ステージナタリー Power Push - KAAT神奈川芸術劇場プロデュース「ルーツ」

杉原邦生×松井周

集団と個、そして人間たちの復権の物語

まつり縫いをほどくか、ミシンがけするか

──また、杉原さんは2014年上演のKUNIO11「ハムレット」では新訳によるシェイクスピア戯曲に、2015年上演のKUNIO12「TATAMI」では現代の劇作家・柴幸男さんの書き下ろしに挑戦するなど、ご自身の創作に対し、毎回テーマや課題を設定されています。今回はどのような挑戦を考えていらっしゃいますか?

杉原 シェイクスピアや歌舞伎の演目って、ある種どーんとしたドラマがあって、そのダイナミズムを掴まえて、繊細さを加えていくというのが僕のやり方なんです。でも松井さんの作品はそうじゃなくて、細かい心理描写を重ねていくことで大きなうねりみたいなドラマが生まれてくる。だから僕も、いつもとは逆の物語の捉え方をしなきゃいけないなって。あと、柴くんは淡々と物語を重ねる上で見えてくるものがある本なんだけど、松井さんのはもうちょっとネチネチしているっていうか……。

左から松井周、杉原邦生。

松井 あははは!

杉原 縫い目が厄介というか(笑)。柴くんの本が並縫いで続いていく本だとしたら、松井さんはまつり縫いをずっとしているみたいな本なんです。

松井 その例え、すっごくわかりやすい!

杉原 (笑)だから、そのまつり縫いを僕は1回ほどいちゃったほうがよいのか、それともまつり縫いの上からミシンでガガガ!って縫っちゃったほうがいいのか……まだ僕も答えを見つけてないんです。それと、今回はお客さんをいかに共感させていくかが大事じゃないかと思っていて。群像劇だから誰か1人に共感させるのではなく、全員のお客さんが登場人物全員に共感するようなものにしたくて。「ああ、この考え方もあるな、その考え方もあるな」っていうふうになったら面白いと思ってるんですね。まだもやっとしてますけど。

松井 いや、わかりやすいよ。

杉原 そうですか? あと、やっぱり新しいキャストと新しい作家、そしてスタッフもほとんどが初めましてな人たちなので、彼らと自分のやり方をどう共有しながら作品を作っていくかが大きな課題ですね。そういう意味では、ハードルが少し高めかなとは思っています。

──松井さんは、これまで蜷川幸雄さんや松本雄吉さんに脚本提供されていますが、今回特に意識したことはありますか?

松井 今回は演出っていう視点をほとんど持たないで書いてます。ぼんやり頭に浮かんだシーンをそのまま書き連ねているので、それをどうつなげるんだろう? 演出的にはどうするんだろう?って思ってはいるんですけど(笑)。

杉原 上演を想定した台本ではないです。読みながら“上手にこれがあって、下手がこうで”……みたいにはまったくイメージできないっていうか。普通の人が読んでも舞台装置は思いつかないかもしれない。

松井 あははは、確かに。でも一応僕、脚本提供するときは、わかりやすくというのも変ですけど、なるべくスパスパっとシーンを分けるように書いているんです。じゃないとシームレスにシーンをつなげてしまうくせがあるので。……と言いつつ、書き始めると結局ぐにゃぐにゃしてきちゃうんですけど。でも結局それが自分だし、あまりにわかりやすくしてしまったら、杉原さんに「それ、本当に松井さんがやりたかったことですか?」って言われそうですから(笑)。今回、僕の一番の興味は、さっき杉原さんが群像劇っておっしゃったけれども、ある集団を大きな生き物と捉え、その中に異物が入ってきたとき、その生き物にどういう混乱があるのか、それを咀嚼するのか、吐き出すのかみたいなこと。それが集団と個の関係でも、あるいは1人の人間の中の出来事でもいいんですけど、それを描きたいと思っています。

ストレスを溜める美術に

──サンプル作品では、戯曲と美術が深いつながりを持っていて、作品に対して美術が持つ意味合いがとても重要です。今回は杉原さんが美術も手がけられますが、現在どのような構想を持っていますか?

杉原 先日、稽古初めに出していたプランを、全部なしにしたんです。僕、“全なし”って稽古の過程で毎公演1、2回あるんですよ。だから自分でも「やっぱり出たな」って思ったんですけど(笑)。今想定しているのは、中央に舞台があって、客席が四方を囲み、全部2階建てになっている空間プラン。マウス実験をみんなで覗き込むじゃないけど、1つの集団の行く末をみんなで観る感じにできたら面白いかなと思っています。けど、本番では全然違っているかもしれません(笑)。

松井 それ面白い。どうしてそう変わっていったの? その嗅覚を演出家として知りたいな。

杉原 最初は劇中に橋が結構出てくるので、大きな可動式の橋を用意したんですよ。当初、作品タイトルが「川(仮)」だったから“流れ”というイメージもあって、客席も対面式で……と思ってたんですけど、稽古するうちにその美術だと閉鎖的な感じがしなくてどんどん流れて抜けて行っちゃうというか、観客や登場人物、あるいはこの鳴瀬っていう土地のストレスが全然溜まっていかない感じがして。あと単純に橋が邪魔だなって(笑)。

松井 ああー。

杉原 それで思い切って発想を変えたんですけど、演出家としてはそういうストレスの多い環境でいかに観客を芝居に集中させるか、ってハードルは高くなりますね。

──松井さんも、稽古の過程で美術がガラリと変わることはありますか?

