第21回東京フィルメックスのコンペティション出品作「
女子高生の自殺事件を追うドキュメンタリー監督・由宇子が、学習塾を経営する父から衝撃の事実を知らされ、究極の選択を迫られるさまを描いた本作。ジャ・ジャンクーが設立した中国の平遥国際映画祭で審査員賞と観客賞のダブル受賞を果たし、韓国の第25回釜山国際映画祭ニューカレンツ部門では最高賞ニューカレンツアワードに輝いた。キャストには瀧内公美、光石研、河合優実、梅田誠弘らが名を連ねる。
自ら脚本も手がけた春本は、着想の発端として「まだ助監督をやっていた2014年頃、自分で映画を撮ろうと決めて題材を探していたとき、ニュースで小学校のいじめ自殺事件を見つけたんです。その報道は被害者のことではなく、加害者の父親と同姓同名の人が被害に遭ったという内容で。赤の他人がネットリンチを受ける時代になってしまったのか、と思いました」と当時の衝撃を振り返る。
商業作品として成立させるのが難しい題材なだけに、製作には苦心したそう。片渕は松島に誘われる形で参加したと明かし、「もともと松島さんとはお互い相談したりエールを交わし合っていました。あるとき彼が『仲間に加わらないか』と。僕らはボクシングで言うところのセコンドとして見守っていました」と立ち位置を説明。春本によれば、松島と片渕には出資のみならず、第10稿まで及んだ脚本へのアドバイスも受けたという。
タイトルの“天秤”に込められた意味については、松島が「信じていたものが揺らいでバランスを崩したとき、どう立ち上がるか。また現代人は秘密と嘘を抱えながら、人と関わり揺れ動く。そういう象徴だと僕は理解しました」と言及する。片渕も賛同し、「自分が映画を作るときは、歴史的な事象や真実をよく知るために調べます。でも我々は、今残されている人たちの言葉から知るしかない。たまたま、あるいは意図的に残された言葉が歴史の1ページを形作っているなら、残らなかった人や消されてしまった人など、その周りにあったものも知らなければいけない。春本さんの脚本を読んだとき、そのことが語られていると思い、自分がこの作品に入れ込む原動力となりました」と述懐。「この作品は後世の1ページに残る作品として存在してほしい」と激賞した。
春本は「お二人のおっしゃってくださったことがすべて」と恐縮しながら、「正しさとはいったいなんなのか。誰かにとっての“正しさ”は、別の人から見ると“正しさ”ではない。絶対的なものは存在しないと、この映画で感じてほしい」と伝える。そして「私も私の角度からこの映画を作っただけ。是か非かではなく、観ていただいた皆さんの中で新たな世界を作っていただきたい。これからも、そういった映画を作っていきますので応援していただけたら」と意気込んだ。なお本作は2021年の劇場公開に向けて準備中とのこと。
第21回東京フィルメックスは11月7日まで東京・有楽町朝日ホールほかで開催。
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小黒祐一郎 @animesama
こちらは2020年11月の記事です。 #片渕須直
釜山映画祭で受賞、「由宇子の天秤」監督・春本雄二郎を片渕須直が激賞 https://t.co/aGFOY6oOLy