「祝福のチェスカ」1巻

このマンガ、もう読んだ?

「祝福のチェスカ」言語が統一され、人々が平等になったら…会話の駆け引き描く“会議マンガ”

PR乃原美隆「祝福のチェスカ」

神より与えられた超能力“ルア”を操る人々に支配されている世界で、その力を持たない人々は“ヤグー”と呼ばれ過酷な差別に晒されていた。そんな中、世界中の王族・為政者の子供たちが通い、さまざまな言語が飛び交う学園に、ヤグーの王子が入園することになる。そしてある出来事をきっかけにすべての人から突然ルアが失われ、さらにはお互いの言葉がわかるようになり……。言語学の天才である少女・チェスカと、虐げられし民の美しき王子・シキが出会い、世界のルールが覆されるファンタジー。「祝福のチェスカ」は月刊コミックZERO-SUM(一迅社)で連載され、その後ゼロサムオンラインで最新話が無料公開されている。2月28日発売の月刊コミックZERO-SUM4月号では新章がスタート予定だ。

/ 小田真琴

乃原美隆「祝福のチェスカ」1巻
乃原美隆「祝福のチェスカ」1巻
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ファンタジー世界の学園で展開される権謀術数を描いた世界初!?の“会議マンガ”爆誕!

「彼らは一つの民で、皆一つの言葉を話しているから、このようなことをし始めたのだ。これでは、彼らが何を企てても、妨げることはできない。 我々は降って行って、直ちに彼らの言葉を混乱させ、互いの言葉が聞き分けられぬようにしてしまおう」 『創世記』11章1~9節

会議が好きな人間などいるのだろうか。なんらかの問題を解決するために、重要事項を決定するために、情報を共有するために、グッドアイデアをひねり出すために、私たちは話し合いの場を設ける。しかしその実情たるやいかがなものだろうか。たいていの会議においては、時間ばかりが無為に流れ、虚しさと疲労感が降り積もるのみである。

そんな「会議」ばかりしている珍しいマンガ作品が登場した。乃原美隆の「祝福のチェスカ」である。会議マンガであり、学園ものでもあり、恋愛ものであり、ファンタジーでもあるという、「そんなに盛り込んで大丈夫!?」と思ってしまうほどのサービス精神にあふれた作品だ。しかしそのような心配は読み始めて早々に杞憂だったとわかる。この世界は“祝福(ルア)”を持つものと持たざるものとで、人か人でないかを明確に“区別”しているということ。ルアは先天的に宿る奇跡の力で、小さな火花を森が全焼するほどの大きな炎にするなど、一を十に、一を百に増幅させる能力を指すということ。ルアの力の有無と強さは遺伝によるもので、王族は代々強力なルアを保有し、その地位を維持しているということ────。そうした複雑な設定が、流れの中で自然に淀みなく語られていく。テンポのいい会話は間違いなくこのマンガの大きな長所であり、“会議マンガ”としての本作のアイデンティティでもあるのだ。

「祝福のチェスカ」1巻より。

「祝福のチェスカ」1巻より。

権力、差別、争い────現実世界の縮図のように描かれる「王族会議」

言うまでもなくルアは、権力や、それを保証する経済力、政治力、科学力、軍事力のメタファーだろう。終戦を機に“持たざる者”であるヤグーたちへの差別は公式には存在しなくなったはずが、未だにヤグーを下に見る者は少なくない。そんな世界で突然、ルアの力が失われ、言語認識が共通化された。ルアのない平等な世界で、誰もが同じ言語を話すようになった世界は、なんとなくよきものであるように思える。だがそう簡単にはいかないのだ。

腹に一物を抱えた各国の後継者たちは、誰もが本音で語るわけではない。会議の議題が決まり、その結論を出しさえすればすべては元に戻るとわかっていながら、同じ言語で話せるがゆえに、より高度で複雑な駆け引きが展開され、話し合いはますます紛糾し、対立は深まりゆく。「結局どれだけ説明したって 自分の見ている世界からずれた他人の価値観は『変』なんだ」。ヤグーの王子・シキは、諦め顔でそうつぶやくのだった。

「祝福のチェスカ」1巻より。

「祝福のチェスカ」1巻より。

ここまで読めばおわかりだろうが、本作は分断が進行する現実世界の状況を積極的に反映している。例えばヤグーのような被差別民を、差別的で強権的なゴリゴリの宗教右派・ヨハネスのような政治家を、私たちはよく知っていることだろう。

「言語が共通化された平等な世界」ははたして理想郷なのか?

旧約聖書において神は、天まで届く塔を建設しようとした傲慢な人間たちの力を奪うために、人々がそれぞれ別の言語を使うようにし、世界各地へと四散させてしまった。つまり本来、同じ言語で語り合えることは、人間にとって“力”であったはずなのだ。

ところがどうだ。インターネットの登場によって世界はひとつになれるのだと00年代にはよく語られていたものだが、現実にはこのザマである。文字で、画像で、動画で、時には近年飛躍的に精度が高まりつつある翻訳ツールを経由して、情報は瞬時に共有されるようになったが、人々の分断はむしろ進行している。そうした現実世界の縮図として、本作の“会議”は描かれているように思えてならない。

「祝福のチェスカ」1巻より。

「祝福のチェスカ」1巻より。

シキはまたこうも言う。

「ルアンは冷酷で卑劣な化物だと教わってきた 対話も共感も不可能な異形の種 ────でも言葉が通じるようになってわかったよ 少なくとも お前らは交渉の余地はある連中だろ?」

私たちがいるのは真の調和への過渡期か、それとも破滅への一本道なのか。そうした現実世界の行く末を考えるヒントが、今後の「祝福のチェスカ」で描かれることを期待したい。

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言語学の天才・チェスカと、虐げられし民の王子・シキが出会う「祝福のチェスカ」第1話を試し読み!
©乃原美隆/一迅社

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