声優として、そして声優事務所の代表取締役として、常に自身のコンディションと向き合い続ける岡本信彦。「ずっとこういうのが欲しかった」──自らの理想を追求し、UHA味覚糖とともに形にしたのど飴「味覚糖のど飴 蜂蜜エキナセア」は、一体どのようにして生まれたのか。コミックナタリーでは監修を行った岡本にインタビューを実施。のど飴の誕生秘話や、商品に込めたこだわりについて聞いたほか、仕事への向き合い方や日々のケアに至るまで、彼のパーソナルな部分にも迫った。
取材・文 / ナカニシキュウ撮影 / 曽我美芽
これまで見えていなかったものがハッキリ見えた
──岡本さんが監修を務めた「味覚糖のど飴 蜂蜜エキナセア」は、普段声の仕事をしている方ならではの目線で「こういうのど飴がほしい」というものになっているんですよね?
そうです! 「こういうのど飴があればいいのに」という思いがずっとありまして。
──そこに至るまでのお話として、まずは岡本さんの仕事への向き合い方について伺えたらと思います。
なるほど、了解しました。なんでも聞いてください。
──近年でいうと、やはりご自身が代表を務める声優事務所・ラクーンドッグの設立が大きなトピックだったかと思います。発足から3年ほど経ちましたが、現在の率直な心境としてはいかがですか?
3年目になってようやく、ラクーンドッグという組織の“色”が仕上がってきてるんじゃないかなと思いますね。役者もスタッフもみんながんばってくれてる印象が……まあそれは1年目からそうでしたけど、3年目になってより強く感じられるようになってきました。みんなの仲間意識みたいなものがどんどん濃くなってきているような、そんな印象もありますね。
──設立以前と以後で、岡本さん自身の意識の変化はありましたか?
役者だけやっていたときには見えていなかった、事務所スタッフの水面下での働きがハッキリ見えるようになったことが一番の驚きでした。以前は「自分1人さえがんばっていればなんとかなる」と天狗になっていた時期もあった気がするんですけど(笑)、がんばっているスタッフたちを目の当たりにすると「あ、やっぱり役者1人だけのがんばりではどうにもならないんだな」と痛感します。みんなの適材適所のがんばりがあって、その歯車が噛み合うことで初めてプレイヤーがのびのび活躍できるんです。そのことがより明確にわかったというのが、事務所を設立して得た一番大きな学びですね。
──視点が変わることで、より包括的に“役者の仕事”を捉えられるようになったと。
そうですね。それによって、役者さん1人ひとりの見ているものが違うんだなということも改めて実感しました。違う人間なんだから当たり前ではあるんですけど、仕事に対するスタンスって、本当に人それぞれいろんな考え方があるんだなって。所属役者からの意見の突き上げとかも僕のところにドコドコ来たりしていて……僕は一応代表取締役という肩書きではあるんですけど、実際のところは中間管理職みたいな立ち位置でして。
──“選手兼監督”みたいなものですもんね。
まさに。で、もともと自分はイエスマンなところがあるので、プレイヤーとしては扱いやすいタイプなんじゃないかなと思いましたね。使う側になってみると、「岡本信彦は使いやすい役者だなあ」って(笑)。
──(笑)。
例えば「1日に何本仕事を入れられるか」のキャパシティって、ホント人によって全然違うんですよ。「1日1本くらいがちょうどいい」という人もいれば、「1週間に1本がいい」という人もいる。かと思えば、僕みたいに「1日何本でもやります! どんどん仕事入れて!」みたいな人もいるわけで、そうなると事務所側としては、僕のようなタイプが一番ありがたいじゃないですか(笑)。
──そういう役者ばかりではないことを、マネジメント側としては理解しておかないといけないわけですよね。
そうなんです。みんなの悩みとかも聞きますし。この先どうしていくか、どういったポジションに行きたいか、どういう役を演じてみたいか……ともすれば、声優業に限定せずマルチにいろいろな活動をしたいという人も最近は多いですから。僕は割と長いものには巻かれるスタンスでやってきたんですけど(笑)、そういう話を聞くと、みんなちゃんとビジョンを持ってやっているんだなと感じます。ラクーンドッグは、臨機応変にそこらへんの意見を取り入れつつ、柔軟に活動できる環境を提供できているのではないかなと思っていますね。
役者としての仕事がより楽しくなった
──いちプレイヤーとして、仕事に対する考え方が変わった部分はありますか?
