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「汐風と竜のすみか」これぞLaLaの王道! キュン要素と“他者理解”が詰まった竜人×少女の物語
2025年9月5日 18:30 PR縞あさと「汐風と竜のすみか」
父を亡くし、叔父に引き取られた女子高生・瑞花は、竜人伝説のある街・篭崎に引っ越してきた。新天地でうまくやろうと意気込むも、叔父の家に下宿している竜人の少年・天辰は不愛想で反りが合わない。しかし一緒に暮らしていくうちに、天辰の不器用な優しさや竜人ゆえの傷に触れていき……。「君は春に目を醒ます」などで知られる
文
圧倒的な“他者”との遭遇、接近と反発……縞あさとが描く“LaLaの王道”
「魔女くんと私」では“転校生もの”に“魔女”、「君は春に目を醒ます」では“年の差恋愛もの”に“人工冬眠”。日常に“少し不思議”な要素をちょい足しするローファンタジーは、縞あさとの真骨頂だ。そして今作「汐風と竜のすみか」では“同居もの”に“竜”!
現実においては血のつながりのない同世代の男女が同居することなどそうそうないが、少女マンガにおいてはごく一般的なイベントだ。名作と呼ばれる作品も数多く、例えば高屋奈月「フルーツバスケット」や吉住渉「ママレード・ボーイ」は、今も多くの読者に読みつがれている。そこには普遍的なキュン要素が確実に存在するのである。
父親が亡くなり、天涯孤独の身となった高校2年生の主人公・瑞花は、叔父のもとへ身を寄せることとなる。そこには同い年の男子・天辰も下宿していた。天辰はこの地方特有の人種“竜人”だ。ぱっと見は普通の人間と大差ないのだが、体の一部に鱗があったり、空を飛ぶ際には翼が生えたり、感覚が鋭敏だったり、体が丈夫だったりといった違いはある。自らとは異なる存在と対峙して、瑞花は戸惑いながらも、やがて心を寄せていくようになる。
このモチーフは、実は本作の掲載誌であるLaLaにおいては王道とでも言うべきものであり、数々の作品がそうした大枠の中で描かれている。圧倒的な“他者”との遭遇、接近と反発、そして……といった物語は、例えばLaLa草創期の名作、山岸凉子「日出処の天子」を筆頭に、成田美名子「エイリアン通り」「CIPHER」、清水玲子「月の子 MOON CHILD」、ひかわきょうこ「彼方から」、緑川ゆき「夏目友人帳」などなど、枚挙に暇がない。
それらで共通して描かれているのは、個人の深い孤独感や、他者への共感・理解の不可能性、あるいは可能性である。本作でも天辰は何かというと瑞花にこう言う。「俺は竜人なんだから」と。近づいて来ようとする瑞花に、天辰は明確な一線を引こうとしているのだ。俺はお前とは違う、だからこっちに来てくれるな、というわけである。一方では心のどこかで瑞花に対するほのかな期待もあるのだろうが、裏切られることが怖くて、その思いを表出することはできない。自分をかばって怪我をした天辰に瑞花はこう言う。「その…“俺は竜人なんだから”ってやつ…それやめて!」「自分は丈夫だからとかすぐ治るからって……天辰が自分を雑に扱うかんじが嫌なんだよ!」。心配すらさせてくれない天辰に、瑞花は業を煮やしていたのだった。
脆く、危うい関係性を生き生きと描き出す
やがて物語は人間と竜人たちとの相互理解へと向かっていくだろう。その1つの、おそらくは理想的な関係性の在り方として、瑞花と天辰の日々は描かれていくはずである。もちろんそこには少女マンガ的な甘酸っぱいあれこれをはらみつつも、今日の日本が直面するイシューにも通じる問題意識を感じる。それは、異文化といかに融合し、じんわりと私たちの日常世界に広がりつつある排外主義にどう向き合うべきかという社会的課題である。
第1話、ソファで寝落ちしていた天辰を起こそうとした瑞花だが、寝ぼけた天辰は竜の手で瑞花の腕をつかんでしまう。恐怖に歪む瑞花の顔。しかしその直後に「しまった」という表情を浮かべる。「こわい人じゃない 分かってたはずなのに」。瑞花の反応に無理はない。とはいえそのままでいいわけでもない。家を出ていこうとする天辰を瑞花は引き留めようとするのだが、まさにそのとき、電話で叔父が行方不明になったことを知り……。続きはぜひ単行本で読んでいただくとして、1つ言えることは、本作を通じての瑞花の竜人に対する距離感や態度には、私たちが参考にすべき点が多々あるということだ。
脆く、危うい2人の関係性を、縞あさとは絶妙なバランス感覚でもって、生き生きと描き出す。海沿いの街の景色も美しく、こんな場所になら竜人もいるかもしれないなと思わせるリアリティがある。もしも自分がこの街にいたら、何を思い、どう行動するのだろうか。エンタテインメントとして読んでも十分に楽しめる作品だが、そんなことを考えながら読んでいただけると、その読書体験はさらに豊かなものとなることだろう。
「汐風と竜のすみか」第1話を読む
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