松井優征原作による劇場アニメ「劇場版『暗殺教室』みんなの時間」が、3月20日に公開された。同作は2015年1月から2016年7月までに全47話が放送されたアニメ「暗殺教室」の10周年プロジェクト「アニメ『暗殺教室』10周年の時間」の第3弾として公開される新作アニメ。殺せんせーの暗殺期限まで残り15日と迫る中、椚ヶ丘中学校の3年E組の生徒たちが、殺せんせーと過ごした“あなたの知らない3年E組の日々”が描かれる。
コミックナタリーでは劇場アニメの公開を記念した特集を展開。TVシリーズから携わってきた脚本家・上江洲誠と、原画やサブキャラクターデザイン補佐を担当し、今作ではキャラクターデザインを担当した樋上あや、さらに今作の監督を務めた北村真咲、プロデュースを手がけた障子直登の座談会をセッティングした。アニメ「暗殺教室」放送終了から10年、作品に長く携わるスタッフと、劇場アニメで中核を担ったスタッフの視点から、シリーズの歩みと今作の制作秘話を語ってもらう。
取材・文 / 太田祥暉撮影 / ヨシダヤスシ
劇場版にするため、徐々に内容を膨らませた
──今回、TVシリーズ放送終了から10周年というタイミングで、「劇場版『暗殺教室』みんなの時間」が公開となります(取材は2月下旬に行われた)。劇場版のお話を伺う前に、まずTVシリーズに参加されていた上江洲さんと樋上さんに当時の思い出をお教えいただきたいです。
上江洲誠 TVシリーズの当時を振り返ると、僕やアニメーション制作を担当したLercheの面々はまだ駆け出しで、週刊少年ジャンプ作品に憧れるチャレンジャーだったんですよ。そんな中、「暗殺教室」のことが大好きすぎて、どうにかやらせてほしいと直訴したんです。その結果、集英社さんが若手にやらせてみるのも面白いかもと思ったのか、4クールもアニメ「暗殺教室」を預けてくださって……。うれしかったですし、絶対に褒められるような凄まじいものを作るぞ!と熱量を込めて制作しました。
樋上あや 私はまだ動画から原画に上がりたての新人だったんですけど、プロデューサーを務めていた比嘉(勇二)さんが作品に登用してくださって。今でも覚えているんですけど、私が「暗殺教室」で最初にした仕事は、キャラクターの輪郭線を太くすることなんですよ。作画監督さんごとにばらつきがあったので、そこを統一していくという(笑)。そこから第2期では作画監督やサブキャラクターデザイン補佐にまで昇格させていただき、本当に「暗殺教室」には育てられた感覚がありますね。
──一方で障子プロデューサーはTVシリーズ放送当時、フジテレビには入社こそされていたものの……。
障子直登 報道局にいたので、ただの一視聴者でした(笑)。会社のいろんな場所に殺せんせーの姿があることも認識していたのですが、入社1年目だったので目先の仕事ばかりに必死でしたね。でも、もともと僕はアニメ開発部(現アニメ制作部)志望だったので、毎年のように異動希望を出していたんですよ。そうしたら、2021年に異動となり、まさか自分が10周年企画を担当することになるとは……!
──10周年企画として、最初から劇場版は企画されていたのでしょうか。
障子 いや、新しい映像をなんとか作りたい、くらいのふわっとした状態からのスタートでしたね。どれくらいの尺になるかも決まってはいませんでした。ただ、当時のスタッフに制作していただきたい気持ちがあったので、まずは上江洲さんとLercheさんにご連絡して。
上江洲 「暗殺教室」は10周年で何かやるだろうと確信していたので、ついに来たかと思いましたよ(笑)。そこから、新規映像として何ができるのか打ち合わせを重ねていきました。最初はイベント上映や配信で60分程度のものを、という流れになったのですが……。
障子 上江洲さんが「内容が絶対に膨らみますよ」と言い出してくれて。
上江洲 劇場版にしたかったんですよ(笑)。現場の体制を鑑みながら、徐々に内容を膨らませていって……。
障子 僕としても劇場長編にしたいと思っていたので、上江洲さんのアシストにはとても助けられました(笑)。
──その時点ですでに北村監督も参加されていたのですか?
障子 そうですね。どんな方向性にするか固めたタイミングで、Lercheさんから北村監督の名前が挙がったんです。
──北村監督は「暗殺教室」という作品に対して、どのような印象をお持ちでしたか?
