メディアミックス作品を次々と生み出すKADOKAWAと、LINEマンガという大きなプラットフォームを持つLINE Digital Frontierがタッグ。KADOKAWAのタテスクコミック編集部と、LINEマンガの企画・制作・編集を担うLINEマンガ WEBTOON STUDIOが手を組み、縦スクロールの新連載をリリースした。第1弾の6作品は、11月よりLINEマンガで配信されている。
企画段階から入念に協議を重ね、時間をかけて進められたというこのプロジェクト。マンガ業界の異なる大手同士が手を組んだ理由とは? その経緯や狙い、新連載の内容について、タテスクコミック編集長の坂野聡氏とLINEマンガ WEBTOON STUDIOの第2編集チームマネージャー・長田英将氏に話を聞いた。
取材・文 / 太田祥暉撮影 / 武田真和
長田英将(LINEマンガ WEBTOON STUDIO 第2編集チーム マネージャー)インタビュー
プロフィール
坂野聡(バンノサトシ)
2017年、KADOKAWAに入社。事業管理等の部署を経て、新規事業担当として編集部の立ち上げに従事。2023年からはタテスクコミック編集長を務めている。
長田英将(ナガタヒデマサ)
2024年、LINE Digital Frontierに入社。JP Content Production室に所属し、第2編集チームのマネージャーを務める。マンガ・イラスト学科がある大学・専門学校にて、縦スクロールコミックのセミナーも行っている。
コマの入れ替えができることで、よりドラマティックにブラッシュアップできる
──まず、おふたりが一読者としてオススメの縦スクロールコミックからお伺いできればと思うのですが……。
長田英将 最近リリースされた作品ですと、「ひみつの服飾倶楽部」です。時代設定は近未来で、おしゃれが禁止されているディストピア的な世界観の中で、主人公たちが秘密裏にファッションを楽しんでいく……というお話です。ほんわかとした絵柄とシリアスな設定のギャップがとてもいいです。改めて、縦スクロールコミックにもいろんなジャンルの面白い作品があるなと感じました。私はファッションに疎いですが、それでも惹き込まれる作品になっています。
坂野聡 「日陰のアミル 追放されて無双する最強弓使い」と「野蛮のプロポーズ」ですね。前者はカクヨムに投稿されていた小説が原作。従来のマンガのトレンドを取り入れた頭身やタッチがとても読みやすいんです。後者は、とにかく画面のクオリティが高くて! もちろんストーリーも面白いのですが、これが標準になると困ると思うほどに光の表現が巧みな作品になっています。実は12月17日に弊社から紙書籍も刊行されるので、そちらでもぜひ読んでいただきたいですね。
──今イチオシの作品を語っていただいたうえで、そもそも、おふたりが縦スクロールコミックの魅力だと感じられていることをお聞きしたいです。
長田 スマホで読みやすいことでしょうか。従来のマンガを電子書籍として読んでも、文字を拡大しないとセリフが読みづらいなんてことはよくありますよね。でも、縦スクロールコミックの場合、スマホで読まれることを前提に描かれているので、読みやすくなっています。また、基本的にはカラー原稿なので、キャラクターが判別しやすいことも魅力ではないでしょうか。ほかにも、従来のマンガ制作では、1コマ足したり引いたりしたい、となるとほかのコマの大きさが変わり、ページ全体へ影響が及んでしまいますが、縦スクロールコミックではコマの入れ替えや修正が比較的容易となっています。
坂野 コマの入れ替えが簡単なことで、よりドラマティックにブラッシュアップできるのは魅力の1つですね。そして、読者側としても全ページカラーであることは魅力に感じます。そのためにも、従来であればアシスタントが行なっていたような背景作業や、着彩作業も最初から分業制としてシステムに組み込むようにしました。どこまで作者さんが手がけるのかはケースバイケースですが、そんな工程でも試行錯誤を行うことができることが、まだ正解が出ていない縦スクロールコミックならではだとも感じています。
編集部と直にやり取りすることで、一歩踏み込んだ作品作りを
──さて、今回、KADOKAWAのタテスクコミックとLINEマンガ WEBTOON STUDIOが協業することになった経緯をお教えください。
