「ラブミーテンダーにさようなら」などで知られる明生チナミによる初のウェブトゥーン作品「四度目の夫」。「関わると早死にする」と噂される呪われた令嬢・美青と、霊的な存在を一切信じない豪商・基の和風ミステリーロマンスだ。2024年にLINEマンガで連載がスタートし、現在シーズン2まで展開。今夏にはシーズン3が開幕予定だ。
同作はウェブトゥーン産業の発展に寄与した作品を称える韓国のアワード「2025 WORLD WEBTOON AWARDS」で日本人初の受賞を果たした。またコミックナタリー主催のマンガ賞「タテ読みマンガアワード 2025」では国内作品部門2位、事務局特別賞の「演出賞」を獲得。国内外のマンガ界で、今まさに注目を浴びている。
コミックナタリーでは、このたびの受賞を記念して明生にインタビューを実施した。そこで明かされたのは、物語の核ともなるミステリー要素が、実は当初の想定にはなかったという驚きの舞台裏。またもともとヨコ読みマンガを執筆していた明生に、タテ読みを描くにあたっての制作過程の変化について語ってもらった。
取材・文 / ナカニシキュウ
「関わると早死にする」と噂されている伯爵令嬢・藤林美青。これまで結婚してきた夫は全員命を落としており、3人目の夫の葬式で彼女は親族から「あんたが呪い殺した」と責められてしまう。そんな美青のもとに現れたのは、大地主で豪商の富嶋基。彼は亡くなった夫の借金を帳消しにする代わりに、美青と結婚したいと言い出してきて……。美青の“呪い”の正体、そして基が突如結婚を申し出たその理由とは。謎が謎を呼ぶミステリーロマンス。
登場キャラクター
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藤林美青
今では没落した藤林家の令嬢。これまで結婚してきた夫は3人とも全員命を落としており、「関わると早死にする」と噂されている。感情を表に出すことが苦手で、基からの愛情表現も素直に受け取ることができない。時々青い蝶を目にすることがあるが……。
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富嶋基
町の大地主である富嶋家2代目当主。その地位により幼少期から誘拐や暗殺の危機に見舞われ、基本的に他人を信用していない。心霊現象といった類も信じておらず、美青の呪いについても眉唾ものと思っている。
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蔵田
基の秘書。誠実で従順だが、ある事件を起こす引き金となってしまう。
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千代
富嶋家の女中。辰雄の妹。霊力を持っており、時々霊的な存在を目にすることがある。蔵田に恋心を抱いている。
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辰雄
富嶋家の護衛。千代の兄。強い霊力を持っており、憑かれた対象に触れることでその姿を捉えることができる。ものによっては交流や除霊も可能。
ウェブトゥーンが盛んな韓国で認めてもらえて光栄
──明生チナミ先生の「四度目の夫」は韓国の「2025 WORLD WEBTOON AWARDS」で日本人初の本賞を受賞したほか、コミックナタリー主催の「タテ読みマンガアワード 2025」で事務局特別賞(演出賞)と国内作品部門2位にも輝きました。受賞続きとなっていますが、率直なお気持ちとしてはいかがですか?
いやもう、うれしいです。最初に受賞のお話をいただいたときは信じられない気持ちで……タテ読みのマンガを描くにあたって、韓国のウェブトゥーン作品をいっぱい見て勉強するところから始めたので、その韓国で認めてもらえたというのはすごく光栄だなと思いました。
──韓国で評価された要因について、ご自身ではどのように考えていますか?
日本らしい舞台設定や着物などの要素にオリジナリティを感じていただけたみたいです。まさにそこを重視して描いた作品だったので……タテ読みにするかどうかという話の前に、私が大正~昭和にかけての昔の日本映画、例えば「犬神家の一族」のような世界が大好きなので、「そういう作品を描きたい」と小林さん(LINEマンガの担当編集者)に相談していて。それが目を引く要素として興味を持ってもらえたのはとてもうれしいです。
──ウェブトゥーンではあまり描かれない世界観ですし、そこに勝算を見出していた?
そこまでは考えてなかったんですけど(笑)。タテ読み表現の参考にした韓国の作家さんの作品はやっぱりロマンスファンタジーものが多かったので、どうやったら日本らしい要素をウェブトゥーンの画面に落とし込めるかというのは、かなり試行錯誤しました。
──「タテ読みマンガアワード」の受賞についてはどんな思いがありますか?