北村真咲 僕と「暗殺教室」の出会いは実写映画版だったんですよ。殺せんせーの暗殺計画と一緒に生徒たちの成長が描かれていく、そのテーマの融合が面白いなと思っていました。今回劇場版の監督としてお声がけいただいた際に改めて原作マンガを拝読したのですが……。TVシリーズで卒業まで描いているからこそ、劇場版は探りながらのスタートでしたね。
障子 北村監督が加わってから、原作者の松井(優征)先生のもとへ伺い、制作の許可をいただいて。そこからいろいろなアドバイスをいただきました。
劇場版により“原作のアニメ化”が完全版になった
──北村監督が本作を手がけるうえで立てられた指針についてお教えください。
北村 キャラクターの空気感を大切にすることです。同窓会的なファンサービスはもちろんですが、生徒たちのエピソードがTVシリーズで積み重ねられていたので、その雰囲気をきちんと残すように意識しました。
──北村監督は今回劇場アニメの監督に初挑戦されましたが、TVシリーズとの手応えの違いは感じましたか?
北村 TVシリーズはテンポのいい会話と展開ですが、劇場版はスクリーンならではの臨場感と間合いを意識しました。
──なるほど。そのうえで本作のストーリーについて伺えればと思います。本作のストーリーは、TVシリーズでは描かれなかった原作マンガのエピソードを渚たちが思い返す……という形になっていますよね。
上江洲 TVシリーズで映像化できなかった原作エピソードがあることを、この10年間ずっと、しこりのように感じていたんですよ。なので、最初に新規映像を作るお話をいただいて、真っ先に「未映像化エピソードをアニメにしたい」と提案したんです。僕は原作が大好きだったので、“完全版”が観たかったんですよ。今回の劇場版によって“原作のアニメ化”は完全版となるんじゃないかと。
──10周年というタイミングですから、ともすれば3年E組の1年間をリメイクする……という可能性もあったのかな、と考えたのですが……。
障子 確かに可能性としてはあったと思いますが、2016年に公開された総集編「劇場版『暗殺教室』365日の時間」がすでにありましたしね。それに、上江洲さんから「未映像化エピソードをアニメにしたい」と提案していただいたので、そうするべきだろうと。
上江洲 それからはどのエピソードをどういった順番で並べるべきか検討して……。ただエピソードを並べるだけではなく、感情の流れも意識しながらの構成作業でした。あと、正直な話として、一本の劇場アニメとして観たときに行儀の悪いシナリオであることは自覚しているんですよ。(作品としては)短編集になっていて、長編としてのストーリーはありませんからね。でも、これが一番ファンの望むことだろうと考えて、執筆していました。
障子 短編と短編をつなぐブリッジとして暗殺期限の15日前を描いたオリジナルパートを大事に作って挿入していますが、ここは上江洲さんのお力がなければできなかったと思っています……!
──そうしてストーリーの方向性が決まったことで、樋上さんはキャラクターデザインの作業も開始されたわけですね。
樋上 「暗殺教室」には多くのキャラクターが登場しますが、今回私が担当したのは主に新たに登場するゲストキャラたちなんです。あと、水泳回で登場する生徒たちの新衣装ですね。なので、渚たちのノーマルな姿は、TVシリーズで使用していた設定画をそのまま使用しています。となると、10年前から「暗殺教室」を愛してくださっていた方に懐かしいと感じてもらえるビジュアルにすることが第一です。ただ、今は2026年ですから、少し時代に対応してアップデートもしたいなと。
──例えばどんなところでしょう。
樋上 具体的に言えば、等身やシワのタッチなどのディテールですね。TVシリーズの再放送もあったので、最近「暗殺教室」を知った人も受け入れやすいよう、そういった細やかな箇所を意識しながらデザインを務めていきました。
北村 原作ファンが受け入れやすいように、原作マンガで描かれていたキャラクターたちをアニメ版「暗殺教室」のデザインになじませてほしいと僕からもお願いしましたが、樋上さんの画はお見事でしたね。
樋上 例えば今回初めて映像化された蛍ちゃんは、渚くんと似ているという設定なので、できるだけそっくりになるよう描いていました。でも、渚くんは男子中学生で、蛍ちゃんは女子小学生。その違いが一見してわかるように意識しました。
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“同窓会”の参加者が増えたらいいな