松井 ありますね。(サンプルの美術を手がける)杉山(至)さんが自ら「ちょっと違うかな」と言うこともあるし、美術によっては俳優が物理的に立てない坂の上に立たなきゃならない場合もあるので、そういうときは途中で変えたりすることもありますね。本を読んで最初のイメージで考えることと、現場で実際に動いてみて知ることではかなり違うし、現場のほうが信じられるんです。

杉原 それはそうですね。

人間の存在意義を奪還する

──先ほど、仮タイトルが「川」だったというお話がありましたが、最終決定された「ルーツ」には、どのような意味が込められているのでしょうか?

左から杉原邦生、松井周。

松井 もともと川がある集落っていうイメージがありまして、その川の源流をたどるということ、さらに集落の歴史とか個人の過去、あと人間の祖先を遡った古細菌ってところから「ルーツ」というタイトルが浮かびました。でも歴史ってある程度はフィクションというか、“勝者の歴史”じゃないですか。それを信じて生きていこうと思う人もいれば、デタラメだと思う人もいて、そのどちらの感覚も僕は信じられるなと思って。で、その2つの感覚がぶつかる地点という意味で、「ルーツ」。でも僕自身はルーツに疑問があるというか、“アンチルーツ”なんですけどね……。

杉原 僕は「ルーツ」と聞いて、最初にラップグループのThe Rootsを思い出しました(笑)。字面もカッコいいし、いろんなイメージがわいて、いいタイトルだなと思いましたね。

──そんな人間の源流に迫る「ルーツ」。「ドッグヴィル」ではラストに大どんでん返しがありますが、「ルーツ」はどんな結末を迎えるのでしょう?

松井 大どんでん返しという感じではないかな。

杉原 ではないですよね。でも「あ、そうなんだ!」っていう驚きはあるんじゃないかな。

松井 「ドッグヴィル」はラストで外部からものすごい逆襲があるけれど、「ルーツ」は内部崩壊していく感じ。あと「ドッグヴィル」の最後には人間同士のゴタゴタと無関係な犬が登場しますが、「ルーツ」では人間関係に嫌気がさした人が、動物の世界に憧れてコスプレするっていうか……。

杉原 ああ(笑)。でも僕は「ルーツ」にも人間の逆襲が描かれていると思ってて。鳴瀬という土地にはカッパやクマのカミなど“神様”と呼ばれる存在がいますが、もともとそれらは人間が作り出したものなんですよね。なのにいつの間にかそれらに人間が支配されて、人間の存在そのものが脅かされていたりもする。そういう存在に成り下がってしまった人間たちの復権というのかな。人間が作ったものに人間が逆襲するというか、曖昧になった人間の存在意義を奪還するような。そんな世界観を描けたらと思っています。

KAAT神奈川芸術劇場プロデュース「ルーツ」2016年12月17日(土)~26日(月)神奈川県 KAAT 神奈川芸術劇場 大スタジオ
KAAT神奈川芸術劇場プロデュース「ルーツ」
  • 脚本:松井周
  • 演出・美術:杉原邦生
キャスト
  • 石田圭祐、猪股俊明、内田淳子、金子岳憲、北川麗、洪雄大、中山求一郎、成田亜佑美、南波圭、新名基浩、能島瑞穂、長谷川洋子、日髙啓介、山崎皓司 / 銀粉蝶
杉原邦生(スギハラクニオ)
杉原邦生©堀川高志

1982年東京生まれ、神奈川県茅ケ崎育ち。京都造形芸術大学 映像・舞台芸術学科在学中に自身が様々な作品を演出する場としてプロデュース公演カンパニー“KUNIO”を立ち上げ。これまでにイヨネスコの「椅子」や、上演時間が約8時間半にも及ぶ大作「エンジェルス・イン・アメリカ」の第一部・第二部を連続上演している。2008年から2010年には、こまばアゴラ劇場主催の舞台芸術フェスティバル「舞台芸術フェスティバル<サミット>」ディレクター、2010年から2013年まではKYOTO EXPERIMENTフリンジ企画のコンセプターを務めた。近年の演出作に、KUNIO11「ハムレット」、KUNIO12「TATAMI」、木ノ下歌舞伎「黒塚」、「三人吉三」(2015年読売演劇大賞上半期作品賞)、「勧進帳」などがある。

松井周(マツイシュウ)
松井周©平岩享

1996年、青年団に俳優として入団。青年団若手自主企画公演を経て、2007年に劇団サンプルを旗揚げ。作家・演出家としての活動を本格化させる。2011年「自慢の息子」で第55回岸田國士戯曲賞を受賞。「パイドラの愛」(サラ・ケイン作)、「火の顔」(マイエンブルグ作)など海外戯曲の演出も手がけ、、2010年上演のさいたまゴールドシアター「聖地」(蜷川幸雄演出)、2014年上演の新国立劇場「十九歳のジェイコブ」(中上健次原作、松本雄吉演出)など、脚本提供でも注目を集める。小説やエッセイ、TVドラマ脚本などの執筆活動、CMや映画、TVドラマへの出演なども行う。