読者の皆さんの投票で2位に選んでいただけたということが、まず何より光栄です。それに加えて「演出賞」ということで、演出面を評価していただけたというのがすごくうれしくて。自分としてはそこまで演出を意識していたわけではなかったんですけど……ただただ「読者さんが見やすいように」「楽しんでもらえるように」というサービス精神を盛り込んだような形だったので、そこを見てもらえたんだなというのが今すごく自信につながっています。
オカルトは「信じないようにしている」
──そもそも、この「四度目の夫」という作品の着想はどういうところから?
いつもマンガを描くときに根底にある思いが、「読んだ人がちょっと楽しい気持ちになったり、救われる人がいてくれたらうれしい」ということなんです。そのうえで今回は和風ロマンス的な時代を描きたかったので、そこで一番映える主人公はどういう人だろう?と考えました。それで、当時の「女性は結婚しないと生きていけない」という常識に苦しむ人を、現代でも共感してもらえるような形で見せられたらなと。
──主人公の人物像から広げていった感じなんですね。その美青は3人の夫に先立たれて世間から「呪われている」と噂される人物ですが……。
実は、最初はそういう霊的な要素やミステリー要素はそんなに強くなかったんですよ。話を練っていく段階で、ちょっと刺激的な毒も必要かなという話になって、後から盛り込んだような感じです。
──そうなんですね。先ほど「犬神家」の名前なども挙がっていたのでミステリーありきだったのかと思いましたが、オカルト要素は目的ではなく、あくまでも手段なんですね。
そうです。発想の中心は女性の生きづらさを描くことでした。
──ほかに、当初の構想から変わった部分などはありますか?
けっこう変わりましたね。最初はもっとシンデレラストーリーというか、「不幸な女性が富豪に見初められて救われる」みたいな単純な構造を考えていたんです。ウェブトゥーンで流行るのはそういうお話なのかなと考えていたところもあったんですけど、それだけじゃ物足りないなと思って、一筋縄ではいかない人間関係を描くお話になっていきました。
──まさにそこが本作の肝という気がします。「ウェブトゥーンってこういうものだよね」に沿ったものを作るのではなく、「こういう面白さもありますよ」という“提案”がちゃんとありますよね。
わあ、うれしいです。単に楽しませたり驚かせたりというだけではなく、“共感”をなるべく入れられたらなと思いつつやっています。とくにキャラクター作りにおいては、「こういう人いそう」と感じられるバランスが一番大事だと思っていて。
──物語的に都合のいい“型”にハメないようにしている、ってことですよね。
例えばヒーローの富嶋基という人物はイケメンで富豪で仕事もできて、一見完璧な人間のように思えるんですけど、基本的に他人を信用していなくて、霊的なものもまったく信じていない。超常現象をすべて現実的に理解できる範囲内のものに置き換えてしまうから、霊的な話がまったく通じなかったりするんです。
──人を信用していないわりに、美青への執着だけが異常に強かったり。
そこらへんもアンバランスさですね(笑)。イケメンをただイケメンとして描くだけだと共感できないので、「いるよねこういう人」と思えるように、ちゃんと嫌なところも描くようにしています。主人公の美青にしても、ただ環境に流されるだけの人物ではなく、ちゃんと自分の意思を持って行動できるキャラクターにしたいなと思って作りました。
──とくにお気に入りのキャラクターは?
自分に似てるなと思うのは、基ですね。私も幽霊や占いなどをまったく信じてないタイプなので(笑)。
──なるほど(笑)。
といっても信じている方を否定する意味ではなくて、自分が左右されすぎちゃう人間だとわかってるから、信じるのをセーブしているんです。
──「四度目の夫」は霊的な存在が物語のキーになっていますが、霊を信じないチナミ先生がその要素をどう作品に落とし込んでいるんですか?
「信じない」というか、信じていないほうが生きやすいから「信じないようにしている」というほうが正しくて。超常現象的なものをまっすぐに信じられる人はロマンがあってすごくいいなと思うので……。
──ということは、オカルト好きになっていた世界線もあり得るから、そっちの自分を引っ張り出してきて描いている感覚だったりするんでしょうか。
それはあるかもしれないですね。「避けている」というのは「興味がある」の裏返しですから。エンタメ要素のひとつとして、楽しんでもらうための仕掛けとしてオカルト要素は入れていきたいなと考えています。霊能力バトルをしてくれる辰雄なんかは描いていてすごく楽しいですね。というか、無骨な感じの子はだいたい描くのが楽しい(笑)。
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恋するキャラクターは思いどおりに動いてくれない