坂野 2021年にタテスクコミック編集部が発足したのですが、そこから数年間どうしたら露出力を増すことができるのか、かなり悩んでいたんです。そこで、世界に向けて大きな取り組みをされているLINEマンガさんと何かできればいいなと思ったことが、協業のきっかけでした。LINEマンガさんで作品を先行配信して、一緒に作品を育てられるパートナーになれればいいなと。
長田 LINEマンガでは長年、縦スクロールコミックの配信を行なっていますが、基本的には出版社・スタジオの営業の方と、弊社の営業担当者がやり取りしております。一方で、今回の取り組みは、編集部同士で直接やり取りしながら縦スクロールコミックを創作していくということで、新鮮に感じました。他社の編集部さんが読者の方々に、どんな作品を届けたいのか密に知ることができて、普段と違う作品作りができそうだなと感じ、今回の取り組みを進めることにしました。
坂野 LINEマンガさんは、長年のデータをもとにした貴重な意見をくださるんですよ。例えば、紙書籍と違って縦スクロールコミックの表紙はキャラクターの顔をもっと大きくしたほうがいいとか。
長田 表紙を引きの絵にしてしまうと、紙の単行本のサイズであればいいのですが、スマホの画面上で表紙を見た場合、キャラが小さくて視認できなくなってしまいます。なので、スマホで表紙を表示してクリックしてもらおうと思うと、できれば1人か2人のキャラにしてアップにしたほうがいいと思っています。
坂野 ほかにもタイトルを読まずに作品に触れる読者の存在を教えてくださったり、作品についてもアドバイスをくださったりと、かなりカジュアルにご相談をさせていただきました。その結果生まれたものが、今回配信される6作品です。
長田 縦スクロールコミックのトレンドと、KADOKAWAさんとして強く打ち出していきたいアクションもの、その双方が揃ったラインナップになりました。
──確かにラインナップを拝見すると、ロマンスファンタジーとアクションもの、さらにはエッセイ原作の青年向け作品が並んでいます。そんなラインナップについて詳しく伺えればと思うのですが、まずアクションものの2作品(「禍人 -マガヒト-」「RAY」)についてお教えください。
坂野 アクションものについても、青年マンガテイストの「禍人 -マガヒト-」と少年マンガテイストの「RAY」と異なった雰囲気のものを用意しています。縦スクロールコミックには異世界ものが多い認識を持たれている読者の方も多いとは思いますが、やはりほかのジャンルを生み出していくことも必要です。また、2作品の作者は弊社の新人賞「タテスクコミック大賞」出身。レーベルとしても育てていきたい才能の新たな作品を、LINEマンガという大きな舞台でリリースしたいなと。
長田 「禍人 -マガヒト-」は肉弾戦の迫力がすさまじいですよね。各キャラクターの能力がどんどん開示されていくストーリー展開も魅力的で、諏訪童角先生独特の筆致も相まって、ついつい読み進めてしまいます。
「禍人 -マガヒト-」
著:諏訪童角
坂野 諏訪先生は大河ドラマ級の濃密な設定を脳内に持たれているんですよ。それを経験豊富な担当編集が丁寧にほぐしながら、作品に落とし込んでいます。僕はこれから更新されるエピソードも読んでいますが、次々と魅力的なキャラクターが登場するので、ぜひお楽しみにしていただきたいですね。
長田 「RAY」は掴みが巧みで驚いた作品です。何故主人公はミサイルを止められたのか、その理由が描かれるのかなと思ったら時系列が3カ月前に遡って……。次々とインパクトのある展開と構成になっているところが面白いですよね。
「RAY」
著:JOH
坂野 JOH先生と「RAY」を作り始めた時点では、現在の第2話が第1話の予定だったんですよ。でも、制作している最中にある映画のトレーラーを観て、結末を最初に押し出してから進めたほうが面白くなるのでは、と考えるようになり。改めてイントロから構成し直したんです。その結果、序盤からインパクトを感じていただけたのであれば、その試行錯誤は成功したのかなと(笑)。
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スタジオとタッグを組んだロマンスファンタジー3作品


