「琉球バッカニア」は、あらゆる猛者が覇権を争う幕末の日本を舞台に、元琉球士族・玻名城武太(はなぐすくむた)を描く冒険活劇。薩摩の謀略によりあらぬ罪を着せられた武太は、強者ひしめく財宝争奪戦に巻き込まれていき……。裏切り、欲望、陰謀が絡み合うゴールドラッシュが幕を開ける。
同作の3巻の発売に合わせ、ボカロP・獅子志司とコラボした楽曲「シーカー」とMVが完成した。コミックナタリーでは原作者のカミツキレイニーと、獅子志司による対談をセッティング。「琉球バッカニア」制作の裏側をカミツキレイニーに語ってもらったほか、「琉球バッカニア」を「圧倒的などストライク作品」と語る獅子志司が「シーカー」に込めた思いにも迫った。さらに漫画担当・土井那羽のメールインタビューもお届けする。
取材・文 / ナカニシキュウ
幕末を描くつもりじゃなかった
カミツキレイニー まだメディアミックス展開がまったくされていない段階で、こんなふうに獅子志司さんに曲を作っていただけるなんて本当にありがたいことだなあと。なかなかないことだと思いますし、「琉球バッカニア」を選んでいただいて非常に光栄です。
獅子志司 いえいえ、こちらこそありがとうございます。自分はもともとマンガがすごく好きで、マネージャーに「マンガコラボしたいです」って駄々をこねていたら……。
カミツキ (笑)。
獅子志司 一迅社さんからそのチャンスをいただけることになって、本当にありがとうございますという感じです。しかも、圧倒的などストライク作品の「琉球バッカニア」の曲を書かせてもらえるということで。
カミツキ 「圧倒的などストライク」でしたか。
獅子志司 もともといち読者として楽しく読ませていただいていて。僕は幕末という時代が大好きなので、新選組とか薩摩藩、長州藩などが入り乱れるあの時代に、琉球の地で大金の奪い合いが行われるというコンセプトにシンプルに惹かれました。あまり知識のなかった琉球の文化についても学べたりするので、もう夢中になって読んでいます。
カミツキ 実は当初、幕末よりももう少し前の時代を書こうと思っていたんですよ。
獅子志司 あ、そうだったんですか。
カミツキ 江戸後期の琉球王国の話を考えていたんです。それを担当編集さんに話したら、「いや、幕末のほうがアツいですよ!」と(笑)。「新選組や西郷さんなどの有名どころも出せるし、題材としてめちゃくちゃいいですよ」と言われまして。
獅子志司 なるほど(笑)。
カミツキ 用意していただいた資料をいろいろ読ませてもらったら、確かにこっちのほうがアツいんですよね。時代がズレると最初に書きたかった琉球の王様が書けなくなってしまうのでどうしようかと思ったんですが、黒船来航以降の混沌とした時代を背景に薩摩や琉球などの勢力が入り乱れて埋蔵金を奪い合う……と考えたら、「これは作れるぞ!」という気持ちになりまして。それで幕末を選んだ感じですね。
獅子志司 おっしゃる通りアツい展開の連続で、読んでいるだけで曲が浮かびまくっていました(笑)。今回に限らず、僕の場合はいつもそうなんですよ。マンガやアニメから着想を得て曲を書いていくスタイルなので、それをオフィシャルでやってしまえる今回のようなお話は本当にありがたい限りです。
その人がいいと思って出すものが正義
獅子志司 レイニー先生と土井那羽先生のようにコンビでマンガを作る場合って、やはりネームみたいなものを描いて渡しているんですか? 「バクマン。」とかの知識だけで話してますけど(笑)。
カミツキ 僕の場合はシナリオの形で納品しています。それをもとに土井先生がネームを起こしてくださるんですが、「こんなふうに画として出てくるのか!」と毎回感動するんですよ。僕が頭の中で考えていた以上に武太や心泉が生き生きと縦横無尽に暴れているので、すごいなあと。原作者冥利に尽きますね。
獅子志司 僕もボーカリストの方に楽曲提供をするときは「こんな歌い方をするんだ!」と驚かされることがよくあるので、その感じに近いかもしれないですね。僕はその人がいいと思って出すものを正義だと思うタイプなので、まったく想定していなかった表現で返ってくると「いいじゃん!」とうれしくなっちゃいます。
カミツキ わかります。「琉球バッカニア」でも、けっこう土井さんがアドリブで描いているところがあるんですよ。例えば第1話で、心泉に「人を斬ったことはあるか?」と問われた武太が「今斬った」と言いながら振り向きざまに悪者を斬るシーンがあるんですけど、シナリオ段階では武太が最初から刀を持っていたんですね。でもマンガだと、心泉が差している刀を武太が抜いて斬っている。そこは完全に土井さんのアドリブで。
獅子志司 へええー!
