「ふくしままっぷ」ブランドムービー第2弾|「ふくふくの地図」 アニメーション監督 片渕須直 人が未来を見るときに、本来あるべき祝福を

2013年、NHKの震災復興支援ソング「花は咲く」のアニメーションを手がけた片渕須直監督。震災発生から15年の今年、再び片渕監督の視線は福島へと向けられた。最新作「ふくふくの地図」は、福島県の総合情報誌「ふくしままっぷ」のブランドムービー第2弾として制作された、約11分の短編アニメーション。初めて福島を訪れるフランス人の哲学者・ソフィーが「ふくしままっぷ」を手に福島を巡り、福島の文化に出会うさまが、優しくも濃密な筆致で描かれる。

「ふくふくの地図」についてインタビューする中で、片渕監督が口にしたのは“祝福”という言葉。今再び福島を描くにあたり“祝福”という言葉を選ぶ、そこには片渕監督らしい人々への眼差しがあった。また「この世界の片隅に」以来のこうの史代、コトリンゴとの再タッグや、3日間にわたるロケハンでのエピソード、自らが描き出すキャラクターへの思いなど、福島での上映会を終えたばかりの片渕監督に、その制作の舞台裏をじっくりと語ってもらった。

取材・文 / 柳川春香撮影 / 小嶋雅人(tendotFive.)

ふくしままっぷ友の会プレゼンツ福島県総合情報誌
「ふくしままっぷ」ブランドムービー第2弾

「ふくふくの地図」

友人の結婚式に参列するため、初めて福島県を訪れたフランス人の哲学者・ソフィー。見ず知らずの土地で地図を失くし、途方に暮れる彼女の前に現れたのは、不思議な“ともだち”と1枚の“まっぷ”。旅のような冒険のような不思議な一日を過ごす中で、ソフィーは友人にかけるべき言葉をゆっくりと見つけていく。

監督・脚本:片渕須直
監督補:浦谷千恵
キャラクター原案:こうの史代
キャラクターデザイン・作画監督:瀬口泉
作画監督補:大田真由 / 丸田萌依
美術監督:太田清美
音楽:コトリンゴ
タイトルデザイン:寄藤文平
制作:齋藤宏行 / 渡邉沙友里(山川印刷所)
プロデューサー:井上淳 / 春日大樹(東北新社)
プロダクションマネージャー:寺師寛明(東北新社)
アニメーションプロデューサー:せきねあやこ(CONTRAIL)
アニメーション制作:CONTRAIL
企画・監修:箭内道彦(福島県クリエイティブディレクター)
制作・著作:福島県

片渕須直 インタビュー

“その後”を見つめ、映像として作り上げる機会に

──今日はフォーラム福島での「ふくふくの地図」完成直前特別上映会の直後にお話を伺っています。完成前の映像にはなりましたが、まずは福島の皆さんとご一緒にご覧になっていかがでしたか?

トークショーで内堀(雅雄)知事もおっしゃってたんですが、「みんなで観る」っていうのがよかったですね。できあがったらWeb上で公開されるものなので、1人で小さい画面で観られる方も多いと思うんですが、今後また映画祭など、大きなスクリーンで皆さんと一緒に観る機会が得られるといいなと思っています。

片渕須直監督

片渕須直監督

──内堀県知事をはじめ、福島の皆さんもとても感動されている様子でしたね。今回片渕監督が「ふくしままっぷ」ブランドムービーの制作をお受けになったのは、2013年に「花は咲く」を手がけられたところからの気持ちのつながりもあったかと思いますが、中でも福島との関わりはどのようなものがあったのでしょうか。

震災の年の8月、まだ家の屋根にブルーシートがかぶさったままになってるような時期に、福島県のいわき市で、娯楽がなくなってしまったお子さんたちに「マイマイ新子と千年の魔法」を観ていただく機会を設けてくださった方がいまして。商業施設の片隅を借りて、パイプ椅子を並べて上映したんです。その頃も何度か伺いましたし、風評被害などがあって福島に人がなかなか来ないという時期もありましたから、旅行に来たり、山登りをしに来たりしていましたね。

──「花は咲く」の制作時もロケハンに来られたんですよね。

はい。そのとき、集落の姿が消えてしまった跡に「復興していきましょう」と書いた看板を地元の信用金庫が立てていたのを見て、「花は咲く」に信用金庫の人がバイクで街を走り回っているシーンを入れたりしました。ただ、だんだん自分たちの仕事が忙しくて足が遠のいてしまったところがあるものですから、これはいい機会だなと。「花は咲く」ではそこにいた人たちの暮らしを描くことを貫いたんですが、じゃあその後どうなったのか?というのを映像の形で作り上げたいという思いがありましたし、震災が発生してから15年の今年、もう一度見つめ直すいい機会だなと思い、引き受けさせていただきました。

──ちなみに「花は咲く」を制作されたのは「この世界の片隅に」の制作より少し前だったかと思いますが、当時プレッシャーなどはなかったですか?

