映画超初心者・ミルクボーイ駒場孝の手探りコラム「えっ、この映画ってそんなこと言うてた?」 第16回 [バックナンバー]
映画アイデンティティを形成してくれた「男はつらいよ」
観ていると記憶の扉がどんどん開く
2025年1月28日 19:30 3
これまで名作をほぼ観たことがないまま育ち、難しいストーリーの作品は苦手。だけど映画を観ること自体は決して嫌いではないし、ちゃんと理解したい……。そんな貴重な人材・
第16回のお題は「
文
僕の映画アイデンティティを形成した作品
こんにちは、ミルクボーイ駒場です。今回鑑賞したのは、1969年に公開された「男はつらいよ」の記念すべき1作目です。「男はつらいよ」といえば、日本を代表する国民的映画で、映画を観る・観ないにかかわらず、「男はつらいよ」または「寅さん」というワードは知らない人はいないのではないかと思います。映画初心者の僕ですが当然知っています。というか、僕は「男はつらいよ」には特に思い入れがあり、僕の人生における映画史(極薄)を語るうえで切っても切れない作品です。なぜなら、ちゃんとした映画というものを初めて観たのが「男はつらいよ」だったからです。日本中の一定の年代の“おとん”と呼ばれる人たちは全員「男はつらいよ」好きかと思いますが、うちのおとんも例に漏れず大好きで、定期的に「男はつらいよ」をレンタルしてきて家族で観る、という習慣がありました。なのでけっこうな数を観ていると思います。ちなみに「男はつらいよ」以外の映画をレンタルしてくることはありませんでした。つまり僕の中の映画アイデンティティはほぼ「男はつらいよ」で形成されていると言っても過言ではないのです。
観ていたときの雰囲気も覚えています。「男はつらいよ」を借りてくるときのおとんというのは主に休みの前の日で、さらに勝手な推測ですが仕事がうまいこといったのか特にご機嫌な雰囲気のときでした。「『寅さん』を借りてきたからごはん食べたあと観よう」みたいな感じで言ってた気がします。なのでその日は、ごはんを食べたあとに延長してお酒を飲みながらお菓子なんかも食べてちょっとダラダラ目に夜を過ごす感じでした。子供心に、普段真面目なおとんのロスタイムに歓びを感じていました。そして終盤おとんは寝てしまい、おかんがテーブルのお菓子とかを片付けるみたいなことになるのですがその感じもよかったです。あとそのテーブルはソファーの前に置かれていたのですが、ウチの感じには合ってない、おそらくどこかからもらってきたであろうアンティーク調のものでそれも同時に思い出します。そもそも畳に合わない猫足のテーブルで、天板は上から厚めのガラスをはめているだけで下から押せばすぐ外れる感じのもの。重いわりに簡単に外れるのが子供からしたら怖く扱いにくいもので、そのためかガラスの天板の上におかんお手製の緑の布のパッチワークのテーブルクロスみたいなものがかけられており、“これはそう簡単には取れません”みたいな雰囲気を醸し出してました。そんなことまで思い出せます。ほかにも家族で外食したあとよくカラオケに行ったりしたのですが、そのときもおとんは「男はつらいよ」の主題歌を絶対歌っていました。なかなかの音痴なのですが冒頭の語りのところから気持ちよさそうに歌っていました。ちなみに僕は「奮闘努力の甲斐もなく」という歌詞の「奮闘」が聞き取れておらず、「うんと努力」とずっと思っていました。このように「男はつらいよ」のことを考えると普段開けることのない記憶の引き出しがどんどん開きます。いいですよね。なので映画ナタリーの方に「次回の作品は『男はつらいよ』の1作目はどうでしょう」と言われめちゃくちゃテンション上がりました。
そりゃおとんも好きやわなぁ
そして大人になって改めてしっかり「男はつらいよ」を観てみましたが、子供の頃観たのと比べ物にならないくらいいいですね! ストーリーがシンプルでめちゃくちゃわかりやすく、難しい展開も伏線もなし。観た人みんな同じ感想を持てる、これがいいじゃないですか。あとコメディのところがそこまでボケボケしすぎてないのもいいです。映画やドラマで「ボケました!」みたいなことをされるとちょっと冷めるのですが、寅さんはその具合が絶妙で、
そして今回の「そんなこと言うてた?」ですが、「男はつらいよ」って少々のNGではそのままいく感じなんですかね? ある場面で、おいちゃんがめっちゃセリフ間違えてたように見えたのにそのままいくところがあって、まぁまぁと思って観ていましたがやはり気になってネットで調べてみると案の定そこに関することがたくさん書かれていました。「ミスに見えるけどあれはアドリブでわざとそうしたらしい」みたいなことが書かれていましたが、どう見ても演技には見えず、本気でミスしたけどまぁいってまえ、みたいな感じでいったのかなと思ってしまいました。でもほかにも「男はつらいよ」には寅さんのアドリブで笑ってしまったりセリフが変になってしまっているところが多々あるらしいです。そのあたりのゆるさも「男はつらいよ」のよさなのかなと思いました。これを機に全作観直して、「男はつらいよ」アドリブシーンを探すとともに、「男はつらいよ」を観ているときにしか開かない自分の記憶の引き出しも開けてみようかと思います。映画のこんな楽しみ方もあるのかとまた1つ勉強になりました。
編集部から一言
連載の第0回となるこがけんさんとの対談でも、「男はつらいよ」ぐらいしか映画を観てこなかったこと、そして「『寅さん』みたいなわかりやすいやつで育ったんで、深く考える脳が発達しなかった」とやや乱暴な持論を語っていた駒場さん。今回は幼少期の思い出部分のテーブル周りの細かい描写で、そこにいたかのような気持ちになりました。以前、30年前の「AKIRA」の思い出についてマンガ家の石黒正数さんも「ビニールのテーブルクロスが敷いてあった、昭和っぽいキッチンで観ていた」と語っていたのを思い出します。実家のテーブルクロスって妙にノスタルジックな気持ちを引き出すアイテムなのかもしれません。
「男はつらいよ」(1969年製作)
駒場孝(コマバタカシ)
1986年2月5日生まれ、大阪府出身。ミルクボーイのボケ担当。2004年に大阪芸術大学の落語研究会で同級生の内海崇と出会い、活動を開始。2007年7月に吉本興業の劇場「baseよしもと」のオーディションを初めて受け、正式にコンビを結成する。2019年に「M-1グランプリ2019」で優勝し、2022年には「第57回上方漫才大賞」で大賞を受賞。現在、コンビとしてのレギュラーは「よんチャンTV」(毎日放送)月曜日、「ごきげんライフスタイル よ~いドン!」(関西テレビ)月曜日、「ミルクボーイの煩悩の塊」「ミルクボーイの火曜日やないか!」(ともに朝日放送ラジオ)など。またミルクボーイが主催し、デルマパンゲ、金属バット、ツートライブとの4組で2017年から行っているライブ「漫才ブーム」が、2033年までの10年を掛けて47都道府県を巡るツアーとして行われる。
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松本 @matsushin1978
担当しております駒場さんの映画感想連載、今回は駒場さんが連載前に数少ない観たことある作品と言っていた「男はつらいよ」です。思い出が細かいです。大人になった今は「観た人みんな同じ感想を持てる、これがいいじゃないですか」とのこと https://t.co/bYeDxR0A7x