カミツキ 「なるほど、武太はこういうふうに戦うんだ」と。土井さんのやりたいことが反映された描写だと思うので、そこに僕から「いや、シナリオと違います」なんて言うのは野暮じゃないですか。
獅子志司 めちゃくちゃわかります! あのシーン、すごくカッコいいなと思っていました。
カミツキ 逆に、シナリオを出す段階ではいつも「大丈夫かな?」とドキドキしています(笑)。小説の感覚で書くと、どうしてもセリフ量が多くなってしまうんですよ。マンガのセリフは端的にわかりやすく言う必要があるので、「多い!」と言われるんじゃないかって。
獅子志司 やっぱり小説とマンガ原作では勝手が違うんですね。
カミツキ けっこう違いますね。やはり“画的に面白い”ことが優先されるので、お話の作り方からして小説とは異なります。例えば「家が燃えていたら面白いんじゃないか」という発想ありきで、「じゃあどういうストーリーがあれば家を燃やせるか」と考えていく、というような。「巨大なサメを斬ったら面白いんじゃないか」とか。
獅子志司 なるほど、思考の順序が逆になるというか。
カミツキ そうですね。あと、マンガは次々と締切が来る(笑)。小説だと1回書き終わったらしばらく燃え尽きる期間に入るんですけど、今は1本終わったらすぐに「次のプロットを」と言われるので、常に張り詰めている状態ですね。で、気がついたらいつの間にか単行本ができている、みたいな。
獅子志司 確かに、マンガ家さんは常に締切に追われているイメージがあります。今のお話を聞いて「本当にそうなんだな」と変に感心しちゃいました(笑)。
カミツキ 月刊連載でこれですからね。週刊でやられている作家さんがいったいどうやっているのか、不思議で仕方ないです。すごいですよね。
どうしても唇をハブに噛ませる必要があった
獅子志司 キャラクターで言うと、僕はやっぱり主人公の玻名城武太が一番好きで。だまし合いや裏切り、殺し合いが当たり前の世の中で、まっすぐに生き抜いているところが“光属性”って感じでいいんですよね。あと、すべてに対して怒っているじゃないですか。その中でも自分の弱さに一番ムカついているのが「主人公だなあ」と感じて、好きになりました。
カミツキ 武太は、当時ないがしろにされていた琉球国民の代表なんです。日本や清国に従わされている状況で、琉球王府は器用に立ち回るんですけど、武太はそれができずに「何をしたらいいのかわからないけど、ただただがむしゃらに怒っている」という立ち位置。そのいら立ちや焦燥感は現代の若者たちが抱えているものと通ずるところがあるんじゃないか、と担当編集さんにも言われまして。
獅子志司 確かに、武太に対する僕の感情は“共感”に近いような気もします。僕が曲を作るときって、「なんでこんなに再生数が伸びないんだろう?」「自分の音楽が弱いからだ」という怒りを作品にぶつけているところもあるので、行動原理としては似ているのかもしれないです。
カミツキ ただ最近はちょっと展開重視になってきていて、武太があまり怒っていないんですよね(笑)。もうちょっと怒らせないといけないな、とは思っているんですけど。
獅子志司 やっぱり武太が怒ってくれるのがうれしい、というのはありますね。“怒り”って、わかりやすく引き込まれる感情だと思うので。その一方で、心泉の唇が毒で腫れあがって、武太とシタルが大笑いするシーンがあるじゃないですか。僕、あそこがすごく好きなんです。ずっと張り詰めていた物語に急に光が差したような感じがして、尊いなあと思って。
カミツキ わちゃわちゃしたシーンを書きたかったんです。ずっとヒリヒリする戦いが続いていたので、一旦息抜きみたいな感じを入れたくて……あのシーンもけっこう改稿したんですよ。僕の頭の中にある会話のリズムをそのままシナリオにすると、マンガでは間延びした感じになってしまうので、土井さんのリズムに合わせてクスッと笑えるやり取りにするのはけっこう難しいものがありましたね。
獅子志司 そうなんですね。そのご苦労の甲斐あって、すごくホッとできる最高のシーンになっていたと思います。めっちゃよかったです。
