「タテ読みマンガアワード 2024」開催記念座談会

タテ読み形式のマンガっていつ日本にやって来たの? 有識者3人がこれまでとこれからを語る

「タテ読みマンガアワード 2024」開催記念座談会、タテ読みの歴史に詳しくなろう

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「タテ読みマンガアワード」の意義とは

──そうなってくると、コミックナタリーの「タテ読みマンガアワード」の意義とは?という話にもなってきそうですが……。

飯田 (笑)。いや、むしろ意義はめちゃくちゃあると思いますよ。これまでいろんなマンガのアワードでタテ読み作品がノミネート対象にならないとか、なっていてもあまりフィーチャーされない時代がかなり長かった。タテ読みだけを対象にしたアワードが成立するなんて、という衝撃はありますね。

北室 私は今回「タテ読みマンガアワード」が開催されると聞いて、うれしかったんですよ。タテ読みを描く作家さんを増やしたいという思いがずっとあるんですけど、「スタジオに所属しないといけないのかな」とか「不倫・復讐・悪役令嬢を描かなきゃいけないのかな」みたいなイメージを持たれている方が、今でもかなりいらっしゃいます。「そんなことないよ」と誤解を解く意味でも、こうやってタテ読みにスポットを当ててもらえて、実態を知ってもらえる機会があるのは本当にありがたいことだなと。

飯田 売り上げのランキングとはまた違う軸で評価される場があるというのも、すごく大事なことだと思います。

北室 先ほど飯田さんがおっしゃっていたように、タテ読みマンガってマンガ賞とかにはなかなかノミネートされないですよね。なんでだろうって常々思っているんですけど……だから「『タテ読みマンガアワード』に作品がノミネートされたよ」って作家さんに伝えたら、「わあ! 初めて!」ってすごく喜ばれました。「マンガとして認められた感じがする」って。やっぱりメダルがほしいじゃないですか。実際にメダルを獲れるかどうかはさておき、これまではレースに参加することが難しかったですから。

福井 そもそも僕がタテ読みマンガを大好きになったポイントは、画面の横幅が一定に限られている空間でどれだけ演出していくかを作家さんたちがすごく研究して工夫していたところなんですね。音楽でいう12小節のブルースみたいなもので、決まったコード進行の中でいかに心を震わせる演奏ができるか、みたいな。その創意工夫の精神にほれ込んだのが最初だったんで、このアワードを通じて多くの人が同じようにタテ読みの可能性を感じてもらえたらいいなと思います。

北室 私は「ナレの部屋」という作品がきっかけでタテ読みにハマりました。今でいうコミックエッセイなんですけど、ナレちゃんがずっと日常生活を送っているだけのマンガなんですね。ああいう作品がもっと増えてほしいんですけど、現状のタテ読み業界では課金してもらうのが難しそうだなとも思っています。

飯田 そもそも韓国のタテ読みマンガの第1世代って、そういうエッセイトゥーンとか日常トゥーンと呼ばれるジャンルの人たちだったんですよね。そういう作品を描く人たちは常に一定数いるんですけど、日本にはあまり入ってこないんです。月刊アフタヌーンとかに載っていそうなインディーマンガも韓国ではいっぱい描かれているんですけど、これも入ってこない。本当はいろいろあるのに「タテ読みマンガはジャンルが偏っている」と思われやすいのは、事業者が課金を重視しているビジネスモデルを採用していることもあるし、日本側の今の読者の需要の問題もあります。

福井 先ほど北室さんから「1つ売れるものが出てくると、大勢がそっちに傾く」という話も出ましたが、そこで自分の好みとは違う作品が並んでいてタテ読み全体を「違う」と思い込んでしまう可能性があるのは、すごくもったいないですよね。飯田さんがおっしゃったように、いろんなパターンの作品があっていろんなタイプの読者が楽しめるという状況が本来は望ましいんです。韓国でも、初期の頃は絵があまりうまくないけどストーリーが面白いタイプの作家がタテ読み界を牽引してきたわけで、日本でも同じように、絵も描いたことないような人が「タテ読みを描いてみよう」と思ってほしい。それが北室さんのおっしゃった「タテ読み作家を増やす」ということにもつながりますし。

北室 そうですね。もちろん大規模なスタジオ体制で作るタテ読みのよさもありますけど、「そうじゃなきゃタテ読みは作れない」という誤解は早く解けてほしいです。

福井 その意識を変えることで、日本の新しいタテ読み文化を作っていってほしい。そのためのコンテストにしてほしいと思います。

タテ読みの作家を増やすためにはタテ読み編集者を育てないといけない

北室 タテ読み作家を増やすためには、タテ読み編集者も増えなければいけないと思っていて。今の日本には、個人作家に対応できる編集者の数が圧倒的に足りていません。プロデューサーやディレクターはけっこう育っていて、スタジオでの制作体制はどんどん整ってきているんですけど、個人で描く作家を取り巻く環境はあまり整備されていない。

