フランスの国立映画映像センター(CNC)に相当する統括機関の設立を求め、業界団体や関係省庁に働きかけを行っている「日本版CNC設立を求める会」(action4cinema / a4c)。このたびCNCと同じように映画館の入場料金から数%を徴収し、映画支援の資金に当てている韓国映画振興委員会(KOFIC)の委員長を務める
KOFICはKムービーの総本山
2023年に設立50周年を迎えたKOFIC。もともとは映画制作組合という民間組織から始まり、政府との相互理解を得て、1973年に政府機関の振興公社として発足し、1999年に現在の名称に変更した歴史がある。これまでにポン・ジュノら数多くの映画人を輩出した韓国映画アカデミー(KAFA)や800作を超える長編が撮影されてきた撮影所などを創設し、現在の韓国映画の隆盛を支える屋台骨として機能してきた。2022年から委員長を務めるパク・キヨンは「我々にはKムービー(韓国映画)における総本山という強い自負心があります」と、その存在の重要性を強調する。
さらにKOFICの歴史について、1973年から1999年までを映画作りのインフラを整え現代化に重きを置いた第1期、1999年から2023年までをさまざまな支援システムを確立した第2期と説明。パク・キヨンは、この第2期について「製作、配給、教育などの支援システムを作り、実行していくことが主な役割でした。現在、支援事業は世界的に見ても、その内容や多様性において最高レベルにあると言えます」と話し、「KOFICが取り組んだ映画振興と、映画の産業界が相互に協力し、影響を与え合ってきたことに現在の韓国映画の人気の理由があると思います」と続ける。
CNCを参考にした、入場料金から3%を徴収する映画発展基金は2007年にスタート。当時は制作会社や配給会社など業界からの懸念や反発もあったそうで「3%の利益を削ることになるので、当然、強い反発があったと聞いています。しかし、あくまで“韓国映画の発展のため”という名分を掲げたことによって説得し、参加を促すことができました」と明かす。さらにa4cの活動への積極的な支持を表明し、「このような基金は映画産業を活性化するうえで重要な役割を果たします。その結果、映画館をはじめ産業に大きな利益として帰ってくる。そういった説得をしていくことがやはり必要」と語った。
日本側には主体となるパートナーが不在
アジア諸国のコラボレーションや共同製作の企画にも活発に関わっている韓国。今年5月のカンヌ国際映画祭では、KOFICを含む、アジア7つの国と地域の映画機関が中心となってアジア映画アライアンスネットワーク(AFAN)が発足した。韓国のほか、インドネシア、フィリピン、マレーシア、シンガポール、モンゴル、台湾が参加したAFANは、アジアの映画制作者とコミュニティ間の理解や連帯を促進し、共同製作、共同出資、技術交流、人材育成などを先頭に立って行い、ともに成長することを目指している。
当初、韓国から日本側への打診もあったそうだが、パク・キヨンは「残念ながら、AFANに日本は参加していません。映画や映像に関する国家機関がないため、参加ができていない」と説明。「この5年間、日韓の映画交流はほぼ中断している状況です。それは政治的な理由も大きいですが、再び活性化するためにも互いに協力関係を結べるパートナーシップが必要。ただ、KOFICの相手となるカウンターパートナーが日本側にいないのです」と日本の主体となる組織の不在を指摘しながら「日本は名実ともに、アジア映画の軸となる国。私も含め韓国の映画人は日本の古典映画を通じて、映画を学んできた。アジア映画に発展させていくためには、日本の役割は非常に重要だと思います」と、日本が参加することの必要性を説いた。
諏訪敦彦「窓口が明確になっていることが重要」
今年、アジアの映画界を率いる人材の発掘を目的とした釜山国際映画祭の教育プログラム・アジア映画アカデミーに校長として参加した諏訪は「人的なネットワーク作りは釜山において始まっている。おそらく、そこで友達を作り、誰かと国を超えた共同製作をしている。もう準備しているし、実際に動いている」「日本はそこに乗っかっていないんです。取り残されていることを強く感じた」と吐露。AFANに日本が参加していないことについては「ここに日本がいないことが不思議で、かなり驚きました」と述べつつ「国外に対して、窓口が明確になっていることはとても重要。外から見ると、それがわからない。そういう状況にあることを痛感した」と話す。さらに「日本にもCNCやKOFICに該当する機関が必要という認識を共有していく。業界自体がそういう自覚を持っていく。今日聞いていて思いましたが、日本映画の状況と比べると、危機感の持ち方が全然違っている。ちょっと外に出てみると、いろんなことが起きていて、いろんな危機感を克服するための動きがある」と語る場面もあった。
