ここでは、「秀山祭」に出演する、歌六と又五郎以外の播磨屋の俳優たちを紹介。又五郎の長男・中村歌昇は、端正な容姿を生かした二枚目から、播磨屋らしい大きさを感じさせる荒事までこなす立役。「金閣寺」で十河軍平実は佐藤正清、「土蜘」で番卒次郎、そして親子共演の「車引」では梅王丸を勤める。又五郎の次男・中村種之助は、身体能力とリズム感に優れ、舞踊や立廻りを得意とするが、近年は歌昇とタッグを組み、女方として愛らしい女房役を勤めることも多い。「金閣寺」では松永鬼藤太、「車引」では三つ子の末っ子・桜丸を初役で、「連獅子」では間狂言で僧蓮念を演じる。歌六の長男・中村米吉は、かれんで儚げな風貌の女方だが、演技には役の持つ意思の強さがにじむ。「金閣寺」では、女方の大役である三姫の1つ、雪姫に初役で挑むほか、「土蜘」の間狂言で巫子榊を勤める。
さらに、2022年の「秀山祭」の「寺子屋」で初舞台を踏んだ歌昇の長男・中村種太郎、次男・中村秀乃介は、「土蜘」にそろって出演する。種太郎は凛々しい太刀持音若を勤め、秀乃介は間狂言で、可愛らしい石神実は小姓四郎吾を演じる。
さらに吉右衛門の弟子たちも活躍。幼少期から吉右衛門の元で修業を積み、立役として活躍する中村吉之丞は、「土蜘」では碓井貞光、「一本刀土俵入」では船戸の弥八を担う。長年播磨屋の舞台を支えてきたベテランの中村吉三郎や、立役の中村吉兵衛、今回の「秀山祭」の「土蜘」の卜部季武と「車引」の金棒引藤内で名題昇進披露をする中村吉二郎。そして歌六一門より中村蝶八郎、中村蝶也、又五郎一門より中村蝶十郎、中村又之助、中村蝶三郎が出演。吉右衛門の熱い思いを受け継いだ、播磨屋一門の芝居を観ながら、吉右衛門をしのぼう。
黙阿弥が手がけた舞踊「土蜘」「連獅子」
今月は河竹黙阿弥作(作詞)の「土蜘」と「連獅子」、ともに能を原作とする舞踊が昼夜で上演される。
「土蜘」の初演は明治14(1881)年6月新富座。黙阿弥と数々の作品でタッグを組んできた五代目尾上菊五郎の、祖父三代目菊五郎の三十三回忌追善のために書かれたものだ。五代目の芸の上での良きライバルだった九代目市川團十郎の家の芸に能仕立ての「勧進帳」があり、尾上家としても対抗して松羽目ものを……と注文して作られ、明治における代表的な舞踊劇となった。千筋の糸の演出も、金剛流の能役者が考案したものを五代目が研究し、歌舞伎に伝わったものである。
「連獅子」の初演は文久元年(1861)5月、両国中村楼の座敷で、黙阿弥と協力して幕末から明治の劇界に名振付師として活躍した花柳寿輔の実子、芳次郎の名披露目に父子で踊ったとされる(杵屋勝三郎作曲)。それを本興業にのせたのは、明治5(1874)年7月村山座で上演された「浪花潟入江大塩(なにわがたいりえのおおしお)」の劇中劇であった(三世杵屋正治郎作曲)。六世尾上梅幸著「梅の下風」には、五代目尾上菊五郎の口伝として「お前達は頭で毛を振らうとばかり考えて居るから目が眩むのだ。此毛は腰で振らなければ振れるものではない」とある。
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