赤尾でこ。人形は「パウ・パトロール」シリーズに登場するチェイス(左)とスカイ(右)。

“日本語脚本”の仕事とは?「パウ・パトロール ザ・マイティ・ムービー」担当の赤尾でこインタビュー

1人で全キャラを演じる会議、「パウっと解決!」の誕生秘話、“犬感”のある単語は使わない

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キャラになりきって、ずっと1人で読んでる

──完成した映像が存在する状態で脚本を書くので、仮にキャッチーなセリフが思い付いたとしても、キャラクターの口の動きや尺に合わないと使うことはできないですよね?

そうなんです! そこが難しいところで。そもそも私が「パウ」で日本語脚本のお仕事をするようになったきっかけは、ある会社のビルを歩いていたら知り合いに「赤尾さんにぴったりの仕事があって」と話しかけられたことなんですが、そのときに「会議で映像を流しながら、まずはご自身でアフレコのように演技をしてもらうことになるんですが、そういうのは耐えられますか?」と聞かれました(笑)。どういうことかと言うと、どんなにいいセリフを書いてきたとしても映像のパク(アニメの口パク)や尺に合わないと使えないので、会議で声と映像を合わせてみてセリフがはまるかを確認する必要があるんです。なんとなくその様子を想像してみて、「耐えられます!」と返事をしたのが始まりで。

赤尾でこ

赤尾でこ

──赤尾さん自身がセリフをしゃべって映像と合うかを確認する作業は、テレビシリーズの最初から現在まで続いているんですか?

ずっとやってます。たぶん英語版のライターさんってたくさんいて、エピソードによってテンポが違っていることもありますし、「このキャラクターこんなこと言ってた?」みたいなこともあるので、シナリオ会議で毎回パクと尺を確認しないと成立させられないんです。

──全キャラクターを1人で演じるんですか?

そうなんです。キャラになりきって、ずっと1人で読んでる(笑)。シナリオ会議に参加してる皆さんに映像とセリフが合っているかを確認してもらいながら、「ここはちょっと変えたほうがいいな」とチェックしていって、1本分読み終わったあとに頭から直していきます。

「パウ・パトロール ザ・マイティ・ムービー」場面カット

「パウ・パトロール ザ・マイティ・ムービー」場面カット

──改稿していったセリフがまた映像と合わないってこともありますよね?

それがあるので、シナリオ会議である程度セリフを固めることは多いです。パクと尺から外れないように80%くらいは決めておいて、2稿執筆に進むっていう流れですね。シリーズを通してニュアンスを合わせるためにも、自分が担当していない回の会議にも参加するようにしていて、毎回ライター全員でチェックしています。

「お母さんとお父さんも一緒のものが好きなんだ」と思ってもらえたら最高

──テレビシリーズと映画版で作業の違いはありますか?

進め方は基本一緒なんですが、映画には大人っぽいセリフを多めに入れるようにしています。子供たちには理解できない箇所があったとしても、一緒に観た親が「面白かったね」と笑顔になったり、「あそこのセリフ、すごくよかったよね」と話したりしていたら、「お母さんとお父さんも一緒のものが好きなんだ」って思ってもらえるじゃないですか。それって最高だと思うので、大人たちに刺さるようにもしています。

──ああ、それは最高ですね。

だからと言ってテレビシリーズでは難しい言葉を使わないわけではなくて、以前「窓のサッシ」に別の言い方があるかを会議で話し合ったことがあるんです。結論、サッシはサッシだなって。両親に「サッシってなあに?」と聞いてもらって、おうちの中で会話が生まれればいいと思うので、変に「窓の端っこ」みたいな言い方をするのはやめましょうとなりました。近くに大人がいない場合は、図鑑などで調べることもできますし。

──今回の映画の日本語脚本に、本国カナダの監修が入ったりはしましたか?

チェックはしてると思うんですけど何か言われることはなかったので、この作品に関しては許してくれてるのかなと。おそらくテレビシリーズも。けっこう変えているので、そうじゃないと成立していないと思うんです。日本の子供たちに向けてるというのを理解してくれているように感じます。

「パウ・パトロール ザ・マイティ・ムービー」場面カット

「パウ・パトロール ザ・マイティ・ムービー」場面カット

──普通だったら逆翻訳して「オリジナルではこんなこと言ってない」となることがあると思うので、特別なパターンかもしれないですね。今日お話を伺って、ただ翻訳するだけとは到底言えない作業であることもわかりました。

話が成り立っているかを気にする人、セリフのリズムを気にする人、パクや尺に合っているかを気にする人。いろんなスタッフがいて、みんなで助け合いながらいいバランスで作ることができています。

──それは子供たちに楽しんでほしいという思いからですよね。

すぐに飽きちゃうので子供たちは。面白くないってちょっとでも感じたら、もう観なくなってしまう。これからも油断せず、子供たちにガツンと刺さるような脚本を書いていければいいと思っています。

赤尾でこ

赤尾でこ

赤尾でこ(アカオデコ)プロフィール

1977年生まれ、福岡県出身。脚本家・放送作家。アニメのシリーズ構成も多数手がけており、2024年には「佐々木とピーちゃん」「結婚指輪物語」「外科医エリーゼ」「異世界でもふもふなでなでするためにがんばってます。」「Unnamed Memory」「VTuberなんだが配信切り忘れたら伝説になってた」の放送を控える。

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