「冨嶽三十六景」で知られる浮世絵師・葛飾北斎の生涯を描く本作。青年期の北斎を柳楽、老年期の北斎を田中が演じ、
2019年6月中旬、この日の撮影は京都・松竹撮影所で行われた。遊郭の座敷のセットには柳楽、阿部、玉木、浦上、芋生らの姿が。浦上演じる東洲斎写楽が描いた絵の出版を祝う宴のシーンということで、畳の上には豪華な膳が並べられ、遊女たちがそろう華やいだ雰囲気が作り上げられていた。
大勢の俳優が会したこのシーンではカメラが回る前までの雰囲気から一変、本番が始まるとピンと張りつめた空気に。この場面では阿部扮する蔦屋重三郎が写楽をもてはやし、写楽は自身への評価に笑みを浮かべる。続いて玉木演じる喜多川歌麿が襖を豪快に開けて部屋に入ってくるさま、そして、座敷の隅でうつむいたままの北斎の様子をカメラが捉えた。自身の絵の極意を語る写楽に対し、歌麿がライバル心をむき出しにするシーンでは、2人の表情を追う重三郎の揺れる瞳がモニターに映し出される。カットがかかっても、次のスタートまで緊迫したムードは保たれたままだった。
撮影の合間には、今回が初共演となる柳楽と阿部がインタビューに応じる。「侍を演じることはよくあるんですが、町人というのはあまりないんでね」と話し出した阿部は、「日本舞踊の先生のところに行き、習いごとを少しやりました。いかつく歩くのはできるんですが、町人風に歩くというのはそれほど得意じゃないから。ちょっとした歩き方やしぐさからしか“粋”は表せないのかなと思いまして」と役作りを振り返った。また台本については「現代でいうプロデューサーの重三郎をフィーチャーして描くところが面白い」と言い、「いろんなところで才能を見つけて商売をして、自分が損することはしない計算高さやしたたかさもある。ある種、タヌキのような人間であるけど、芸術や前衛的なものには鋭かったと思うんです。そういうところが時折見えるようなキャラクターにしなくてはと監督と話していますね」と役の魅力を語った。
「彼の目はいいですよね。どこまで伸びるんだろうと思わされる」と阿部もその才能に信頼を寄せている主演の柳楽。阿部との初共演について「正直すごくうれしいです。いろんなことを相談できる人」と笑みをこぼす。「僕はアル・パチーノが好きなんですけど、阿部さんの表情や顔って……ちょっと似てませんか?」と続けると、阿部は「やめてくれ……」と照れた様子を見せていた。また柳楽は「北斎の青年期って全然情報がないんです。最初は迷いましたけど、監督と話して『逆にみんなもわからないところだから、この作品の北斎像を作りましょう』と言ってもらえたのが心強かったです」と述べる。同時代に多くの有名絵師がいた北斎を演じたことについては、「俳優の業界でも、ほかの人が壇上に上がっていたら悔しいわけです。そういう意味では似たような状況であると思うので、理解するのは難しくない。どうすればそこを北斎らしく表現できるのかが、毎日のテーマですね」と明かした。
「リアルを追求するより、少しアートに振りたかった」と話したのは美術監督の相馬直樹。座敷に使用された大きく波打つ立体的な壁は、本作参加前に行ったスウェーデンで目に入った外壁からインスピレーションを受けて作ったものだと言い、「立体感を出そうとするうちに作っては壊してとなって……(笑)」と試行錯誤した様子。さらに鮮やかなピンク色に塗られた壁や襖から天井にまたがって大きなクジャクが描かれている歌麿の部屋についても言及する。以前チェコで訪れたピンク色のカフェからヒントをもらったと前置き、「ピンクって日本の時代劇ではなかなか使われないんですが、カフェを見てこの色はいいなと。クジャクは歌麿の色気のモチーフとして入れました。職人の方に描いてもらった画を和紙に拡大出力して部屋に貼り、さらにその上からもう一度描いてもらって……1週間くらい掛かっていますね」と制作過程を振り返った。
「HOKUSAI」は5月29日より全国でロードショー。
※「HOKUSAI」は、新型コロナウイルスによる感染症の拡大を受けて公開延期となりました。最新の情報は公式サイトをご確認ください
※辻本祐樹の辻は一点しんにょうが正式表記
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