業界における課題が次々と、“実行力を持って”変わるべく日韓映画人が意見交わす

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東京国際映画祭・日本映画監督協会の提携企画として、シンポジウム「持続可能な若手映画人の参入へ向けての提言」が10月30日に東京・東京ミッドタウン日比谷 BASE Q ホールで行われた。

前列左から松島哲也、市山尚三、諏訪敦彦、浜田毅、本木克英。後列左からパク・キヨン、SAORI、内山拓也、林美千代。

前列左から松島哲也、市山尚三、諏訪敦彦、浜田毅、本木克英。後列左からパク・キヨン、SAORI、内山拓也、林美千代。

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これは映画業界の改善するべき問題を提起し、持続可能な若手映画人の参入へ向けて、問題の共有とさらなる連帯を呼びかけるためのシンポジウム。日本映画監督協会理事長の本木克英、日本版CNC設立を求める会(action4cinema)の諏訪敦彦内山拓也、日本撮影監督協会の浜田毅、映画業界で働く女性を守る会のSAORI、ブランドプロミス代表取締役の林美千代、東京国際映画祭プログラミングディレクターの市山尚三、司会として日本映画監督協会専務理事の松島哲也が出席した。

内山拓也

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まずは2020年公開作「佐々木、イン、マイマイン」で長編監督デビューした内山から、若手監督としての目線で問題提起がなされる。「企画立案から映画化に向けて奔走する際、多くの監督はプロデューサーと二人三脚で進めるが、どんな作品になるかわからないまま大きなお金を獲得しなければならない」と切り出し、脚本ができあがるまでの半年ないし1年、2年の間、いっさいの保障がないことに言及。「企画に見合う製作費が出ないケースもあり、どんどん現場が貧困化して企画が痩せ細っていく」と述べる。「佐々木、イン、マイマイン」は商業映画ではあるが自主制作のように友人の俳優たちとゼロから企画した作品であり、やはり潤沢ではなかったそうで「仲間たちと頭を下げながら『これを完成させるんだ』と。辛抱のような5年間でした」と振り返った。

諏訪敦彦

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これに対し、諏訪は「企画開発はもっともハイリスクな段階。リスクを背負う人たちが保障のないままやらなければならないのは、映画業界に限った問題ではない」と話す。是枝裕和らとともに発足したaction4cinemaでは、日本でもフランスのCNC(国立映画映像センター)に相当する統括機関を設立し、映画を守るための共助システムを継続的に求める活動をしている諏訪。「アーティストを守らなければならない。そこから面白い映画が出てきて、日本の映画界の豊かさを支えることにつながるので、改善していかなければ」と意見した。

市山尚三

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制作現場の労働環境の話では、市山が口を開く。中国のジャ・ジャンクー監督作をはじめ、多くの海外作品をプロデュースしてきた市山は「中国では僕の知る限り何も(労働基準が)ない。しかし映画に出資する投資家が多いため、莫大な製作費を掛けられ、新人監督でも1億円ほど集まる。(通常の作品も)2億円3億円は当たり前。過重労働にはなるが、きちんとギャラを支払えるところが日本と違う」と指摘。また基準が定められたヨーロッパについては「日本でフランス映画のロケをした際、『1週間に2日休む』と。それでは撮りきれないと相談したところ『休日を移動日とする』などある程度フレキシブルには対応してくれました。深夜撮影の翌日の午前は休むといったスケジュールも。ただカメラが回ってないときもスタッフは準備などで働かなければならないので大変な人はいます」と報告する。

パク・キヨン

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中盤には、韓国映画振興委員会(KOFIC)のパク・キヨンが登壇して近年の韓国映画界について話した。1980年代に監督として映画界へ足を踏み入れたパク・キヨンは「当時は男性中心の閉鎖的な社会で暴力やパワハラが蔓延していた」と振り返る。そして#MeToo運動が韓国でも広まり始めた2018年、映画監督キム・ギドクによる性的被害がテレビ番組で告発された。キム・ギドクは海外に渡航し、2020年にラトビアで病死。パク・キヨンは「韓国の映画界で彼を追悼する者はいませんでした」と辛辣にコメントした。KOFICは「女性映画人の集い」と一緒に「ジェンダー平等センター ドゥン・ドゥン」を共同運営し、セクハラや暴力の予防教育に注力している。また制作現場においては、トラブルの通報窓口が設けられているそう。パク・キヨンは「パワハラ・セクハラに関わった人間がいる作品は支援を受けられない。当然、そういった関係者がいる映画はどの劇場も公開しようとしませんでした」と言い、女性スタッフの現状については「実際のところはシステムが整えられていないと難しく、女性をサポートする余力がないという実情もある。KOFICはその点にも注力していかなければ」と表明した。

林美千代

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林は海外作品の製作に従事したのち、現在は日本コンテンツのグローバルブランドのブランディングを担当中。「10年後の市場を育てることが大事」と強調し、「まず国にお金を出してもらうことが必要。助成金はとても小さい数字」と主張する。「(コンテンツ産業を)国策と捉えたとき、教育支援がポイントになる。日本の資産価値を上げるコンテンツを作るのは人間。若い世代を中心に育成を考えなければならないし、その人たちが10年後のコンテンツ市場を育てていくことになるのでは。それには英語力、法律の知識、論理的な思考が必要」だと訴えた。

本木克英

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浜田毅

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諏訪は支援金の運用において「『映画を産業として回していく道筋』と『文化の多様性を守る視点』がセットにならなければいけない」としつつ、人材教育について「エリート教育も大事ですが、まずは救済しなければならない層がいる。20代で辞めていく人たちの過酷な状況がありますが、そういう人たちに日本のコンテンツは支えられている」と口にする。本木は「韓国映画界では海外の大学で学んだ人たちが先進的に改善を図っているのでは。教育から業界への橋渡しがうまくいってると思う」と分析。また浜田は制作現場の就業環境の適正化を推進するべく、「映像制作適正化機関」を2023年発足に向けて進めていることを発表した。

SAORI

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ここまで多数の改善点が挙がり、SAORIは「自分も連なっていきたい」と真摯に受け止める。一方で、このシンポジウムでの討論も現場スタッフには届いていないのではと危惧。自身も小道具スタッフとして働いてきた経験から「若いスタッフほど余裕がありません。まずは監督やプロデューサーの立場から届けてもらうのが一番(効果的)。監督の声は必ず聞くので」と述べ、「現場を離れる理由に労働時間や収入不安がありますが、一番つらいのはコミュニケーションの欠如、周りに味方がいないこと。隣にいるスタッフとの対話をみんなが心がければ実行力を持って変わっていくのでは」と力を込めた。

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※記事初出時、内容に一部誤りがありました。お詫びして訂正します

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#TIFFJP にて日本映画監督協会によるシンポジウム「持続可能な若手映画人の参入へ向けての提言」が行われました。
続)
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