韓国映画産業の危機、その実情は
コロナ禍以降、いまだ劇場に客足が戻らず、映画産業が最大の危機を迎えているという韓国。コロナ禍で製作された100本近い映画が公開できず、6000億円の投資額が回収されないままで、新作の製作が停滞しているそう。今年は韓国の大手メジャースタジオによる30億ウォン以上の大作の公開は11本のみで、パク・キヨンは「昨年は37本が製作されていて、著しく本数が減っている懸念すべき状況です。もっとも好況だった2019年は、動員1000万人を超える映画が1年で5本。パンデミック以降、この4年間で1000万人を超えたのはわずか3本です」と、現在の苦境を語る。
この観客離れの要因について、国内で不評を買ったという入場料の3回に及ぶ引き上げ、NetflixやディズニープラスといったOTTの影響力の拡大を挙げたパク・キヨン。中でもNetflixが引き起こしている問題については「Netflixが製作するシリーズは国内の劇映画より、はるかに高額の制作費やギャランティが支払われています。人件費が高額なことによって、スタッフ陣が映画に戻ってこない空白化現象が起こっている。映画の制作に必要なスタッフや俳優を確保することが難しく、彼らが要求する人件費を支払うのが非常に困難。またNetflixが製作する場合、その作品のIPをすべてNetflixが保有することによって、韓国の制作会社がNetflixの下請け業者に転落するという深刻な状況が起きています」と話す。
映画発展基金のための徴収額も、最高だった2019年の540億ウォンから近年は減少傾向にあり、2020年は105億ウォン、2021年は110億ウォン、2022年は179億ウォンという数字に。2023年は270億から280億ウォン、2024年は300億から330億ウォンを見込んでいるが、パク・キヨンは「この発展基金だけでは、来年必要な約800億ウォンの予算は賄えない。不足する分のおよそ500億ウォンは、今回初めて体育振興基金、宝くじ振興基金から資金が拝呈されることになった」とも明かす。観客を映画館に戻す方法を模索しており、「すでに映画館で映画を観るという文化が変わってしまったのかもしれない。ただ、昨年末に公開された『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』はソウルで完売が続き、観客がわざわざ地方にまで足を運ぶ現象もみられた。観客は映画そのものが興味深ければ、どこまでも足を運ぶ。観客が劇場に足を運んでまで観るべき映画、観たい映画を作るしかない。そのための大改善が必要」と説いた。
NetflixをはじめとしたOTTに対しては、彼らが作るドラマシリーズをKOFICが取り扱う映画と同様に見なし、何かしらの金銭の拠出を図る法改正をすでに進めていることも明言。その背景を「韓国で作られているNetflixのドラマシリーズには、韓国の映画人がスタッフや俳優として関わっている。この課金は、韓国の映画の発展・寄与には欠かせないことだと認識しています」としつつ、「この先、グローバルストーリーテリングの制作・教育の強化を急ぐ必要もある。『イカゲーム』などで実感しましたが、OTTを通して、いともたやすくコンテンツが全世界に拡散する。全世界の観客に向けたコンテンツ作り、企画制作が必要になっている状況です」と続け、改めて国際共同製作の重要性にも触れた。
なお東京のシアター・イメージフォーラムでは特集上映「KAFAと韓国映画のこれから」が11月3日から10日にかけて開催。KAFAの40年にわたる歴史を振り返りつつ、新たな才能を紹介する。
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韓国映画産業の危機、その実情は
"NetflixをはじめとしたOTTに対しては、彼らが作るドラマシリーズをKOFICが取り扱う映画と同様に見なし、何かしらの金銭の拠出を図る法改正をすでに進めていることも明言。その背景を「韓国で作られているNetflixのドラマシリーズには(続
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