新たなキャスト陣やAdoの歌う主題歌など、“令和版”として注目を集める、ディズニープラスで独占配信中の新作アニメ「キャッツ♥アイ」。一方、ストーリーはより原作に忠実な形でアニメ化され、80年代当時の雰囲気も漂う作品に仕上がっている。この記事ではそんな“原作準拠”を象徴する、第5話に初登場したキャラクター・ねずみにフォーカスを当てる。北条司作品のファンなら見逃せない、彼の魅力とは。
なお「キャッツ♥アイ」第1話~第3話は、ディズニープラス公式YouTubeチャンネルで期間限定無料配信中。第1話では来生瞳役の小松未可子と内海俊夫役の佐藤拓也、第2話では来生泪役の小清水亜美と来生愛役の花守ゆみりのオーディオコメンタリーも聴けるので、この機会をお見逃しなく。
文 / 小林聖
「キャッツ♥アイ」屈指の名脇役「ねずみ」とは
ディズニープラスで独占配信中の新作アニメ「キャッツ♥アイ」は、スタイリッシュな映像とともに現代の物語としてアレンジされている一方、過去のアニメシリーズよりも、北条司による原作マンガに近い形になっている。
たとえばキャラクター。怪盗・キャッツアイである来生瞳、泪、愛の3姉妹と、瞳の恋人でありキャッツを追う警察官でもある内海俊夫という物語の中心キャラクターはもちろんのこと、犬鳴警察署・キャッツ捜査班の平野や武内、重さんこと海野重造など、旧アニメでは登場しなかった原作おなじみのキャラクターたちもさらりと顔を出している。
中でも注目なのが、やはりかつてのアニメシリーズでは描かれなかった「ねずみ」こと神谷真人の登場だろう。新作アニメ第5話「泥棒紳士登場」でついにアニメ登場を果たした。
神谷は表の顔はフリーライター、そして裏の顔は宝石を専門とする「ねずみ」と呼ばれる怪盗。キャッツのライバル的存在であり、やがて何かとキャッツに協力するようにもなっていくキャラクターだ。
彼は作中貴重な存在でもある。俊夫の友人であり、表でも何かと瞳や犬鳴署の面々と関わりを持つ。その一方で、キャッツの正体を知っている数少ない人間の1人であり、裏稼業でも活躍する。表も裏も知っていて、ときには俊夫たちを導くような役割も果たす、準レギュラーながら重要な存在と言える。
だが、ねずみの登場が話題になるのは、重要キャラだからというだけではない。彼が「シティーハンター」の主人公・冴羽獠のモデルになったキャラクターでもあるからだ。
女好きの3枚目だけど、本心はなかなか見せない凄腕
「シティーハンター」は「キャッツ♥アイ」連載中に発表された2本の読み切り、「シティーハンター -XYZ-」「シティーハンター -ダブルエッジ-」がプロトタイプになっている。設定などはのちの連載版と異なるが、スイーパーの冴羽獠とそのアシスタント・香のコンビが美女の依頼を解決するという基本形は、読み切り版でできあがっている。「XYZ」は掲載当時から人気を博し、編集部や北条も「キャッツ」の連載が終わったら次は「シティーハンター」と自然に考えていたという。
そんな読み切りは、もともとねずみを主人公にした話を描くという着想から生まれたものだと北条は語っている。確かに「XYZ」ではキャッツアイを思わせる喫茶店に瞳たちらしき「キャッツ♥アイ」のキャラクターが顔を見せたりもしている。このあたりは遊び心やサービス的な要素なのだろうが、ねずみから冴羽獠へという流れを感じさせる場面だ。
キャラクターとしてもねずみと獠は確かに共通する点が多い。造形からして、ねずみは垂れ目が印象的ではあるものの、ややパーマがかった左分けの髪型など、原点を感じる部分がある。
そして、何よりキャラクター性だ。軽いお調子者だが、裏稼業ではキャッツを出し抜いたこともあるくらい腕前は一流。女好きで、原作ではあちこちで手を出しているのか、女の子たちに追われ怒られる場面も描かれる。反面、本心は見えづらいところがあり、瞳に対しては本気っぽい部分があるけれど、いつもどこか茶化した態度でいる。普段は遊び人で3枚目を演じる冴羽獠の原型というべきキャラクターだ。
ねずみから冴羽獠へ受け継がれたもの
