ホラーを語るリレー連載「今宵も悪夢を」 第8夜 [バックナンバー]
選者 / 磯村勇斗「ゾンビ大陸 アフリカン」
舞台はアフリカ!“正統派”のろのろゾンビが油断した主人公を襲う
2022年1月14日 21:00 1
ホラーやゾンビをこよなく愛する著名人らにお薦め作品を紹介してもらうリレー連載「今宵も悪夢を」。集まった案内人たちは身の毛もよだつ恐怖、忍び寄るスリル、しびれるほどの刺激がちりばめられたホラー世界へ読者を誘っていく。
第8回で
文
メジャーなゾンビ映画を一周した人を更なる深みへ
広大な大地アフリカを舞台にした珍しいゾンビ映画。
アメリカ軍のエンジニアであるマーフィー中尉が乗った飛行機は、アフリカから撤退中にトラブルで墜落してしまう。生き残ったマーフィーが漂流したのはゾンビに侵食された地だった。
マーフィーは果てしなく続く砂漠の地を歩き回るのだが、途中で現地軍の兵士デンベレと出会う。初めは波長が合わない2人なのだが、お互い「家族と再会する」という目的に向かって共闘し始める。しかし、ノロノロと迫り来る黒人のゾンビが彼らを追い込んでいく。
果たして2人は「希望」を見つける事ができるのか…
まず、この映画の魅力はなんといってもジョージ・A・ロメロの正統派ゾンビをしっかり受け継いでいるところ。登場するゾンビは遅い、とにかく遅い。作中では、あまりの遅さにマーフィー達が油断しているような描写もある。だがそれがまたいい。観ている側は、「おいおい、車にそんなにゆっくりガソリン入れてる場合か!? ゾンビ来てるぞ!」と緊張感がより増す。
そして、ゾンビルールの「頭を撃てば生き返らない」「音に反応する」もしっかり守られている。
ゾンビのディテールに関しては、低予算ながらしっかり特殊メイク、CGにも力を入れていて、肉片を食べるシーンや、折れた脚、千切れた皮膚、そのどれもが巧みに作り込まれている。そのお陰で妙にリアルに感じてしまい、グロテスク度で言うと割と上級者向けなのかもしれない。苦手な人は要注意。
そして今回登場するゾンビは、ゾンビの起源とされているブードゥー教で蘇った死体を連想させる作りにもなっている気がした。瞳孔が閉じた悪魔的な目や、アフリカの地、途中呪術師も出てくる。そういった観点からみると、「ゾンビ」をしっかり愛している映画だと感じる。
物語の運びとしては、物凄くシンプルな作りになっている。家族の元に帰りたいアメリカ兵マーフィーのロードムービーと言っても良いのかもしれない。しかし、途中で出会う現地の兵士デンベレ。この2人のやりとりが更に正統派ゾンビ映画としての深みを出している。車の中でのやりとりで、デンベレが「アメリカ人は戦争を煽って、物資を送って救助する。いったい何がしたいんだ」という言葉をマーフィーにぶつけるシーンがあるが、「アメリカは偽善者だ」と煽っているようなそんな社会風刺もしっかり描き、人種問題も取り入れている。
個人的に好きなのは、冒頭の広大なアフリカの大地から始まり、飛行機の密室のシーンへと対照的な空間に繋がる描き方。
そして、村が襲われるシーンは、ヨリの画を多く使い、カット数も多く、ミニマムに断片的に物語が切り取られるので、非常に緊迫感のあるシーンを映像技術でも見せている気がして引き込まれた。
「ゾンビ大陸アフリカン」は硬派な作りだが、間違いなく正統派ゾンビ映画を代表していい作品だと思う。僕が大好きなゾンビ映画です。
そしてメジャーなゾンビ映画をある程度一周した人を、更なるゾンビ映画の世界へと誘ってくれるだろう。僕もそうであったように。
磯村勇斗(イソムラハヤト)
1992年9月11日生まれ、静岡県出身。特撮ドラマ「仮面ライダーゴースト」のアラン / 仮面ライダーネクロム役、連続ドラマ小説「ひよっこ」でヒロインの夫となる役を演じ脚光を浴びる。近年の主な出演作に映画「今日から俺は!!劇場版」「ヤクザと家族 The Family」「東京リベンジャーズ」「劇場版 きのう何食べた?」、大河ドラマ「青天を衝け」などがある。「前科者」は1月28日公開。
「ゾンビ大陸 アフリカン」(2010年製作)
舞台となるのは、ゾンビが発生し急速に増殖したアフリカ。駐留アメリカ軍は大陸から撤退を始めるが、ブライアン・マーフィー中尉の乗った飛行機は途中で墜落してしまう。命を取り留めたマーフィーは、アメリカ軍基地を目指して移動を開始。息子を探す地元兵士のデンベレと道中で出会い、2人は行動をともにすることになる。
監督を務めたのは
「『ザ・デッド』2枚組セット アフリカン VS インディア」Blu-ray販売中
税込価格:6804円
発売元:インターフィルム
販売元:アメイジングD.C.
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