飯田 韓国でも歴史的には同じような問題があって、そもそも韓国には日本のマンガ編集のような仕事をする人があまりいなかったんです。雑誌マンガが元気だった時代も1つの雑誌を3人とかで回していたんで、1人の作家に1人ないし複数の編集者がつく日本のマンガのようなクオリティコントロールはできないわけですよ。基本的に作家任せで、場合によっては「こういうものを描け」とオーダーすることしかやってこなかった。

北室 なるほど……。

飯田 「NAVER WEBTOON」が成功した要因の1つは、「挑戦漫画」という自由投稿システムを導入したことなんですね。作家が自由に投稿して、人気が出た作品はベスト挑戦に昇格し、そこで一定のペースや分量で連載できると確認できたら公式作家に昇格させる。要は編集者がいなくても連載が成り立つ仕組みを作ったわけです。その後タテ読みマンガが課金モデルに変わっていったことでようやく編集者的な存在(PD、プロデューサー)を雇えるようになるんですが、それまではそもそも日本の編集者のように作品のクオリティに深く関わる第三者がいなかった。その点、comicoが最初にタテ読みを始めたときに編集者というものをつけたのは、日本ローカライズとしてはすごく正しかったと思いますね。

北室 最初はいなかったんですよ。comicoの立ち上げメンバーは誰も編集なんてやったことなかったし、「やれ」と言われてすぐにできるものでもないですから。私自身も当初は受け取った作品をアップロードするだけのアップローダーという意識でいましたし……。ただ、有料化するにあたって「ちゃんと売れるものを、ちゃんと編集者のもとで作りたい」という作家さんの声があって、「じゃあやってみる!」と言って右も左もわからないまま始めたんです(笑)。いろんな編集部の方に話を聞きに行き、編集者がどんな仕事をしているのかを学び、「全員やり方違うやん!」ということを知り……。

福井飯田 (笑)。

北室 なので、たぶん日本初代のタテ読み編集者かもしれません!

福井 タテ読みの編集って、1人で10作品ぐらい同時に見なきゃいけないですよね? そうしないと回らないんで。もともと横組みマンガの編集をやっていたすごく優秀な人がタテ読みに移って、「10作品も見ていたら編集者としてやるべきことを全うできない」と悩んで辞めてしまったという話なんかも聞きます。

北室 たしかにヨコ組みの編集者と比べたら関わる本数が多い分、1本だけに注力できないというのはおっしゃる通りです。だからこそ“タテ読みの編集者とはどうあるべきか”というのを考えて、自分のやり方を独自に見いだしていった感じですね。

福井 それ、どういうものなんですか?

北室 私の場合は“オール作家さん合わせ”ですね。作家さんが10人いたら10通りのやり方で対応する。それが私の見つけ出したスタイルです。

福井 この記事を読んでいる皆さん、これすごく大事な話ですからね。物理的に難しいことをどう考えてどう実現していくかっていうのは、タテ読みマンガ業界でめちゃくちゃ望まれるスキルです。

北室 (笑)。

福井 そうやって、何も知らなかった人が面白い作品を作ってくれるようになるのはうれしいですよね。この「タテ読みマンガアワード」が、そんなふうにがんばった人を褒めてあげられる機会になったらいいなと思います。

飯田 さっき「韓国ではタテ読み編集者が構造的に生まれにくかった」という話をしましたけど、「従来の日本のマンガが培ってきた、作家と編集者が1対1で作るノウハウをタテ読みにも生かしていこう」という動きも国内ですでに始まっています。ジャンプTOONとかを見ても新人の個人作家の作品がいっぱい載っていますし、あと5年もすればこれまでとはまた毛色が違うタイプの面白くて売れる作品もポコポコ出てきそうだなと感じています。

北室 プラットフォーマーの方々が挑戦を諦めないでほしいですよね。売れるジャンルの作品だけを仕入れることは、しないでほしいなと思います。

飯田 それで言うと、日本のデジタルコミック市場ではストア系と出版社系のすみ分けが確立されているのが面白い。LINEマンガやピッコマ、コミックシーモア、めちゃコミとかのストア系はすでに人気のある作品をプロモーションコストかけてさらにドーンを売り伸ばすのが圧倒的に得意ですが、逆にド新人やド新作はなかなかプッシュされづらい。だけど、出版社系のマガポケとかジャンプ+、チャンピオンクロスなどは新人や新作を猛烈にプッシュして作品を育てる。そうやってある程度人気が出ればストアもプロモーションしやすくなる。たぶんジャンプTOONがやりたいのはそういう分業モデルを前提にして「才能を見つけて、育てる」に注力することなんじゃないかなと思って見ています。

福井 雑誌と書店の関係がそのままデジタルに移った感じですよね。

飯田 この感じでやれるのであれば、今のタテ読みマンガが抱えている問題も少しずつ解決できていくんじゃないかなと思っています。……今日は話の流れ上ものすごく個人作家推しみたいな感じになってしまいましたが、国内外のスタジオ制作作品を軽んじているわけではなく、個人的にも面白いと思って連載を追っている作品はたくさんあります。そちらも応援しています!

北室 そう! リスペクトしていますので!

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yumetaro @yumetaro

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