さて、ねずみから冴羽獠へということを考えるとき、面白いのは似ているようで違う部分だ。
例えば、「キャッツ♥アイ」原作にねずみがキャッツに改めて盗みの勝負を挑む「恋のテンカウント」という印象的なエピソードがある。このエピソードは普段なかなか見えないねずみの心の奥が垣間見える。瞳に本気で惹かれるようになったねずみが、勝負という形で瞳を口説こうとするのだ。
盗み勝負のクライマックス、このままでは俊夫に正体がバレると思った瞳は、絶体絶命の状況で地上10階のビルの窓から命がけのジャンプをして脱出。ねずみとの勝負に勝つ。
その覚悟を見たねずみは、勝負のあと泪に問いかける。「瞳ちゃんはなぜ あんな危険な芸当ができるんだろね」。「やっぱりプロだってことか」と自問自答するねずみに対し、泪は「あなた<プロ>ならあんな無茶をやって?」と逆に問う。
そう、ねずみはプロだからこそ、命をかけるような真似はしない。おそらく割に合わない仕事もしない。だが、瞳は違う。俊夫との恋を命がけで守るし、父とつながる絵画を集めるためには分が悪い勝負にも出る。
このエピソードは、あくまでキャッツアイ、瞳の覚悟を見せるもので、ねずみはその引き立て役に過ぎないとも言える。だが、こういうところが実にねずみらしいなとも思う。
ねずみは自由であり、いろんなことを割り切ることができる。それはある意味ではねずみの強さと言ってもいいだろう。だが、裏返せばそれはねずみには命がけで守るべきものがないということでもある。
「恋のテンカウント」のラスト、ねずみはビルからジャンプした瞳の姿を考えながら「命がけの恋…かァ!!」とつぶやく。「果報者だぜ 俊夫──」とも。そこには、俊夫に負けたことの悔しさと同時に、自由であることの寂しさがにじんでいるようにも見える。
軽やかさの裏ににじむねずみの寂しさ
ねずみが冴羽獠になっていった過程で引き継いだ部分、そしてそのうえで変わっていった部分はここではないかと思う。
北条司は「劇場版シティーハンター 天使の涙」公開時のインタビューで「獠は余分な命で生きていると思っているところがある」と語っている。「どうせ余分な命だから、命をかけても平気という感覚で仕事をしている」と。
冴羽獠は、幼少期に飛行機事故により、紛争地帯でゲリラの戦士として育てられた過去がある。両親も自分の出生も不明。根もなく、帰るべき場所もない。そんな彼にとって、新宿での暮らしは余剰のもので、いつ失っても惜しくはなかったのかもしれない。特に読み切り版の獠は、のちの連載版と比べると冷徹で無頼な雰囲気が色濃く感じられる。
仕事に命をかけないねずみは、一見獠と正反対だが、守るべきもの、帰るべき場所がないという点では同じだ。仕事に命をかけるなんてバカげているとなるか、命を惜しくないと考えるか、結論は裏表になっているが、根本の部分は同じだろう。
だが、そんな獠は作中でパートナーでありヒロインである香と出会うことで変わっていく。香がいることで、獠は「絶対に生きる」という生き方を選ぶようになる。それは、“いつ死んでもいい”ではなく“生きる”という命のかけ方だ。そう考えると、ねずみと同じところから始まりながらも、別のところへたどり着いたのが冴羽獠というふうにも思えるのだ。
もしもねずみが獠と出会ったらどう思うだろう。バカげた生き方をしているように見えるだろうか。もしかしたら不自由にも見えるかもしれない。けれど、瞳に感じたのと同じように、それだけ想う人がいることや、想われる人に対して、果報者だと思うのではないだろうか。
配信中のアニメでも、ねずみは軽やかに振る舞い、3枚目として私たちを笑わせる。「チャオ」とイタリア語で挨拶し、一方で周到な盗みの様子がより詳細に描かれるようになったアニメ版のねずみは、小西克幸の演技も相まって原作以上に余裕たっぷりのお調子者というキャラが際立っている。その軽やかさの裏ににじむねずみの寂しさは、香と出会う前の冴羽獠の寂しさでもある。ねずみを知ることで、そこから生まれた獠というキャラクターの原点と変化も見えてくるのだ。




