を持ち、ちよだアートスクエア近くの公園へ。しかし、現場に着いてからも2時間近く何を撮るか決まらない生徒たち。見かねた真利子は、彼らが集まって話し合う様子を遠くからカメラで捉える。被写体に寄ってばかりだった生徒たちはその映像を観てヒントを得たようで、中学2年生の林亮太朗さんは「誰もいないカットが撮りたい」とさっそく行動に移していた。今回で映画教室への参加が3回目となる池田庸明さんは「明日(やらないといけないこと)は、編集とかポスター作り、音楽、まとまってきたら撮り直しとかですかね……。今日、想像以上に進んだのでこの勢いがあれば大丈夫そう」と意気込んだ。

上映会ぎりぎりまで連携プレーで追撮!

黄チームの編集作業の様子。

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8月10日、上映会当日も子供たちは朝から撮影や編集に追われていた。赤チームでは、前日に公園で撮影したラストシーンを含めて編集した映像を観て、ある生徒から「表情のつながりに違和感がある」という声が上がった。チームのメンバーから「本当に必要?」と問われぶつかりつつも、最終的には「気になるなら撮りに行こう!」と2~3シーンの撮り直しが行われた。黄チームは編集用のパソコンを前に「雨のシーン見せてもらえますか?」「削れますね、ここ」と細かい調整を進める。自分たちで演奏したオリジナルのテーマ曲もラストシーンに重ね、「最後みんなで観るか!」とポスター作りをしているメンバーを呼びに行った。

青チームの追撮の様子。

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上映会の開場まで1時間を切った頃、青チームではいくつかのシーンの追撮が行われていた。映画の中で、子供が演じていた学校の先生役の声に違和感を持ち、大人のサポートスタッフに吹替を依頼。マイクと逆の方向を指差し「向こうを向いておいたほうが空間に音が広がるかも」と意見を交わしながら収録した。また別の場所では、カメラを担当する中学2年生の生徒が「(ラストシーンの)『またね』の前にほのぼのした感じの表情を入れたい」と、主人公を演じた中学2年生の野口友椰さんを呼び出す。すぐにシーンの意図を汲み取り表情を作った野口さんは、「それそれ!」「いいじゃん!」と声を掛けられていた。

「TIFFティーンズ映画教室2023」上映会の様子。

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「TIFFティーンズ映画教室2023」上映会の様子。

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こうして、無事に赤チームの「かえして」、青チームの「もう悲しみをはなさないで」、黄チームの「あの夏、孤独と共に」の3本の映画が完成した。上映後の“舞台挨拶”では、それぞれ自身の役割を述べつつ「アドリブの掛け合いが大変でした」「この作品の『謎』を観た人たちが考察してくれたらうれしいです」「実際の映画で声がきれいに録れているのは、その裏で(マイクを)どこに置いたらいいのかすごく考えてやっているんだと驚きました」と映画作りの感想を口にする。全チームの上映を終え、真利子は「ワークショップを通して、でたらめでもつながってなくてもいいから、映画として説得力のある、信じられるものを目指しました。今生徒たちを見ると手応えを感じているようなので、結果的によかったなと思います」とコメントした。

上映会後、記念写真を撮る赤チーム。

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上映会のあと、赤チームの生徒たちに「映画教室を経て生まれた新たな衝動は?」と聞くと、「カメラの操作をもっとやってみたい」「もっといい演技ができるようになりたい」「さっき上映した映画を小説とかに作り直したい」「マーベル映画が好きなので、ヒーロー映画を作ってみたい」とそれぞれ目を輝かせる。最後は口をそろえて「参加してよかった!」と充実した表情を見せた。

「TIFFティーンズ映画教室2023」上映会の様子。

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完成作品は、10月23日から11月1日にかけて開催される第36回東京国際映画祭の会期中に上映。詳しい日程は後日発表される。

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