いちプレイヤーとしては、仕事が本質的に楽しくなりました。僕は事務所の代表でもあるので、契約書とかも読むんですよ。契約書を読むのと台本を読むのと、どっちが楽しいかっていったら……。
──そりゃ台本に決まってますよね(笑)。
契約書に関しては社会的な責任が生じるんで、細かいところまで何度も精読して「どうかな、これはまあいいかな」とか、いろいろ考えることが多岐にわたるんです。それに対して台本は物語なんで、ただその世界の中にいちキャラクターとして入り込むだけでいい。同じ“文字を読む”という行為でも、これだけの違いがあるわけです。そのことで、声優として当たり前になってしまっていた台本というものの素晴らしさに改めて気づけたというのはありましたね。
──素晴らしいお話ですね。改めて「役者っていい仕事だな」と思えた?
役者はいい仕事だと思います。だからこそみんなが目指したくなる職業というか……まあ正直、ラクな仕事に見える部分もあると思うんですけど。
──「毎日楽しんでるだけじゃん」みたいな。
そうそう。そういうふうに見えがちだと思うんですけど、それってたぶんひと握りの、鍛え抜かれたセンスとたゆまぬ努力を積み重ねた方々だけがたどり着ける境地であって。事務所を運営してみてわかっちゃったんですけど、“売れる”ってのは本当に難しいことなんです。どれだけ周りががんばっていても、それだけでは無理で、本人のがんばりも当然なきゃいけない。周りもがんばって自分もがんばって、必死でがんばる人が増えていくと、ようやく点と点が線になってつながっていく。このシナジーが十分に機能しないと、役者として大成する、一線級になっていくというのは難しいと思いますね。
──しかも、それはおそらく最低限必要なことであって、出演作がヒットするかどうかにもかなり左右されますよね。
そう、運も必要で……というか、運が99%ですね。
──さらに厄介なことに、芝居がよければヒットするというものでもないですし。
そうなんです。内容やクオリティが優れているからといってヒットするとは限らないですし、時代によって何がヒットするかわからないというのもあって……事務所をやっていて思うのは、“売れる役者”には特有のパワーのようなものがあるということです。例えば、学生時代からずっとモテてこなかった男の子がいたとしますよね。その彼のコンプレックス、「モテたいんだ!」という強い情熱が、ハーレムものアニメの主演を射止めたりするんですよ。
──なるほど……!
あと、言い方がめちゃめちゃ難しいんですけど……「真面目すぎると売れづらい」という法則はあるかもしれないですね。真面目な子や性格のいい子ほど、売れるのは難しい傾向があるというか。その“人のよさ”が極端に振り切れている場合はいいんですけど。あまりにも真面目すぎて、それが逆に面白いみたいな(笑)。何かがちょっと飛び抜けていないと、成功するのは難しい業界のような気がします。
──「この人はこういう役者さんです」という、わかりやすく突出した個性が必要だと。
そうですね。そもそも、感情を解放することって本来は恥ずかしい行為のはずなんですよ。社会性のある常識的な大人であれば、TPOをわきまえて普通はやらない。それを人前で堂々とさらけ出すことが役者の仕事なので、それができるかどうかなんですよね。しかも無理にやるのではなく、自然に呼吸をするかのようにできてしまうのが役者という生き物なんです。そのタガを外せるかどうかというのは、やはり人それぞれの資質によると思いますね。
──それこそ、真面目な人ほどそのタガは外せないでしょうし。
そう、どこかがんばりすぎてトゥーマッチになってしまったり、見当違いな芝居になっちゃったり。“恥ずかしい”という壁を越えられないのは、そのタイプに多いかもしれないです。
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大事にしているのは“人の縁”と“遊び心”