そういった感じは特になくて、何かお力添えできるならがんばりたいな、と思っていました。今振り返ると「この世界の片隅に」に至る、ある種のテストケースみたいな立ち位置の作品にもなりましたね。もちろん題材の意味合いがすごく大きかったですが、少しずつ自分たちの作り方を見定めていった時期でもあったように思います。

花が咲いてないからこそ、咲いてるところを想像する

──ブランドムービーを作るにあたって、最初はやはり「ふくしままっぷ」の実物を起点にしていったのでしょうか。

そうですね。「ふくしままっぷ」を最初に見せていただいたとき、ファーストインプレッションで、「これで本当に旅行することってできるかな?」って考えて、それを映像にしてみると面白いかなと。

──「ふくしままっぷ」という名前ではあるものの、読み物として、あるいはポスターのようにも楽しめるデザインで、逆に本当に地図として使うというのは考えたことがなかったです(笑)。

そう、旅をするためのものではないですよね(笑)。でも「道に迷った人がこの地図ひとつを手にしたら、どういう旅になるんだろう?」と思ったんです。原画も見せていただいたんですが、鉛筆で1枚の紙にすごい密度で描かれていて、その1つひとつが全部人の手が作り出し、人の手が守っていくもので、それが風景を作ったり文化を作ったりしているんだと。その感じを映像でも表現できたらと思っていました。

──3日間かけてロケハンをされたそうですが、回る場所はどのように決めたんでしょうか。

福島県の方に「三春の滝桜はぜひ見てほしい」っておっしゃっていただいたのと、主人公にどこかで人とコミュニケーションを取らせたいと伝えたら、秋風舎(しゅうふうしゃ)の志賀さんをご紹介いただいて、その2つは初めからポイントとして押さえていました。あとは「ふくしままっぷ」を見ながら「ここが面白そうなんじゃないか」「このサンショウウオジェラートは食べてみたい」とか言いつつ見て回って、大山祇神社おおやまづみじんじゃだけは本当に山の中で断念したんですが、画面に映ってる場所は全部実際に行きました。けっこう行き当たりばったりでしたが、そのおかげで、ソフィーが福島の風景を見るのと同じような新鮮さで見ることができたと思います。計算ではない出会いを繰り返して、結果的にそこで出会った印象を紡いでいくだけで作品ができていったような感じはありますね。

──秋風舎の志賀さんはイベント会場にもいらしていて、本当にアニメで描かれているそのままの方でしたね。そうやって実際に見たものを取り入れていった?

というよりは……例えばロケハンは9月だったので、三春の滝桜は当然咲いてなかったんですよ。ただ、桜が咲いてない緑の木をぼーっと眺めていたら、想像することはできるなと。花が咲いていない時期だからこそ、花が咲いている風景を思い浮かべるのって素敵だなと思ったんです。

──なるほど。その土地を実際に見ることで、ただリアルに再現できるだけでなく、実際には見えないものも想像できるようになる。

はい。現実の季節では、田んぼが黄金色のとき桜は緑ですし、桜が咲く春には田んぼはまだ土が見えている。でも、黄金色の田んぼと満開の滝桜という、実際には同時には見られないものが、一緒に見られたら素晴らしいんじゃないかと。そんなふうに“想像すること”が、この主人公の、福島という世界を見る目を開かせていくんじゃないかな、と考えたんです。

「ふくふくの地図」より、三春の滝桜。

「ふくふくの地図」より、三春の滝桜。

人が未来を見ているときに、本来あるべき祝福を

──今回回られてみて、改めて福島の土地や人に対して抱いた印象などはありますか?

古いものも新しいものも、眺めるものも食べるものもいろいろあって、そのすべてが福島、という感じがしました。先ほどお話しした通り、ロケハンに来たのが稲刈りの直前で、一番田んぼがきれいな時期だったんですね。黄金色というよりはもっといろんな色をしていて、ところどころに蕎麦が植わっていたりして……これが全部、人の手で耕して、人の手で植えたものなんだと。全部人間が作ったものなんだな、ということに感動を覚えたんです。その感じを「ふくふく」という言葉にも込めたんですが……これは“祝福”の“ふく”なんです。

──その“祝福”というテーマについて、もう少し詳しく聞かせてください。

そもそもは、自分の中で印象に残っていたことがあって。震災で東北が大変だった一方で、3月12日に九州新幹線の開業があったんですよ。そのCM映像が、九州新幹線のテストランを沿線の方たちがみんなで祝福するというものなんですが、それが震災の影響で流れなくなってしまったという話があって。

──JR九州の「祝!九州」のCMですね。放送自粛後、逆にSNSなどで「元気づけられる」と大きな話題になりました。

それが印象に残っていたというか……なんというか、“そうはならなかったこと”も確かにあってしまうんだけども、でも人がこうやって生きて、生活していて、未来を見ているときに、本来あるべき祝福を、今回の映像には込めたいなと。福島というモチーフで制作するとなったときにはもう、今度はそれをやるんだ、っていう気持ちがあったと思います。

片渕須直監督

片渕須直監督

──“祝福”することは、「花は咲く」のタイミングでは難しかったけれども。

そうですね。「花は咲く」では、津波や地震そのものを描かなくても、そこに本来あった生活や人の出会いを実直に描くことで、皆さんに伝わるはずだっていうところを一生懸命やって、その目的は果たせたような気がします。だから今回はその先ですね。震災発生から15年というときに、果たして「祝福です」と言ってしまっていいのかっていうのはもちろんあるけれど、その先を見据えるためには、そういう気持ちをどうしても持ちたかった。今ここで皆さんが過ごしていること、それ自体を祝福しなければいけない。こうして文化をつないで、守って、その上にまた新しいものを築こうとして、何より普通に生活している。そういうものが大事なんだ、それを丸ごと祝福したいんだ、っていう気持ちがあったんです。