カミツキ うれしいです。余談ですけど、あのシーンを書くために前段としてどうしても心泉の唇をハブに噛ませる必要があったんですよね。最初、「ページの都合で、もしかしたらこのシーンはカットするかもしれない」と編集さんには言われたんですけど、「いや、次の話で心泉の唇が腫れていないといけないから、このシーンだけは!」と懇願しました。
獅子志司 へええー! 確かに、急に腫れてたら意味わからないですもんね(笑)。カッコいいバトルだけじゃなくて、ああいうコミカルなシーンがあるところもこの作品の魅力だと思います。
曲のアイデアにはまったく困らなかった
獅子志司 今回、そんな「琉球バッカニア」にコラボ曲「シーカー」を作らせていただきましたが、まず“琉球”“海”“戦い”の3つの要素を絶対に入れたいと思っていました。なおかつ、自分は琉球音階がとても好きなので、自分の作品で使うチャンスだなと思って。三線の音や海の音を入れたりとか、やりたいことが無限に浮かんできたので、アイデアにはまったく困らなかったです。
カミツキ まさにのびのびと「琉球バッカニア」の世界を想起させるような曲に仕上げていただいて、大満足です。変にこちらから「こうしてくれ」とリクエストを出してがんじがらめにするのもよくないなと思ったので、とくに要望を出すこともしなかったんですよね。獅子志司さんの作られる音楽にはもともと「琉球バッカニア」ともなじみそうなイメージを持っていましたし、安心してお任せできると思っていたので。
獅子志司 ありがたいです……! でも、さっきレイニー先生がおっしゃっていたことと被りますけど、僕も「大丈夫かな」ってビクビクしながら書いていたところはあります(笑)。やっぱり曲を書くときってどうしても自我が出てしまうものなので、解釈違いがあってはならないと思って。齟齬が生じないように、というのはすごく意識しました。
カミツキ 最初に歌詞をいただいて読んだときに、まず「でーじまぎー」という沖縄の言葉が使われていることにびっくりしたんですよ。
獅子志司 そこはまさに「大丈夫かな?」と思っていたポイントですね。沖縄出身でもない僕がこんな言葉を使うなんて、ちょっとイキりすぎじゃないと(笑)。
カミツキ 地元の人間が当たり前に使う言葉で、しかもちょっと俗っぽい言い方なんですよね。ヤンキーが使うような(笑)。
獅子志司 そうなんですか! 知らなかった。ヤベえ(笑)。
カミツキ (笑)。でも、それが曲の歌詞として自然に成立していて、獅子志司さんの透明感ある歌声ともなじんでいるのがすごいなと。めちゃくちゃカッコいいです。
獅子志司 僕はけっこう音で判断しちゃうんです。「でーじまぎー」ってすごく言いやすくて響きもいいから、勢いで入れちゃったんですよね。
カミツキ めっちゃいいですよ。あとは、個人的に「誰かしらそれなりの悪で」というフレーズが好きで。まさにこの作品で描きたかったことが見事に表現されているなと感じました。
獅子志司 そう言っていただけるとありがたいです。
カミツキ この物語では琉球や薩摩、清国といった勢力が入り乱れて、それぞれの正義を掲げて戦っている。客観的には、どれが正義でどれが悪というわけでもないんですよね。冒頭ではストーリーの都合上どうしても薩摩を悪者にしないといけなかったんですけど、別に薩摩を悪く描きたかったわけじゃないんです。悪いやつは琉球側にだっているし、お互いが裏切り合い、だまし合いをする中で、武太と心泉、シタルのような絆が生まれて「裏切らない」という選択がされるところにドラマがあるわけで。それを汲んでくれている1行だなと思いました。
獅子志司 僕が音楽を通じて描きたい世界も、まさにそういうところなんです。誰にでも自分なりの正義というものがあって、それがぶつかり合う構図がもともと好きなので、マンガやアニメを観るときにはそういう要素のある作品に惹かれがちなところがありますね。
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