是枝裕和と井浦新が急遽登壇、上映中止騒動に意見「作り手に対する敬意を欠いている」

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是枝裕和井浦新が本日10月29日、神奈川・川崎市アートセンターで開催中の第25回KAWASAKIしんゆり映画祭2019に登壇。旧日本軍の従軍慰安婦問題をテーマにしたドキュメンタリー「主戦場」の上映中止を受け、相次ぐ抗議の動きに対する見解を明かした。

第25回KAWASAKIしんゆり映画祭2019にて、左から井浦新、是枝裕和。

第25回KAWASAKIしんゆり映画祭2019にて、左から井浦新、是枝裕和。

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「11.25自決の日 三島由紀夫と若者たち」 (c)若松プロダクション

「11.25自決の日 三島由紀夫と若者たち」 (c)若松プロダクション[拡大]

NPO法人のKAWASAKIアーツが主催する同映画祭は、共催の川崎市が「主戦場」の出演者グループが製作過程や内容に関して上映差し止めを訴える訴訟を起こしていることから「映画祭や川崎市が、映画の出演者の一部から訴えられるのではないか。そのような作品を川崎市が関わる映画祭で上映するのは難しいのではないか」という懸念を示したことにより、上映中止を決定。一連の事態へのボイコットとして、若松プロダクションは同映画祭で上映予定だった「止められるか、俺たちを」「11.25自決の日 三島由紀夫と若者たち」の出品取り下げを発表した。

若松プロダクション製作の同2作は、井浦の出演作4本を上映する特集企画「役者・井浦新の軌跡」のラインナップに含まれていた。そのうちの1本である「ワンダフルライフ」は予定通り上映される運びとなり、監督の是枝と主演の井浦がそろって登壇。前日になって急遽登壇を決めた是枝は「僕が新さんと初めて出会った作品の思い出を楽しく話す時間にしたかったのですが、そうもいかなくなりまして。気持ちよく観ていただけなくなるかもしれませんが、この映画祭に対して、激励ではない形で言葉を発せざるを得なくなりました」と切り出した。

是枝裕和

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まず是枝は「映画祭とは何を上映するかがすべて。いい作品を発見し、届け、それによって皆さんが新しい作品や作家と出会う場所です。ただ楽しんでいれば持続できるものではなく、主催する側と参加する側、皆さんの努力が続いて初めて実現できるものです」と、映画祭の本質について考えを述べる。そして「今回の事態は映画祭を主催する立場の人にあってはならない判断です。作り手に対する敬意を欠いているし、皆さんから映画と出会うチャンスを奪う行為です」と主張。「共催者側の懸念を真に受けて、主催者側が取り下げるのは『映画祭の死』を意味します。これを繰り返していくと、少なくとも志のある作り手は誰もこの映画祭に参加しなくなると思う。それぐらい危機的な状況を自ら招いてしまったことを猛省してほしいと伝えに来ました」と、映画祭スタッフを前に意見を続ける。

さらに是枝は、韓国の旅客船セウォル号沈没事故を描いたドキュメンタリー「ダイビング・ベル セウォル号の真実」が2014年の釜山国際映画祭で市から上映中止の圧力をかけられたものの、強行上映された件にも触れる。「やはり映画祭は予算を削られ、危機を迎えました。しかし、その事態を察知したアジア中の映画人が釜山国際映画祭を支持する意思を表明し、映画祭を支えました。映画祭の価値はそうやって高めていくもの。今回は真逆の判断です。なぜああいったことを教訓にできなかったのか、本当に残念でならない。今からでも遅くないので、どういう善後策が取れるのかみんなで考えてほしい」と呼びかけた。

井浦新

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井浦は、抗議の在り方について見解を述べる。「亡き若松孝二監督ならばどのような行動を起こしたかということを想像してみました。きっと上映して、壇上で『馬鹿野郎!』と言い散らかしてお客様に不愉快な思いをさせ、問題提起して去って行くと思う」と思いを馳せる一方、「さまざまな意見が飛び交う場が映画祭。若松プロダクションがボイコットするのも1つの抗議の形で、僕も賛同します。こうして観に来てくださった皆さんに直接お話を伝えられるというのも1つの映画祭の在り方。自分なりの行動だと信じて、上映させていただける作品は上映を続けたいと思います」と自身の特集企画の展開について言及した。

左から井浦新、是枝裕和。

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また「正直、『ワンダフルライフ』で是枝監督と登壇するのって、僕の中では夢のまた夢で。それがこのような形で実現してしまったことに複雑な思いがあります」と吐露。21年前の撮影を振り返り、井浦は「是枝監督が僕を役者の世界に引っ張り上げてくださった。そのとき『芝居続けるの?』って何度も聞かれましたが、当時はまだわからないとしか言えなくて。なぜここまで続けて来られたのか今思うと、映画の現場には限界、境目、忖度がなく、作り手たちが自由に表現する場。その純粋さに僕は心を動かされました」と目を輝かせる。「今の作り手たちが声を上げ続けなければ、僕らの子供たちや未来の作り手たち、未来の映画を楽しむ人たちの自由さえも奪われていく。とても危険なことだと思います」と続け、観客に向けて「『ワンダフルライフ』は政治をうたう映画ではありませんが、『あなたの大切なものはなんですか?』と問いかける映画。さまざまなことを受け取っていただければ」と語りかけた。

第25回KAWASAKIしんゆり映画祭2019は11月4日まで開催。なお若松プロは「止められるか、俺たちを」「11.25自決の日 三島由紀夫と若者たち」の無料上映とティーチインを、それぞれ11月1日と4日に神奈川・麻生文化センターの大会議室で実施する。

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※記事初出時、11月4日のティーチインイベントの内容に誤りがありました。お詫びして訂正します。

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